4月中にAPNICのIPv4アドレス在庫が枯渇しそう

2011/4/4-1

2月の始めにIPv4アドレスの中央在庫であるIANA在庫が枯渇しましたが、日本が所属するアジア太平洋地域のAPNICにおけるIPv4アドレス在庫が、そろそろ枯渇しそうです。

IANAにおける「枯渇」は、256個ある/8ブロックの在庫が全て割り振りされてゼロになることでした。 APNICにおける「枯渇」は、「ゼロになること」ではなく「IPv4アドレスの残りが/8ブロック1個分になること」です(参考)。 その時期は、今の情勢で行けば恐らく4月中旬頃なりそうです。 要は、あと2週間ぐらいでAPNICにおけるIPv4アドレス在庫は「枯渇」しそうです。

APNICにおけるIPv4アドレス在庫に関してのデータは「APNIC's IPv4 pool usage」で公開されています。

そこで公開されている/8ブロックの残りを見てみると、4月3日時点で1.78個分となっています。 これが1を下回ると「APNICにおける枯渇」となります。 APNICで公開されている過去2週間のIPv4アドレスAPNIC在庫状況は以下のようになっています。


APNIC's IPv4 pool usage(2011年4月3日時点)より

どこに割り振りられているのか?

APNICによる割り振りは、全て公開されています。

ftp://ftp.apnic.net/pub/stats/apnic/delegated-apnic-latest

これを見ると、どのような割り振りが行われているのかがわかります。 大小様々な割り振りが日々行われていますが、ここでは最近行われた大きい割り振りに注目してみようと思います。

2011年に入ってからの100万個以上のIPv4アドレス割り振りを列挙すると以下のようになっています。

IPv4アドレスIPv4アドレス数Prefix長割り振り日
中国101.80.0.01048576/1220110103
中国101.144.0.01048576/1220110111
中国36.192.0.02097152/1120110111
インド101.208.0.01048576/1220110114
インドネシア36.64.0.02097152/1120110114
中国36.16.0.01048576/1220110117
中国36.96.0.02097152/1120110117
台湾36.224.0.01048576/1220110120
中国36.128.0.04194304/1020110124
韓国42.16.0.01048576/1220110128
韓国42.32.0.01048576/1220110128
台湾42.64.0.01048576/1220110211
中国42.128.0.01048576/1220110216
中国42.160.0.01048576/1220110216
中国42.208.0.01048576/1220110216
中国42.224.0.01048576/1220110217
日本153.128.0.08388608/920110228
インド171.48.0.01048576/1220110303
中国171.208.0.01048576/1220110304
ベトナム171.224.0.02097152/1120110304
日本106.128.0.04194304/1020110315
インド106.192.0.02097152/1120110317
中国106.16.0.01048576/1220110318
中国106.32.0.01048576/1220110318
中国106.80.0.01048576/1220110318
中国106.224.0.01048576/1220110321
韓国106.240.0.01048576/1220110328
パキスタン韓国39.32.0.02097152/1120110328
韓国39.16.0.01048576/1220110330
中国39.64.0.02097152/1120110330
中国39.128.0.04194304/1020110401

中国への割り振りが非常に多いのがわかります。

「何でバンバン割り振るの?」に関して

IPv4アドレスの在庫が急激に減少する状況下で「APNICがバンバン割り振りをしてしまっている」という批判もチラホラ目にしますが、個人的には色々と難しい面もある気がしています。 それは、APNIC(日本の場合はJPNICを通してですが)が判断できる範囲が限られているためです。

事業者側が「私はこういったビジネスプランを持っており、これだけのIPv4アドレスが必要です」と言った時に、必要なIPv4アドレス数に関しての試算そのものが破綻しているわけではなければ「あなたのビジネスプランは成功するとは思えません」とAPNIC側が言えるわけではないためです。 APNICはビジネスが成功するかどうかを判断する組織ではないので、IPv4アドレスの申請そのものに不備がなければ受け入れるしかなさそうです。

巨大な組織であれば「私にはこれだけのユーザがいるので必要です」と主張できますし、「私がこれから行う新規サービスは立ち上げ時点で○○○万ユーザを収容する予定です」とも主張できます。 一方で、あまり大きくない組織は「これだけのIPv4アドレスを下さい」と申請しても説得力がある説明を行うのが難しそうです。 そういう意味で、IPv4アドレスの最後の争奪戦は資本力がある組織に有利なルールと言えそうです。

NTT Communicationsが約800万個、KDDIが約400万個を取得

2011年に入ってから100万個以上のIPv4アドレスを取得した日本企業は2社です。 800万個取得したNTT Communicationsと400万個取得したKDDIです。



apnic|JP|ipv4|153.128.0.0|8388608|20110228|allocated
(NTT Communications)

apnic|JP|ipv4|106.128.0.0|4194304|20110315|allocated
(KDDI)


ソフトバンクは?

NTT、KDDIが登場していると、日本国内のもう一つのキャリアであるソフトバンク系も気になりますが、ソフトバンクBBが2005年2月時点で126.0.0.0/8(約1600万個のIPv4アドレス)を取得して話題になっていました。 また、それ以外にも割り振りが行われています(もちろん、NTTとKDDIも今回の/9、/10以外にも過去にと割り振りを受けています)。

このように、日本の通信キャリア3社は、ある程度のIPv4アドレスを保持していることがわかります。

ところでマイクロソフトがIPv4アドレスを購入したのは何だったの?

そういえば、先日マイクロソフトがIPv4アドレスを購入しようとしているというニュースがありましたが(参考:IPv4アドレス66万個が750万ドル。マイクロソフトがNortelから)、現時点で特に大きな対価を払わずにARINからIPv4アドレス割り振りを受けられるかも知れないのに、何故わざわざIPv4アドレス売買が行われたのかが不思議に思えて来ました。。。

ということで、ARINのデータも見てみました。

マイクロソフトのIPv4アドレス売買の背景となっているのかどうかは良くわかりませんが、ARIN(北米、及びカリブと北大西洋地域のRIR)が公開している情報を見てみると、APNICとは多少状況が異なるようです。

ftp://ftp.arin.net/pub/stats/arin/delegated-arin-latest

まず、2011年に入ってから100万個以上のIPv4アドレス割り振りを受けた組織はAPNICほど多いわけではなく、AT&Tの関連会社と思われる2社が400万個のIPv4アドレス割り振り(/10)を受けただけです(APNICは2011年1月1日〜4月3日で31カ所に100万個以上のIPv4アドレスを割り振り)。

一方「MICROSOFT」というキーワードでARINのwhois検索をした結果、2011年にマイクロソフトが登録しているIPv4アドレスは/28と/29という小さなものだけでした。

  • 2011年3月15日に/28 (参考)
  • 2011年1月19日に/29 (参考)

2011年以前にもいくつかマイクロソフトがIPv4アドレスを取得していますが、大きいものは2004年の/16と2010年の/24という規模であり、66万個と比べると小さいのがわかります。

目前に迫るIPv4アドレス枯渇

IANA在庫が枯渇し、アジア太平洋地域RIRであるAPNIC在庫が枯渇しようとしています。 APNIC枯渇以降、APNICにおける割り振りに関してのルールが変化し、申請可能なIPv4アドレスブロックは以前よりも小さくなります。 しかし、割り振りそのものは継続されるため、そのうちAPNICが持つ最後の/8ブロック1個分が全てなくなるという状況が発生します。 それ以降は、IPv4アドレスの新規割り振りをアジア太平洋地域で受ける事ができなくなるため、各事業者が保持するIPv4アドレスが枯渇し始めます。

各事業者が持つIPv4アドレス数は事業者毎に異なるため、それぞれの事業者の枯渇は同時に発生することはありませんが、ユーザへの影響が表面化するのはその頃だろうと思われます。

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