総務省「WCIT-12に関する説明会」参加メモ
昨日、総務省で開催されたWCIT説明会に参加してきました。 どういった提案が行われていて、警戒すべき提案の例などが紹介されていました。
説明会資料は、近いうちに総務省のWebサイトにて公開されるとのことでした。 2時間の説明会では、この記事で書いている話以外にも色々と紹介されていたので、後日公開される総務省の公式資料をご覧になることをお勧め致します。 世界の各地域毎の提案内容も総務省WCIT情報Webページで公開されているので、興味のある方は是非ご覧下さい。
以下、以前、私が書いたブログ記事で書けていなかった情報のうち、興味を持ったものを中心に書いてます。
追記
WCIT-12の結果については以下のインタビュー記事をご覧下さい。
WCIT開催の背景等
- ITUは幕末ぐらいから続く歴史ある会議。
- 1988年に、電信に関する条約に対して電話に関する規定を融合する形で現在のITRが作られた。
- 4年に一度ITU会議があり、ITR改正に関する議論が行われて来たが改訂のためのWCIT開催を行うという意見が増え、開催しないという意見がついに負けた
- インターネットに規制を入れようという意見が増え、規制への機運が高まった
- ITUの構成国は現在193カ国
- ITRはITU憲章条約を補完するものであり、既に批准しているITU憲章条約そのものを再度批准するわけではないので、国会での承認が必要とせず、日本にも影響を与える
- ITU憲章において、電気通信についての国家の主権が幅広く認められている。
- 第34条 電気通信の停止では、構成国が国内法令に従って国の安全を害するとすると認められるものなどを停止できるとある。
- 第37条 電気通信の秘密では、秘密を守るといつつも、権限のある当局に通報する権利を留保するとある。
ロシアの提案の一部
ロシアの提案は、国家にとって不都合であれば規制が可能であると解釈できる提案をしています。 さらに、「他国の安全を脅かす」という条件が入っているので、この内容がそのまま決定してしまうと、他の国に対してITRを根拠に「我が国の安全を脅かしているのでネット規制を行うべき」と主張できてしまうのではないかと思いました。
(総務省説明会配布資料に記載された日本語訳)
(1) 加盟国は、国際電気通信サービスが内政干渉、主権国家安全保障・領土保全・他国の安全の侵害を目的として利用される場合や、機微な性質をゆうする情報の漏洩のために利用される場合を除き、公衆による国際電気通信サービスに対する制約のないアクセス及び制約のない利用を保障しなければならない。
(2) 加盟国は、電気通信事業者が国際電気通信サービスの提供時に正当に加入者を特定することを保障するとともに、国際電気通信ネットワークにおける発信者情報の適切な処理、伝送及び保護を確保しなければならない。
中国による提案と、APT共同提案
説明会では、ITUが地域毎に意見を集約することを推奨していることや、日本がAPT(アジア太平洋地域)で地域提案を行っていることが説明されました。 さらに、中国からの提案がAPT地域提案とならずに、よりマイルドな表現に変更する努力が行われたことも紹介されました。
中国の提案はAPT地域を代表するものとはならず、中国が単独で提出する提案という形になりました。 以下、中国提案(新設:第5A条、提案222)です。
(総務省説明会配布資料に記載された日本語訳)
(1) 加盟国は、ネットワーク攻撃及び妨害に対抗するための国際協力を推進するため、国内の情報通信設備のネットワークセキュリティの保護に対する責任及び権利を有する。
(2) 加盟国は、領域内の企業に大使、ICTを合理的な方法で使うように要求及び監督を行い、安全で信頼できる条件でICTが効果的に機能するように努力する責任を有する。
(3) 情報通信ネットワークにおける利用者情報は尊重され保護されるべきである。加盟国は、領域内の企業に対し、利用者情報の安全を保護するよう要求及び監督を行う責任を有する。
以下が、APT共同提案(新設:第5A条、提案226)です。
(1) 加盟国は、ネットワークに対する技術的障害を回避するための国際協力の促進のために恊働すべきである。
(2) 加盟国は、自国の領域内の電気通信事業者に対し、ネットワークセキュリティの確保のために適切な措置を講じるよう奨励すべきである。
Web事業者に影響しそうな話
Google、Yahoo!、AmazonなどのWeb事業者に影響がありそうな提案もあるようです。
第2条(定義)の14A 2.1Aに対するアラブ地域提案(CGW/4/48)は、以下のように「including processing」という表現を含んでいます。 「処理」を含むということは、たとえば検索エンジンやオンラインショップも、情報通信の一部としてITRに記述された内容によって規制される可能性が指摘されていました。
Telecommunication/ICT: Any transmission, emission or reception, including processing, of signs, signals, writing, images and sounds or intelligence of any nature of wire, radio, optical or other electromagnetic systems.
さらに、ETNO(欧州電気通信事業者協会)からの提案も、正式に採用された場合、Web事業者(もしくは大規模コンテンツ事業者)に大きな影響を与える可能性がありそうです。 ETNOの提案は、課金に関するものです。 従来のインターネットでの料金負担ではなく、電話が通話開始を行った側が料金負担するように、送信側ネットワーク料支払いの原則を尊重するように求めるものです。
ETNO提案(3.2、提案116)
事業体は、国際電気通信業務の要件及び需要を満たすための十分な電気通信手段を提供するように努める。この目的及び広帯域通信インフラへの投資に十分な収益を確保するために事業体は電気通信業務の公正な保証の持続可能な仕組みを実現させる商業協定を取り決め、適当な場合には、送信側ネットワーク料支払いの原則を尊重しなければならない。
ETNO以外にも、課金に関する提案が色々あります。
興味がある方は、各種資料をご覧になることをお勧めします
WCIT開催が近づくにつれて、WCITに関する公開情報が徐々に増えているように思えます。
現行ITRsの文章など関連する文書は結構多いのですが、話題となっている論点も多いので、興味のある方々は各種資料をご覧になることをお勧め致します。
WCITで、どのように条文が決定されていくのか?
説明会の質疑応答で、WCITにおける会議がどのように勧められるのかや、どのような方法で条文が決定されていくのかに関する質問や回答がありました。
ITUの方式は全会一致であるため、極端な提案に決定することはないのではないかという質問に対する回答は以下のようなものでした。
- ITUの意思決定方法のrule of procedureに投票という方法も制度的にはあります。
- 事務局長は投票にうったえることはしないと明言しています。
- ITUは幕末からあるが、投票によって決定したことがありません。
- 条約の35条に、「賛同を得られなかったら、できるだけ過半数の意見につとめなければならない」とあるので、空気を読まずにいつまでもやっていると条約違反になってしまう可能性があります。
- 事務局とは別に議長が会議の進行をしきっています。
- 議長の権限が非常に強く、どのように判断してコンセンサスを得るかに関して裁量の余地があります。
- 投票には至らないが、議長が勝手に判断することがあり得ます。
- ITU条約 第32条のBに「留保」という規定があります。留保したい国は留保できるので、そうすれば良いとなり、決定する可能性はあります。
第32条のB 留保
32B.3 代表団は、業務規則の改正に係る決定であって、当該改正に拘束されることについての自国の政府による同意を妨げる性質を有すると認められるものに関しては、当該改正を採択する会議の終了の際に、暫定的又は確定的に留保を付することができる。そのような留保は、当該改正について権限のある会議に参加しない構成国らか最終文書に署名するための権限を第三十一条の規定により委任された代表団が、当該構成国に代わって付することができる。
議論があまりに紛糾して、12月の会議(WCIT-12)で決定しない場合には何が起きるのかを質問してみましたが、12月に決定しなければ、その時点では1988年の状態のままになるとのことでした。 ただし、セキュリティやローミング、インフラ整備投資に関しては、何らかの決定がされることが望ましいと事務局が考えているようであるとのことでした。
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追記
12月3日:「国連がインターネットを規制する」と話題のWCIT-12開始
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