RFC系統図で見るIPv6の変化
これまで何度か、IPv6が今も変化し続けている発展途上なプロトコルであるという話を書いてきましたが、その変化をどのように追えるのかに関しては、紹介していませんでした。
今回は、IPv6がどのように変化しているのかに関するイメージを持っていただくために、IPv6に関連するRFCの廃止や更新を紹介します。
IPv6に関する最初の仕様が決まったのが1995年ですが、そのときに発行されたIPv6関連の主要なRFCが、RFC 1883 から RFC 1886の4つです(1809と1881もありますが、それらは今回は割愛)。 それらのRFCは、IPv6に関する根本的な仕組みを示したものでした。
IPv6の根本的な仕様を示すRFCとして、1996年に発行されたRFC 1970もあります。IPv6のNeighbor DiscoveryのRFCです。
1995年に発行されたIPv6に関する4つのRFCと、1996年に発行されたNeighbor DiscoveryのRFCは、今は他のRFCによって廃止されています。 その派生を追うと、IPv6仕様がどのように変化しているのかを追えます。
今回は、それら5つのRFCを含め、IPv6で変化が発生しているRFCの系統図を作ってみました。 IPv6仕様を追うときの参考になれば幸いです。
IPv6本体
まず最初にIPv6本体に直接関連するRFCの系統図です。
IPv6本体の仕様は、1995年にRFC 1883が発行され、1998年に RFC 2460が発行されることでリニューアルされています。
- RFC 1883: Internet Protocol, Version 6 (IPv6) Specification(1995年)
- RFC 2460: Internet Protocol, Version 6 (IPv6) Specification(1998年) obsoletes RFC 1883
RFC 2460が発行された後もIPv6本体に関連する議論は続きます。この記事を執筆している時点で、IPv6本体のRFCを更新する形で発行されているRFCは9個です。最も多いのがIPv6拡張ヘッダに関連するものです。
- RFC 5095: Deprecation of Type 0 Routing Headers in IPv6 (2007年) updates RFC 2460
- RFC 5871: IANA Allocation Guidelines for the IPv6 Routing Header (2010年) updates RFC 2460
- RFC 6564: A Uniform Format for IPv6 Extension Headers (2012年) updates RFC 2460
- RFC 7045: Transmission and Processing of IPv6 Extension Headers (2013年) updates RFC 2460
- RFC 7112: Implications of Oversized IPv6 Header Chains (2014年) updates RFC 2460
IPv6フラグメントに関連する更新も2個あります。
- RFC 5722: Handling of Overlapping IPv6 Fragments (2009年) updates RFC 2460
- RFC 6946: Processing of IPv6 "Atomic" Fragments (2013年) updates RFC 2460, RFC 5722
残りの2個は、IPv6フローラベルとIPトンネル利用時のUDPチェックサムのRFCです。
- RFC 6437: IPv6 Flow Label Specification (2011年) updates RFC 2460
- RFC 6935: IPv6 and UDP Checksums for Tunneled Packets (2013年) updates RFC 2460
この記事を執筆している時点では、IPv6本体の仕様を示すRFCは RFC 2460です。 しかし、IPv6仕様などを議論するIETFの6man WGでは、RFC 2460 を見直す議論が進行中です。
RFC 2460を見直すためのInternet Draftは、現在IESGによる「AD Evaluation」という状態にあり、近いうちにRFCとして発行されると思われます。このことからも、いまもなおIPv6仕様が変化し続けていることがわかります。
IPv6 Jumbogram
RFC 2147は、IPv6基本仕様を示したRFC 1883をupdateするRFCとして発行されましたが、その発行から2年後にRFC 2675によって廃止されます。
RFC 1883がRFC 2460によって廃止されるときに、RFC 1883に含まれていたIPv6 Jumbogramに関する記述が削除され、別のドキュメントしてRFC 2675にまとめられたのです。
- RFC 2147: TCP and UDP over IPv6 Jumbograms(1997年) obsoleted by RFC 2675
- RFC 2675: IPv6 Jumbograms
IPv6のAddressing Architecture
128ビットのIPv6アドレスをどのように利用するのかに関して示したIP Version 6 Addressing Architectureも議論が続いています。
関連するRFC一覧です。
- RFC 1884: IP Version 6 Addressing Architecture (1995年) obsoleted by RFC 2373
- RFC 2373: IP Version 6 Addressing Architecture (1998年) obsoleted by RFC 3513
- RFC 3513: Internet Protocol Version 6 (IPv6) Addressing Architecture (2013年) obsoleted by RFC 4291
- RFC 4291: IP Version 6 Addressing Architecture (2006年)
- RFC 5952: A Recommendation for IPv6 Address Text Representation (2010年) updates RFC 4291
- RFC 6052: IPv6 Addressing of IPv4/IPv6 Translators (2010年) updates RFC 4291
- RFC 7136: Significance of IPv6 Interface Identifiers (2014年) updates RFC 4291
- RFC 7346: IPv6 Multicast Address Scopes (2014年) updates RFC 4291
- RFC 7371: Updates to the IPv6 Multicast Addressing Architecture (2014年) updates RFC 4291
現時点でIPv6 Addressing Architectureの標準となっている RFC 4291 も、近い将来廃止される予定です。 RFC 4291を廃止するためのInternet Draftが、この記事を執筆している時点でIESGによるAD Evaluation状態になっています。
ICMPv6
ICMPv6は、IPv6を構成する非常に重要な仕組みです。
IPv4のICMPはどちらかというと障害検知などで利用されることが多のですが、IPv6でのICMPv6はIPv6アドレス自動設定など、IPv6を運用するうえで直接利用するプロトコルという性格が強くなっています。
- RFC 1885: Internet Control Message Protocol (ICMPv6) for the Internet Protocol Version 6 (IPv6) Specification
- RFC 2463: Internet Control Message Protocol (ICMPv6) for the Internet Protocol Version 6 (IPv6) Specification(1998年) obsoletes RFC 1885
- RFC 4443: Internet Control Message Protocol (ICMPv6) for the Internet Protocol Version 6 (IPv6) Specification(2006年) obsoletes RFC 2463
- RFC 4884: Extended ICMP to Support Multi-Part Messages(2007年) updates RFC 4443
SLAAC
IPv6アドレス自動生成で利用されるSLAACも議論を経て変わってきました。
- RFC 1971: IPv6 Stateless Address Autoconfiguration(1996年) obsoleted by RFC 2462
- RFC 2462: IPv6 Stateless Address Autoconfiguration(1998年) obsoleted by RFC 4862
- RFC 4862: IPv6 Stateless Address Autoconfiguration(2007年)
- RFC 7527: Enhanced Duplicate Address Detection(2015年) updates RFC 4862
Neighbor Discovery
IPv4におけるARPの仕組みも提供しているIPv6 Neighbor Discoveryも変更が多いプロトコルです。
- RFC 1970: Neighbor Discovery for IP Version 6 (IPv6) (1996年) obsoleted by RFC 2461
- RFC 2461: Neighbor Discovery for IP Version 6 (IPv6) (1998年) obsoleted by RFC 4861
- RFC 4861: Neighbor Discovery for IP Version 6 (IPv6) (2007年)
- RFC 5942: IPv6 Subnet Model: The Relationship between Links and Subnet Prefixes (2010年) updates RFC 4861
- RFC 6980: Security Implications of IPv6 Fragmentation with IPv6 Neighbor Discovery (2013年) updates RFC 4861
- RFC 7048: Neighbor Unreachability Detection Is Too Impatient (2014年) updates RFC 4861
- RFC 7527: Enhanced Duplicate Address Detection (2015年) updates RFC 4861
- RFC 7559: Packet-Loss Resiliency for Router Solicitations (2015年) updates RFC 4861
IPv6サポートのためのDNS拡張
www.example.comのような「名前」は、現在のインターネットで非常に重要な仕組みです。
インターネットで使われる「名前」に対してIPv6を関連付けるには、DNS仕様の拡張が必要でした。 1995年に発行されたRFC 1886は、IPv6対応を行うためのDNS仕様の拡張を規定しています。
RFC 1886は、2003年にRFC 3596によって廃止されています。
- RFC 1886: DNS Extensions to support IP version 6 (1995年) obsoleted by RFC 3596
- RFC 3596: DNS Extensions to support IP version 6 (2003年)
IPv6 Node Requirements
IPv6ノードが満たすべき仕様を示したRFC 4294は、RFC 6434によって置き換えられています。
- RFC 4294: IPv6 Node Requirements(2006年) obsoleted by RFC 6434
- RFC 5095: IPv6 Node Requirements(2007年) updates RFC 4294
- RFC 6434: IPv6 Node Requirements(2011年)
IPv6フローラベル
IPv6フローラベルは、IPv6の基本仕様に含まれていますが、それをどのように使うのかに関して、長く議論が続きました。
- RFC 3697: IPv6 Flow Label Specification (2004年) obsoleted by RFC 3697
- RFC 6437: IPv6 Flow Label Specification (2011年)
他にも色々あります
今回は、IPv6そのものに直接関係するRFCを中心に変化を紹介しました。
IPv6に関連するRFCは他にも多数ありますが、いままさに議論中のものもあります。 たとえば、IPv6でのルーティング、IPv6アドレス選択、IPv4/IPv6共存技術などに関連するRFCを今回紹介していません。
IPv6に関連する資料が非常に多いことも、IPv6がややこしいと思える要因かも知れません。
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