ネットデマ用ファイアウォール

2011/11/30-1

昨日の記事に対して「ネットデマに対するファイアウォールって何でしょう?」というような反応が数件ありました(「議論の中心がそこにないのはわかっているが」という前置きがあるコメントもありました)。 昨日の記事ではファイアウォールの話は、デマに直接かかる話題ではなかったので、文章を書いている本人としては「ネットデマに対するファイアウォール」という発想はありませんでした。 しかし、「じゃあ、どういうのがネットデマに対するファイアウォールなのだろう?」と考えると最近のインターネットの流れがそっちに向かっているかもと思いました。

まず最初に私の感想としては「ネットに対するファイアウォール」というものを実際に実現するのは難しいと考えています。 ネットにおけるデマは、最近ホットな話題ではありますが、そもそもデマというのはネットでなくても発生する話であり、デマの登場そのものを防ぐことは不可能に近いのではないかと思います。

ただ、口伝えによるデマとネットデマの違いとして伝播速度や伝播範囲があげられます。 ネットデマは、口伝えによるデマよりも早く広く伝わってしまう可能性があり、その点が問題視されているのだろうと感じています。

さらに、ネットデマに対する訂正情報が出たとしても、刺激的な内容を含むデマと比べると情報伝播が狭くなってしまい訂正情報が充分に広まらないことが多いです。

そういったこともあり、最近は、「ネットデマを技術的に制御する方法を模索すべし」という意見が増えている印象を持っています(主にネットどっぷりじゃない人々と会話をしていると頂く感想です)。

環境が整いつつある

広まりつつあるデマをストップするという方向性が主であり、デマそのものの発生を防止するというものではありませんが、「これを使ったらできるんじゃない?」と様々な人々が思ってしまう環境も整いつつあります。 いくつか「前例」が積み重ねられることで、実際に運用されていくようにも思えます。

イギリスでは児童ポルノ対策ブロッキングの仕組みが既に稼働していますが、その仕組みを使って著作権保護をISPが行うことが裁判所によって命令されました(参考)。 2011年8月にイギリスで暴動が起きましたが、暴動を煽ったりデマが飛び交ったという理由でイギリス政府が緊急時にソーシャルメディアをブロックすることが可能であるかが検討されました(参考。ただし検討の結果ソーシャルメディアのブロックは行われないという結論になっています)。

アメリカでも著作権保持者等がISP等に対してブロッキングを要求可能となるSOPA(Stop Online Piracy Act, 参考)が検討中です。 SOPAに対する反対運動も行われておりまだ検討中ですし、SOPAそのものはネットデマ対策ではありまえせんが、一度枠組みができれば何かが発生したときに「その仕組みを使え」という方向性に傾きそうな気がします。

日本では今年の4月から児童ポルノ対策としてのブロッキングが開始しています(参考)。 4月に開始されたブロッキングとは別の話題ですが、震災後の「地震兵器」などのデマに対して政府から削除要請が行われましたことが話題になりました(参考, 注:デマ以外に関しても削除要請が行われています)。

現時点では検討されている手法の多くがDNSブロッキングですが、技術が進歩し、市場が拡大することによってDPI(Deep Packet Inspection)を高性能に行える製品が安価になれば、そのような製品を利用して細かく制御を行う環境が世界各国で増えてしまうかも知れません。

規制が進んだ先

10年単位で時間が経過するとともにどんどん規制が進めば、ブラックリスト方式ではなく、ホワイトリスト方式のブロッキングを運用する国が登場し、結果としてその国内でのネットにおける情報発信は認可制(免許制)になるという場合も有り得るのではないかと予想しています(中国では既にICPライセンスやドメイン名登録の厳格化によってそれに近い状態になっているという感想を持っています)。

「え!?おじいちゃんが若かった頃は誰でもネットに書き込めたの!?それって凄くなーい!?」とか言われてしまう未来が来る可能性がゼロではない気がしなくもない今日この頃です。

(注意:「その可能性がある」という話と、「そうあるべし」は分けて考えるようにしています。この文章は「その可能性があると考えている」という話です。こういう文章を書くと「そんなに規制がしたいのか!」という反応がチラホラ来るので念のため。)

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