IPv4アドレス枯渇。その意味と恐らくこれから起きること(2)
日本を担当するNIRであるJPNICは、独自にIPアドレスの在庫を持たず、必要に応じてAPNICの在庫から割り振りを行っているため、APNICが持つIPv4アドレスの在庫が枯渇すれば、IPv4アドレスの割り振りができなくなります。 そのため、日本国内に対するIPv4アドレス枯渇はAPNICのIPv4アドレス在庫枯渇とほぼ同時です。
日本が参加しているAPNICには中国とインドも参加していますが、中国はここ数年急激にインターネットユーザ数を増やしています。 InternetWorldStatsで公開されている資料によると、2010年時点で中国のインターネット普及率は31.6%です。 人数にすると推定4億2千万人ですが、これは世界のインターネット人口の約2割です。 しかも、まだまだ凄い勢いで中国のインターネットユーザは拡大しています。
中国のインターネット普及率(InternetWorldStatsより)
このような背景があり、中国やインド(2010年時点のインターネット普及率は6.9%)をはじめとするアジア太平洋地域は5つあるRIRのうち最もIPv4アドレス割り振りスピードが速くなっています。 割り振りスピードが速いというのは、世界5つのRIRのうち、真っ先にIPv4アドレス在庫が切れるのが恐らくAPNICになります。 このため、「アメリカを見習ってから何かをする」という良くあるパターンが通用しない可能性があるので注意が必要です。
逆に、世界で最もIPv4アドレス枯渇到来が遅いのがアフリカのAfriNICになりそうです。 今のpotaroo予測を見る限り、2014年か2015年頃にはAfriNICのIPv4アドレス在庫も枯渇しそうです。 そのため、IPv4アドレス枯渇の緊急性が最も低いのもアフリカ地域なのかも知れません。 また、アフリカ地域はそもそもインターネット普及率が低いので、IPv4を全く使わずに最初からIPv6をベースとしてインターネットを構築出来る可能性もあります。
IPv6への移行と「二つのインターネット」
IPv4アドレス枯渇への対策として挙げられるのがIPv6への移行です。 IPv4とIPv6には互換性はないので、IPv4を使っている世界中のユーザにIPv6へと移ってもらうというものです。 ただ、今のインターネットはIPv4であり、ほとんどのユーザがIPv4を使っているため、IPv6への移行は非常に長い期間(たとえば10年以上?20年以上?)をかけて行われるものと思われます。
その間は、同じIPv4アドレスを複数人で使いながら密度がどんどん上昇するIPv4が継続して利用される一方で、IPv6も利用されるという「IPv4とIPv6によるデュアルスタック環境」になります。 IPv4とIPv6には互換性がないので「二つのインターネット」が存在している状態です。
インターネットをレイヤー分けして考えると、これまでのIPv4だけのインターネットは以下のように表現できます。 IPを表す第3層(ネットワーク層)だけプロトコルが単一で、それ以外は全て複数のプロトコルが存在しています。 IPの部分だけが単一になった砂時計のような形です。
このように、「IP部分はIPv4だけ」という前提で設計されているソフトウェアや環境は世界中に溢れています。 IPv4考案当初はコンピュータも今よりも遥かに非力で、32ビットが表す空間は当時としては無限のような大きさであったのだろうと思います。
しかし、インターネットが普及し、一人で何個ものIPアドレスを利用するような使い方が当たり前になったのでIPv4のアドレスが足りなくなってしまいました。 そこでIPアドレス空間が大きいIPv6への移行が提案され、今までは単一であることが前提であった「IP」が一つから二つへと変わろうとしているのが、IPv4アドレス枯渇とIPv6への移行です。
そして、砂時計は以下のような形に変化します。
現時点で、もう既にIPv6のインターネットは存在しています。 日本国内では、様々な事情により、まだIPv6サービスを開始できていない事業者が多いのですが、今後IPv6対応は増えて行きます。 一般のインターネット利用者も、サーバやネットワークの管理者も、通信が関連するプログラムを書くプログラマも、「1つが前提」であったIP層が「二つ存在しているデュアルスタック環境」になることを意識しなければならない場面が増えそうです。
今後、一般家庭での論理的な接続形態は以下のようになります。 各家庭では、ISPを通じてインターネットへと接続するための機器であるCPE(Consumer Premise Equipment、モデムやSOHOルータなどの機器の総称)を通じてIPv4とIPv6の両方のインターネットへと接続するようになるでしょう。
上記図では、CPEを通じて二つのインターネットへと接続していますが、これは論理的な概念図であり、実際の物理的な接続としては、ユーザ機器とCPE間は一つの物理回線(無線や有線などでの接続は1つでCPEと繋がっている状態)となります。
このように、一般家庭への配線だけを考えれば、結局は一つの回線の中にIPv4とIPv6の両方のパケットが流れるだけであり、物理的には全く同じ通信路やトポロジになる部分も多いです。 また、ネットワークの向こう側に存在するWebサーバなどの各種サーバは、IPv4とIPv6両方で接続できるように設定されると思われるので、全く異なる二つのインターネットが出来るというよりは、「実体は同じもしくは非常に近い要素が混在している二つのインターネット」という形になるのではないでしょうか。
ということで、「二つに分離する」というのは、ちょっと言い過ぎな部分もありますが、要として一つだったものが二つに増えるというインパクトは小さくはありません。 今までは、インターネットを構成しているIPは一種類であることを前提としていたものは色々あるので、それが二つに増えるというのは色々とややこしい話があります。
IPv6への移行と、IPv4アドレス枯渇対策は似て非なる物
IPv4アドレス枯渇というコンテキストで良く語られているIPv6ですが、IPv4アドレス枯渇対策とIPv6への移行は狭義では、全く別の話であるというのが最近の私の主張です。
(続く:次へ)
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