ルートサーバへのIPv6アドレス追加が表面化させたIPv6インターネットの断絶
3月26日に、CルートDNSサーバに「2001:500:2::c」というIPv6アドレスが追加されました。 13系統あるルートDNSサーバのうちのひとつである、c.root-servers.netは、これまでIPv4のみでの運用が行われていましたが、IPv6を使ってc.root-servers.netとの通信も行えるようになった形です。
しかし、この新たな設定によって、IPv6インターネットの断絶状態が表面化しています。 新たに設定された「2001:500:2::c」というIPv6アドレスまで到達できないネットワークが色々あったのです。 この話は、米国のdns-operationsメーリングリストで話題になりました。
そもそも、インターネットに接続しているからといって、インターネット上の全てのネットワークと通信ができるとは限りません。 インターネットでは、ある地点からある地点に対して到達性が無いということが割と普通にあります。 それぞれ、大手Webサイトなどとは普通に通信が行え、特に問題無くインターネットに繋がっているように見えても、凄くマイナーな場所同士は繋がらないというのは別に珍しくもありません。 このように、インターネットはところどころ断絶しています。
そのため、「あ、ここへと到達できないのか。。。」という場所を発見したら、それに対処するために途中経路上の組織や、その相手に連絡をして問題を解消しようとするのもISPの通常業務の一部です。
今回は、c.root-servers.netというインターネットの根幹を成す仕組みの一部へ、IPv6で到達性が無いということが話題になったわけですが、それを受けて日本国内のインターネット技術者メーリングリスト(JANOG)でもこの話題が登場しています。 そこでは、そもそもIPv6で到達性が無いネットワークが存在するのは、c.root-servers.netだけではなく、f.root-servers.netやi.root-servers.netも同様であるという指摘も投稿されていました。
米国のdns-operationsメーリングリストであるように、c.root-servers.netに対してIPv6で到達不能なネットワークが発生している主な原因は、Cogent社とHurricane Electric社が接続されていないためです。 両社とも、ISPに対してインターネット接続性を提供するインターネットプロバイダですが、Cogent社が世界最大級の規模を持つTier 1であるのに対して、Hurricane Electric社はIPv6で勢力を伸ばしている自称「Tier 1 IPv6バックボーン」であるという見方もできます(HE社がIPv6では世界最大規模のインターネットプロバイダであることは事実です)。 Hurricane Electric社としては、無償で互いに接続するピアリングをCogent社に求めているわけですが、現在はそういった契約で互いに接続されているわけではないという状況です。
IPv6におけるこの断絶は、つい最近こういう状況になったというわけではく、以前からそうでした。 参考までに、2009年時点のCogent vs Hurricane Electricの話題をご覧下さい。
- NANOG: IPv6 internet broken, cogent/telia/hurricane not peering
- Data Center Knowledge: Peering Disputes Migrate to IPv6
なお、これはプロトコルとしてのIPv6の起因する話ではなく、IPv6だからこういった問題が起きているという話ではありません。 IPv6においてもIPv4と同様に、営利企業同士の競争がインターネットの断絶が発生するということが表面化した事例のひとつに過ぎません。
過去に、IPv4においても類似する事例が話題になったことはありました。 IPv4の事例は、今回のように「たまたま表面化した」という生易しい話ではなく、交渉が決裂したためにピアリング状態が解消されてしまって、インターネットが断絶状態になってしまったというものもあります。
特に不自由せずにインターネットを利用していると、インターネットに接続しているネットワーク同士は互いに通信できるのが当然であるように錯覚しがちですが、c.root-server.netに対してIPv6で通信ができないネットワークが各所に存在しているという今回の事例は、IPv6においてもインターネットは各所で断絶しているということを改めて示しています(IPv6の方がIPv4よりも断絶具合が顕著かも知れませんが)。
インターネットそのものが構成される仕組みって、結構生々しくて面白いので、興味がある方は是非、BGP・ピアリング・トランジットあたりの話を色々と調べてみて頂ければと思う今日この頃です。
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