IPv4アドレス枯渇。その意味と恐らくこれから起きること
今のインターネットはIPバージョン4で動作していますが、そのIPv4で各機器を識別するためのIPv4アドレスが遂に事実上枯渇しました(参考)。 長年「枯渇する」と言われ続けていましたが、それが遂に現実の物となりました。 ここでは、IPv4アドレス枯渇とは何かと、それによって何が起きるのかを紹介します。
IPv4アドレス枯渇に関して、アナログ放送の停波と地デジへの移行や、原油枯渇と似たようなものであるような認識が多く見られますが、個人的にはIPv4アドレス枯渇後のIPv4アドレスのアナロジー(類比)としては相撲の親方株の方が近い気がしています。
まず、アナログ放送の停波と地デジへの移行ですが、アナログ放送は2011年7月に一斉に停止します。 しかし、IPv4アドレスの場合は、ある日突然IPv4が使えなくなるわけではなく、今まで使っているIPv4アドレスはそのまま使い続けられるという意味でアナロジーとしてアナログ放送の停波とは大きく異なります。
原油枯渇とIPv4アドレス枯渇もアナロジーとして適切ではないと個人的に感じています。 石油は使うとなくなってしまいますが、IPv4アドレスは使い続けるものであり、利用することによって「消費」されるものではありません。
IPv4アドレス枯渇って何?
では、IPv4アドレス枯渇とは何でしょうか? 非常に単純に言ってしまうと、「これ以上IPv4によるインターネットが拡大できなくなる」というものです。
今までのインターネットは、新規ユーザが参加したいと言ったときに新しいIPv4アドレスを割り当てて対処してきました。 IPv4アドレスの在庫が存在していたので、ユーザが増える分だけ新しくIPv4アドレスも割り当てが行える状態が今まで続いていました。
しかし、IPv4アドレスが枯渇したことによって新規在庫がなくなってしまいました。 これまでは新規ユーザが増える度に「IPv4インターネット」も拡大できましたが、IPv4アドレス数の上限に達してしまったため、数に限りがあるIPv4アドレスの範囲内で新規ユーザに対処しなければならなくなります。 これは、限られた空間の中にドンドン新しいユーザを詰め込むようなもので、ユーザが増えれば増えるほど一人あたりのIPv4アドレス数が減るという状態です。
問題は、世界中で今後どれだけインターネットユーザが増えるかですが、2010年時点でのインターネット普及率は、世界全体で28.7%となっています。 北米は今後急激には成長しないと思われますが、その他の地域は今後も成長を続けるものと思われます。
世界のインターネット普及率 2010年版(Internetworldstatsより)
IPv4アドレス枯渇後もインターネットユーザ数は増え続け、IPアドレスの需要も増加します。 上限が来てしまったIPv4空間を、今より多いユーザが分け合って使わなければならなくなります。
本当の枯渇は今年中期〜後半
「IPv4アドレス枯渇」と一言で言っても、何が枯渇なのかは文脈によって異なります。 今回の枯渇は「IANA(Internet Assigned Numbers Authority)在庫の枯渇」であり、一般のユーザに影響が出るのは、まだもう少し先の話です。
IANA在庫の枯渇のアナロジーとしては「IPv4アドレス製造工場で製造中止された状態であって、問屋と小売店には、まだIPv4在庫が残っている」という感じかも知れません(IANAはIPv4アドレスを作っているわけではないので製造工場というよりも巨大倉庫ですが、そこら辺は愛嬌ということで許して下さい)。
IPアドレス管理の階層構造
インターネットのIPアドレスは一意であることが求められます(エニーキャスト、プライベートIPアドレス、マルチキャスト、その他特殊用途は除く)。 そのため、誰がどこでどのようなIPアドレスを使うかに関して、世界で一元的な管理が行われています。 管理は、IANAを頂点とする以下のような階層構造で行われています。
IANAは、全てのIPv4アドレスを256個に分けて管理しています。 IPv4アドレスの1/256は「/8ブロック」と呼ばれ、世界5地域を代表するRIR(Regional Internet Registry,地域インターネットレジストリ)へと割り振られます。
RIRは、NIR(National Internet Registry,国別インターネットレジストリ)やLIR(Local Internet Registry)の要求に応じて、IANAから受け取ったIPv4アドレスを割り振り、在庫が少なくなるとIANAに「おかわり」を要求するという流れで今までIPv4アドレスの割り振りが行われていました。 IPv4アドレスのIANA在庫が枯渇することによって、RIRは、これ以上新規/8ブロックを受け取れなくなります。
今回、IANA在庫が枯渇しましたが、IANA在庫最後の/8ブロック5個は自動的に世界5つのRIRに割り振られることが決まっており、各RIRは「最後の/8ブロック」を受け取ります。 さらに、過去の経緯から細切れのまま未割り振りとなっていた「Various」とされるアドレスが/8ブロック7.4731個分ありますが、それらも各RIRに割り振られます(各RIRは1.69462個分を「Various」から割り振られます。188.0.0.0/8を2009年時点で受け取ったRIPE-NCCには0.69462個分)。
このIANA在庫枯渇の瞬間に各RIRが受け取った/8ブロックは、最後の/8ブロック2個を割り振られたAPNICが4.6942個、LACNICとAfriNICとARINがそれぞれ2.6942個、RIPE-NCCが1.6942個となります。
IANA在庫枯渇の次に来る枯渇が、各RIRでの枯渇です。 IPv4アドレス枯渇後も、各RIRはNIRやLIRに対してIPv4アドレスを割り振って行きますが、そのうちRIRの持つ在庫も枯渇します。 枯渇の順番としては、IANA在庫枯渇→RIR在庫枯渇→NIR在庫枯渇→LIR在庫枯渇となります。
IPv4アドレス枯渇のタイミングに関して最も参照されているpotaroo予測も、IANA在庫枯渇のタイミング予測から、RIR在庫枯渇のタイミング予測へと切り替わります。
IPv4アドレス枯渇の影響を真っ先に受けるのが日本などのアジア太平洋地域
RIRでのIPv4アドレス在庫枯渇は、世界5カ所で別々に発生しますが、日本は世界で最も速く最終的なIPv4アドレス枯渇に遭遇するであろう地域にいます。
(続く:次へ)
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