ソーシャルメディアが急激に衰退する可能性
ソーシャルメディアを急激に衰退させる可能性があると指摘されている法案SOPA(Stop Online Piracy Act)が、米国で通りそうな雰囲気になりつつあります(そもそもインターネット全体に影響を与えるという意見もありますが、今回はソーシャルメディアに絞って書いています)。 SOPAは、今年10月に米国下院で紹介されましたが、おおまかな特徴として以下のようなものがあります(上院では似たような内容であるPROTECT IP Actがあります)。
- 著作権侵害コンテンツを含むサイトへのアクセス遮断をISPに命令できる(DNSブロッキングなどによってISPが通信を遮断するようになる)
- 著作権侵害コンテンツへの資金提供を停止させる(GoogleなどのAdネットワークや、PayPalやVisaなどに対して、著作権侵害コンテンツを含むサイトとの取引停止命令を出せるようになる)
- 検索エンジンの検索結果から著作権侵害コンテンツを含むサイトの削除を命令できるようになる
- 著作権侵害コンテンツのホスティングだけではなく、著作権侵害コンテンツへのリンクも対象
SOPAは、米国外にある著作権侵害コンテンツを含むサイトへの、米国からのアクセスを遮断するというものです。 MPAA(Motion Picture Association of America)やRIAA(Recording Industry Association of America)などによるロビー活動が行われているとされています。
なぜSOPAによってソーシャルメディアが衰退するのか
今まで、米国内にあるソーシャルメディア企業は、DMCA(Digital Millennium Copyright Act)の「Title II: Online Copyright Infringement Liability Limitation Act」の「safe harbor」によって守られていました。 そこでは、インターネットを利用したコンテンツ事業者は、著作権侵害の申し立てに対して適切に対応していれば責任を果たしていることになります。
これまで個別のコンテンツが対象だったDMCAに対して、今回議論されているSOPAではサイト全体が対象となります。 そのため、「このサイトには著作権侵害コンテンツがある」と申し立てられて、サイト全体が米国のインターネットから遮断される可能性があると指摘されています。
SOPAがサイト全体を対象としているため、各サイトは著作権侵害コンテンツをゼロにすることを要求されるようになります。 そうなると、いわゆるWeb2.0的なCGM(Consumer Generated Media)を実現するのは困難になり、承認された一部のコンテンツ制作者のみが発表を許されるWebサイトのみが生き残れるようになる可能性がありそうです(CGMであろうがなかろうが、何らかの著作権侵害もしくはその疑いがある状態を完全にゼロにできる方法があるとも思えませんが。。。)。
DMCAでは、「悪いユーザ」がいて権利者から申し立てがあったときに、その「悪いユーザ」の悪行を停止できればそれで大丈夫であり、ソーシャルメディアとの相性が良い法律でした。 というよりも、DMCAがあったからこそ米国でソーシャルメディアが急激に成長したという考え方もできます。
法案が通った後のYouTubeはどうなるのだろう?
法案が成立してから施行まで時間があると思われますが、施行後に「どうなるだろう?」と真っ先に思ったのがYouTubeです。
YouTubeは、過去に何度か訴えられていますが、DMCAが争点になることが多い印象があります(参考:CNET Japan「「デジタルミレニアム著作権法を遵守している」--YouTube、著作権侵害訴訟でコメント」)。
SOPAへのロビー活動を行うための動きに繋がっているのかどうかは知りませんが、個人的に関連してそうだと思ったのが、MTVなどのコンテンツの権利を持っているViacomがYouTubeを訴えた裁判です。 ViacomがYouTube(Google)を訴えたのは2007年(Viacom sues YouTube for $1 billion)ですが、2010年6月にYouTube側が迅速に削除を行っておりDMCAを遵守しているとしてViacomが敗訴しています(Internet Watch:YouTube、対Viacom著作権侵害訴訟に勝訴〜セーフハーバールールに該当)。
その敗訴に関連しているかどうかはわかりませんが、その後RIAAの代表が「DMCAは機能していない」と2010年8月に述べているようです。
SOPAの上院版とも言われているPROTECT IP Act(PIPA / Preventing Real Online Threats to Economic Creativity and Theft of Intellectual Property Act of 2011)の元となっているCOICA(Combating Online Infringement and Counterfeits Act)が提案されたのが2010年9月であるという点からも、Viacom敗訴が何らかの影響を与えているような気がしなくもないですが、そこら辺はよくわかりません。
こういった状況から、SOPAが施行されたあとのYouTubeがとても気になります。
EFF : 「SOPAはフリースピーチに対する脅威である」
EFF(Electronic Frontier Foundation)は、SOPAはフリースピーチに対する脅威であると表明しています。
- Free Speech's Weak Links Under Internet Blacklist Bills
- Free Speech is Only as Strong as the Weakest Link
「とある1ページに著作権侵害コンテンツへのリンクが一つあってもサイト全体がブロックされるのでは?」
RIAAのCEOに対するインタビュー記事に「とある1ページに著作権侵害コンテンツへのリンクが一つあってもサイト全体がブロックされるのでは?」という質問が含まれているのですが、その回答が非常に興味深いです。
曰く「それは違う。全く逆だ。サイト全体ではなく、特定のサブドメインだけをブロックできるから範囲を絞ることが可能だ」と答えています。 また、「特定の技術での通信遮断を法案で規定しているわけではなく、海外にある悪徳サイトとの通信を遮断する方法をISPが決定することも可能だ」とも述べています。
SOPAの状況
現時点では、SOPAが法案として成立しそうな雰囲気があります。 個人的に予想していたよりも賛成意見が多い印象があります。
当初、12月15日に開催される下院司法委員会(House Judiciary Committee)で投票が行われるとされていましたが、議論が長引いて16日も引き続き行われました。 議論の方向性としては全体的に法案を通そうとする雰囲気が強いという風に伝えるメディアが多いように思えます。
下院司法委員会の議論には、色々とグダグダな部分もあるようです。 初日にはTwitterでの場外乱闘で議論が一時中断しています。 賛成派が反対派からの質問を揶揄してTwitterで「ネットサーフィングに時間を費やしてしまっている」というようなTweetを行い、反対派が「そんな攻撃的な発言は許せない」という感じで議場で話題にしましたが、「攻撃的(offensive)」という単語は適切ではないとして抗議側が「不得策であり無礼(impolitic and unkind)」という表現に変えるという騒動がありました。
結局、15日に予定されていた投票は行われず、翌日も会議が開催されました。 二日目の議論の途中で「サイバーセキュリティ的な影響に関して専門家の意見を聞くべき」という意見もあり、21日(水)にヒアリングが行われることになりました。
ただ、21日に延期されたことを警戒する意見もあります。 来年に延期するのではなく、年内に決着をつけようとしているように映っているようです。
- SOPA attracts plenty of supporters during House debate
- Sopa battle hots up as US Congress debates piracy bill
- Fight Against SOPA Intensifies Surrounding House Debate
- House Committee Appears Headed Toward Approving SOPA
- SOPA tweet triggers political explosion, delays vote
- Congress to Resume SOPA Hearings Next Week
- SOPA hearings cast debate as old media vs. new media
- House committee to push ahead on SOPA
- 'Internet is for Porn' pops up during House SOPA debate
- Stop Online Piracy Act vote delayed
- Why Both Sides of the Piracy Issue Applaud SOPA Delay (Analysis)
現時点で話題になっているのは下院司法委員会での議論です。 ここを通過しただけでは法案は成立しません。 議会を通過し、最後にオバマ大統領がサインする必要があります。
日本への影響
ISP等による通信遮断の手法や遮断実施場所によっては、米国内で閲覧できないWebサイトが日本でも使えなくなる可能性があります。 たとえば、YouTubeが米国で遮断されて日本でも見られなくなるという状況が発生する可能性もありそうです。 逆に、日本のサイトが米国から閲覧不能になる可能性もあります。
その他、「米国でやってるんだから日本でもやるべき」という主張が日本国内で展開されそうです。
今年7月にイギリスで裁判所が著作権保護のために児童ポルノ対策ブロッキングの仕組み利用をすることをBritish Telecom命令に命令した事例や、日本でも「リーチサイト問題」が2010年に議論されたこともあります。 SOPAが米国で通れば、「インターネット上のリンク」に対する規制の議論で米国での動きが参考にされるという場合もあるかも知れません。
- 裁判所が著作権保護のために児童ポルノ対策ブロッキングの仕組み利用を命令@イギリス
- 首相官邸:コンテンツ強化専門調査会
- コンテンツ強化専門調査会:インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策について(報告)
SOPAが廃案になっても次が出そう
現時点では、SOPAが順調に進んでいるようにも見えますが、議会を通過できるかどうかは現時点では不明です。 IT業界側のロビー活動によってSOPAが廃案になる可能性もまだありそうです。
しかし、これまでの流れを見ていると、たとえSOPAが廃案になったとしても、同様の視点を持った別の法案が再度提出され続けるようにも思えます。
追記
追記2
世界最大のレジストラGo Daddyが大炎上、SOPA支持表明で
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