何で技術を身につけるの?

2010/9/2-1

最近良くわからないことがあります。 学生に対して「できるうちに勉強して技術を身につけといた方がいいよ」というアドバイスをするときに、「何故技術を身につけるの?」というのを明確に説明する方法です。

あまりに話が漠然としてしまうので、結果として単なるうるさい小言のようになってそうな気がしてます。 恐らく、こういう話は文章にしてまとめた方が考えが述べやすいと思ったので、文章にしてみました。

新卒エンジニアを取り巻く環境

最近は昔よりも大学在学中に求められるものが大きくなっている雰囲気を感じています。

いくつかの企業の方々からお話を伺う機会があり、エンジニア採用の現場は徐々に変わって来てるんだなぁというのが感想です。 まず、ある一定規模以上の企業の方々は大抵「採用できない。いいエンジニアが来てくれない」という話をしているイメージがあります。

先月、エンジニア採用に関して以下のようなニュースが話題になっていましたが、恐らく現状のエンジニア採用の難しさを反映しているのではないかと個人的に思いました(「採用費がいくらかかってもいい」であって給料が高くなるわけじゃないんだとか、入社準備金ってエージェントに渡してたお金を個人に渡すようになるんでしょとか、そういった意見もチラホラ散見できましたが、ここでは割愛)。

で、もう一つ、恐らく関連してるだろうなぁと思ったのが以下の記事です。

英語に関しては、外国人エンジニアが増えて来たので仕方がないという側面が強そうだと思いました。 上記記事は楽天に関してですが、ある程度以上の規模がある企業では、ここ数年エンジニアの新人採用を中国やインドで行うというのが普通になってきている気がしています。 私がSONYで社員だった頃も、既に海外から新人エンジニアを日本に招いて一緒に仕事をするというのがありました。

様々な企業に勤める方々と飲み会などで話をしていると、「本当は日本で採用したい。でも中国とかインドで必死に勉強した優秀な学生と比べてしまうと、、、」という話題がでることがあります。

学生として日本に来ている東南アジア学生などと話をしていると、凄い優秀さを感じることが私も多いです。 「この人って、この人の国の中でトップレベルの人なんだろうなぁ」と本当に思えます。

もう一つあるのは「日本人学生の優秀なエンジニアは、うちを選んでくれない」という意見もありました。 海外から優秀な学生に来て頂く以外の選択肢が今はないという感じです。 個人的には、そういう事を言っていた方が所属している企業は技術的な側面で名前をうっている企業だと思えたので、結構意外でした。

こういった環境で新卒学生は就職活動をしなくちゃいけない世界になってるように見えるので、昔よりも「アピール」が求められてるのかも知れないと思います。

何がアピールしやすいか?

以前「理系学生が論文を書くべき利己的な理由」というのを書きましたが、理系だったりエンジニア志望の場合、最もアピールしやすいのは行った研究や発表した論文だろうと思います。 エンジニア志望ではなくても、技術的な話がある程度わかるというのは強みになる気がしています。

「サークル活動でリーダーシップを発揮した」とか、みんなが言うようなことを言っても、恐らく採用側は聞き飽きてます(もちろん、活動として非常に明確な成果がある場合は別ですが)。

学生時代に行っていた研究を活き活きと具体的に語れると強いと思います。 良くありそうなのが、「研究をしていた」と主張はするものの、論文を出してるわけでもなく、説明を聞いても具体性がなく漠然とした概念の説明だけをする事例です。

そうならないためにも、就職活動をする前に論文執筆の経験があると良いと思ってます。 論文をまとめるというのは、自分の活動を体系的にまとめることであり、周辺技術の勉強が必要になりますし、学会発表が必要な論文であれば人前で発表する練習にもなります。

本当は卒論が終わった後に就職活動が出来れば、色々と自分の中でまとまっているので良いのだろうと思いますが、現状では学部でそれを実現するのは難しいのだろうと思います。 そういう意味でも修士での就職活動は、学部での就職活動よりも研究内容をアピールしやすいのかも知れません。

研究をどうやってencourageするか?

とはいえ、学生にどうやって研究をencourageするかは非常に悩ましい話だと感じています。

特に、最近の傾向としてはWebサービスを作ったりするようなトレンドが派手にネット上で話題になることもあり、地味にTCP/IPまわりやら、UNIX系OSやら、サーバやルータに関して勉強することの「意味」を研究室新人に伝えにくい気がしています。

さらに、勉強ではなく研究という話になるとさらに難しさを増します。 昔のTCP/IPまわりの研究よりも、最近は内容が細分化している傾向があり、そもそも問題の存在を理解するまでのハードルが大きくなってしまっています。

もうちょっと細かい話をすると、たとえば、以下のような話題を明確に「だからこれを勉強した方が良い」と直接的に説明するのが難しい気がしています。 間接的には将来に役に立つような気がしますが、それぞれあまり直接的な話ではなさそうです。

  • RFCを読んで意味があるの?
  • カーネルをコンパイル出来るようになって意味があるの?
  • ルータの設定出来るようになって意味があるの?

さらに厄介なのは、研究の前段階である技術の習得や勉強には時間がかかるということです。

技術を身につけるには、数年間はがっちりと勉強を続ける必要があり、それで初めて何か専門的な部分を身につける基礎が出来上がります。 基礎が出来上がると次は詳細へと進めるのですが、その後は、各種枝分かれした詳細な専門分野は無限に広がっており、勉強に終わりがありません。

Webサービスなどの派手さを横目で見つつ、短期間で大きな成果や名声を求める学生が増える中、地道な基礎習得をencourageすることの困難さを感じています。

残念ながら新卒採用が大事という話

採用側の企業の方々の意見を聞くと「出来る人を選ぶ。出来ない人や、やらない人、実力はあっても発揮しようとしない人を内部に入れないのが私達の仕事」という感じになります。

で、大学新卒のときにはアピールとして学生時代の研究成果などを説明しなければなりません。 活き活きと説明をするには、明確な問題意識や意義を理解している必要があります。

ただ、個人的に見ていて思うのは、やっぱり会社などに入ってから問題意識を持ったうえで大学に行った方が大学っていいのではないかということです。 大学って就職した後に行った方が真面目に勉強できる題材が多い気がしています。

とはいえ、大学に戻りたいと思うようになるには、最初に「問題意識」を持てるような職場に行けるかどうかも大きな要素である気がしています。

そうすると、就職してから大学に入った方が良いという部分は実は鶏卵問題になりそうだと、最近は思い始めました。 経験のない職につけるチャンスは実は多くはなく、新卒はその数少ないチャンスの一つなのではないかと思うと、その新卒の時に「良い問題意識」に出会える職場へ行けるかどうかという感じです。

最後に

気がついてみると研究室にいる大学生と干支が一回り以上離れてしまうこともあり、まあ、自分が昔よりも年をとってしまったということなのかも知れません。

技術を習得することが「楽しい」と感じて、自分で凄い勢いで吸収していく人ももちろんいます。 それを「楽しい」と感じることが出来て、没頭できるかどうかも才能の一つと思う事があります。

とはいえ、技術の習得に没頭できるからといって、キッチリ会社で仕事をする感じかというとそうではなさそうな場合もあります。 また、学生時代は全然技術的な話をできなかったというか、むしろそういう系統の話は嫌いだった学生が会社でバリバリと仕事をして、超絶エンジニアになる事例も多いと感じてます。

ということで、何か徒然なるままに書いてしまっていますが、最近様々な方々から色々とお話を伺って考えた事でした。

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