キュレーションはプロバイダ責任制限法で守られているのか?

2016/12/19-1

日経ビジネスオンラインの「DeNA転落の起点 買収と譲渡、2つの過ち」という記事に、以下のような文章がありました。

そもそも、ウェブは「コピペ」や「パクリ」で汚れていた。

ライターやブロガーが汗水を垂らして記事を書き、ネットに公開しても、そこから得られる収入は薄利。無報酬のブロガーも多い。キュレーション勢は、そうした記事を寄せ集め、検索エンジン最適化(SEO)という技法を用いて巨大なアクセスを生み、一次情報の発信者を尻目に収益化していった。ライターやブロガーが権利を訴えたところで、著作権法が定める「引用」の印籠をかざされるだけだ。

引用の範疇を超えた明らかな著作権法違反だとしても、キュレーション勢には「プロバイダ責任制限法」という第2の印籠がある。責任は記事の投稿者にあり、掲載したサイトは指摘があってから削除すれば責任を免れるといった法律だ。だが実際には削除申請の手続きが煩雑で、泣き寝入りする既存メディアやライター、ブロガーは多い。キュレーション勢への鬱屈した憤りは臨界点に達しつつあった。

さて、「第2の印籠」と表現されているプロバイダ責任制限法ですが、特定電気通信役務提供者であれば、誰もがどのようなことをしても「賠償の責めに任じない」わけではありません。 プロバイダ責任制限法を根拠に「うちはプラットフォームなので悪いのは投稿者です」と必ずしも言えない場合もあるのです。

プロバイダ責任制限法の正式名称は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」ですが、損害賠償責任が制限されているからこそ、キュレーションを行っている主体が「私には賠償責任がありません」と言えるのです。 もし、キュレーションを行っている主体がプロバイダ責任制限法の条件を満たしていなければ、その主体の運用手法はプロバイダ責任制限法に該当せず、その主体が直接賠償責任を負うということになります。

総務省に質問しました

前回、「プロバイダ責任制限法と賠償責任」という記事を書いたのですが、もう少し調べてみようと思い、総務省消費者行政第二課に電話で聞いてみました。

質問1

まず最初に、第三条にある「当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない」について聞いてみました。たとえば、キュレーションを行っている主体が、クラウドソーシングなどのサービスを使ってリライトライターと呼ばれるライターに、他のコンテンツをコピペして改変するような行為を続けていた場合には、プロバイダ責任制限法によって守られない事例といえるのかという質問です。

頂いた答えは、あくまで個別事情によるため、直接的にそれが該当するかどうかといった断定はできないとのことでしたが、場合によってはプロバイダ責任制限法の適用の対象外となる可能性があるそうです。

質問2

次に、第三条の一と二にある「他人の権利が侵害されていることを知っていたとき」もしくは「当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある」の意味について聞いてみました。どういう場合に「知っていた」もしくは「知ることができた」となるのでしょうか。

頂いた答えは、それらが想定している意味は、被害者からプロバイダに向けて連絡が来たことを「知っている」というものでした。その連絡が行けばプロバイダが確認するはずです。そういった請求を受け取った後にあえて放置している場合を想定しているのが、第三条の一と二であるとのことでした。被害者からの連絡を受け取った後もあえて放置している場合は、損害賠償請求の免責が認められない可能性があるそうです。なお、プロバイダ責任制限法は、プロバイダが自らパトロールして権利侵害情報がないかを確認することまでは求めてはいないとのことです。

感想

本件に関する個人的な感想ですが、「キューレーション」を行っている主体が自らクラウドソーシングサイト等でリライトライター等に記事発注を行った場合は、プロバイダ責任制限法の免責が認められず、サイト運営者が直接損害賠償責任を負う可能性がありそうです。

その一方で、「全体のうち約33.7%(3本に1本)にあたる違反記事を日々削除している」という、NAVERまとめの場合(参考:なぜ無断転載された側に手間を要求?「NAVERまとめ」の“トンデモ”削除対応、理由を聞いた)は、NAVER自らがまとめを記事を作っているのではなければ、被害者からの請求を受け取って適切に処理をしているのであればプロバイダ責任制限法の適用されると解釈できそうです。ただし、被害者からの請求を受け取った後も、あえて権利侵害情報を放置し続けた場合には、プロバイダ責任制限法の適用の対象外となり、直接損害賠償責任を負うことになるのかも知れません。

さて、権利侵害に対する賠償責任はどうなるかですが、プロバイダの賠償責任が免責される一方で、サイト投稿者の責任が免責されるわけではありません。プロバイダ責任制限法の第一条を見ると、以下のようにあります。

この法律は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利につき定めるものとする。

「プロバイダの損害賠償責任制限」の部分が着目されがちですが、「発信者情報の開示を請求する権利」を規定したものでもあるのです。権利侵害を行われた被害者は、プロバイダから侵害を行った発信者情報の開示を請求することで、発信者に対して損害賠償を行うためのステップがプロバイダ責任制限法であるという考え方もできそうです。

さらに、たとえば、プロバイダとなるサイトが何からの報酬を発信者に提示しており、その報酬を受け取るために権利侵害を行っていた場合には、プロバイダには責任が発生しない一方で、発信者は「お金のために権利侵害行為を行った」という判断が裁判所で下されることもあるかも知れません。

この記事を書いていて、もうひとつ思ったのが、キュレーションを行っている主体が賠償責任を負うかどうかは、最終的には裁判所の判決次第という部分もありそうだということです。 裁判が行なわれている時点の法律では主体とは明確には言い難い場合であっても、裁判所が主体であると判断したり、幇助であると判断することも日本では発生し得るかも知れません。 たとえば、カラオケ法理、FLMASK、Winnyの判例があります。 そういった判例が増えることは、個人的には好きではありませんが、そういった可能性がゼロではないとも言えそうだという感想です。

参考

発信者情報開示関係ガイドラインなど、プロバイダ責任制限法に関連する情報は、以下のサイトを御覧ください。

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