記者発表会におけるメディア記事とブログ記事の違い

2010/3/25-1

先週、シスコシステムズ合同会社の新製品発表プレスイベントに呼んで頂けたので、人生で初めてプレスイベントに参加しました。 そのときの記事が「Ciscoの新製品発表プレスイベント」です。

私が書いた記事と、大手メディアの記者の方々による記事の違いや、メディアとプレスイベントに関して書かれたブログ記事がありました。

シスコの発表会を通じて思ったこと : ナカバヤシです

その中で以下のように述べられています。

はいて捨てるほどあるニュースの中から重要そうなものを判定し、取材してそれを記事にして発信する。しかも、毎日、毎日、1年365日、休むこと無くそれをやり続ける。当然、ワークライフバランスもあるから記者だって休暇を取るし、Webデザイナーだって休暇を取る。それでもそれを毎日、1年365日やりつづける体制があるってことなんでしょう。新聞社もそうですが、これってすごいことですね。頭が下がります。

その一方で、何故かベルトコンベアで流れている大量生産的なイメージがあり、それが昨今、どんどん強くなっているように感じます。その答えもよくわかりませんが、インターネットによってメーカーがユーザーに対して広く発表を行えるようになったことと、ブロガーの登場、Twitterのようなソーシャルメディアによっていわゆるブロガーじゃない人もその情報のループに加わるようになったことがあるのかな?

参考までに、同じプレスイベントに関してのメディア記事一覧です。

で、正規メディア記事と並べるのは何か恐縮な気もしますが、私が書いた文章です。

Ciscoの新製品発表プレスイベント

さらに、このプレスイベントでの企業からのニュースリリース文です。

シスコ、「ボーダレス ネットワーク」構想の実現に向けて固定スイッチング製品の新シリーズを発表

以下、思ったこと色々です。 なお、この文章はいわゆるメディア批判として書いているわけでは無いのでご注意下さい。

雑感

恐らく、「事実を伝える」というメディアの役割と、「好き勝手に書く」というブログ側の特性の違いが出てるのかもと思いました。

ブログを書き続けていると「ブログとは何か?」なんて考えなくなって行きますが、こうやって全く同じ題材でマスメディアとブログ記事が一次情報として記事を書いたことによるアウトプットを並べてみると、自分はブログをブログとして書いてるんだなぁと半ば当たり前のことを当たり前じゃないように感じてしまいました。

私がブログに対して持っているイメージは、メディア記事経由で知った情報を論じるというものが多いので、そもそも情報の扱い方が違うという感覚です。 そのため、メディア記事とブログ記事が同時に全く同じイベントの一次情報を書くことに関して、いままであまり考えてませんでしたが、このように並べてみると「やっぱり違う物なんだなぁ」と自分で思いました。 競合するとかしないとかではなく、方向性が違う気がします。

ナカバヤシさんの記事を拝見していて思ったのですが、人によってはメディア記事の伝え方を淡々としていると感じるのかも知れません。 記者の異動問題や、プレスリリース記事はスピード勝負で記事を書かざるを得ない状況であることによって、プレスリリース会場にて行われた発表内容が読者に伝わるまでに情報欠落が発生せざるを得ないという諸課題はあるのかも知れませんが、今回記事を並べてみて私が感じたのは、やっぱり「書き方の違い」でした。

私の文章も発表と比べると非常に多くの情報が欠落していますし、プレスイベント会場等にアナリストが行かなければ十分な情報を得られないという状況が発生するのも、今回理解できました。 こういうのって、頭で解るのと現場に放り込まれるのは、きっと色々違うのだろうなぁとも思いました。

あー。でも、私にとっては初のプレスイベント参加だったというのと、恐らく私以外は「ブロガー」として参加している人はいなさそうだったので、事前に色々勉強したりして今回は結構頑張って書いたという側面は否めません。 淡々と発表された内容を伝える以外は「書きようがないよなぁ」という状況のプレスイベントというのも色々ある気がします。

あとは、個人的な雑多内容

これ以降の文章は、かなり個人的な感想などです。ご注意下さい。

個人で多くのイベントに参加するのは無理

プレスイベントに行くと、それだけで1日もしくは2日ぐらいが潰れます。 移動することや、発表内容をまとめる作業でかなりの時間を費やしてしまいます。 また、「おもしろくない」発表である場合は読者が増えるわけでもないので、プレスイベントに参加するモチベーションも高くならないと思われます。

注目のイベントであれば、もちろん読者が増える可能性は高くなりますが、そういうイベントは既に大手メディアが大挙して押し寄せているので結果としてスピード勝負になりそうです。 記事でスピード勝負をすると、品質は下がる傾向にある気がしています。

あと、地方や海外で開催されるイベントの取材は個人では無理です。 たとえば、個人のブロガーが海外で開催されるイベント取材に行きたいと思っても、旅費/宿泊費/参加費を個人として捻出しつつ原稿収入などで十分な利益を上げるのは難しいと言わざるを得ません。

当たり前ではありますが、組織的に取材先を分担したり、他での収益を旅費などに充てる仕組みがないと継続的な取材活動は難しそうです。 さらに、組織的に取材先を割り当てられるわけではなく、全員が個人で好きな場所だけを取材すると、注目されているプレスイベントと注目されていないプレスイベントの差が今よりも極端に乖離する気がします。

動画配信すればいい

距離や国境の制約を超えて多くの個人がプレスイベントに触れるには、インターネットを利用した動画配信を各企業が行うというのが現時点では最適だろうと思います。 ただし、動画配信するとメディアが掲載してくれる度合いが減るのではないかという懸念から踏み切れなかったり、プレスイベントの数日後に初めて動画が公開されるという運用もありそうです。

また、現状では実際は動画が掲載されていても、それを積極的に視聴して記事にしようとする人は少ないというのはあるかも知れません。 1時間以上ある動画を見て内容を反芻するような人は少数派で、多くの人々は要約されたcookedな情報を好みます。

動画があったとしても「見ないかも」という指摘はナカバヤシさんもブログ中でされています。

悪気もありませんし、嫌味を言うつもりもないのは前提として、「あ、さすがに誰もグローバル・アナウンスメントは見ていないな」と思いました。Appleの iPadの発表会には日本からもかなり多くの人がオンラインの発表会に参加していたのに比べるとシスコはまだまだ地味なんだなぁと痛感します。

これは私も記事執筆前に見ていなかったのですが、言い訳をすると、確かこの動画は日本でプレスイベントが開催される前日時点では、まだ公開されていなかった気がします。 プレスイベント前に勉強しようと思ったのですが、EnergyWiseの広告動画だけが視聴可能だったと思われます。

結局、私がプレスイベント前日に調べたのはNETWORKWORLDの記事と、802.1aeに関してだけでした。

NETWORKWORLD : New Cisco Ethernet switches to play broader video, security roles

で、プレスイベント後は、日本で開催されたプレスイベントを元にした記事を書く事に集中しているので、同じ内容であると推測されるアメリカ本社発表を見ようという発想にはなりませんでした。 しかし、このようなご指摘を頂いて今回アメリカ本社発表を記事執筆後に見てみると、色々発見がありました。

外資企業であれば日本国内でのプレスイベントだけに注目せず、本社発表も同時に視聴すると見えて来るものがあるということは、ノウハウだなぁと思いました。 こういうのは恐らく積み重ねとして蓄えないと、限られた時間の中で書く文章に活かすのは難しい気もしています。

今回、ブログでナカパヤシさんが

しかし、それでもあえて、シスコに限らず本社のグローバルアナウンスメントは参加したほうがいいと申し上げておきたい。だって、それが本物なんですから。

と書かれていたのがキッカケで、Borderless Networksに関してCisco本社サイトのコンテンツを色々見たわけですが、途中で調べるのが楽しくなってしまって思わず「Ciscoがウィルス対策ソフトに戦いを挑み始めてる」という記事を書いちゃいました。 そして、この記事と同時公開しました。

ブロガーを「育てる」

記者は、記者が所属している各企業が「育てる」として、ブロガーって誰が「育てる」のでしょうかね?

フリーランス的な存在であるブロガーを「育てる」義理なんて誰にもないので、「勝手に育つ」のを待つしかないのでしょうが、プレスイベント取材などをするという方向性で「育ちたい」と思っている人が居るのかどうかすら疑問かも知れません。

そして、ブロガーを「育てる」という目的を主として、ブロガーをプレスイベントに招待する企業なんて居るとは到底思えません。

ブロガーやソーシャルメディアが企業による記者会見(プレスイベント)内容を配信する役割を担うには、動画の積極的な公開などによる企業側によるネット上の一般ユーザへの配慮が必要ですが、それを誘発するにはネットメディアの成熟が必要であり、鶏卵問題になってそうです。 アメリカでは状況が違いそうですが、少なくとも日本においては、そう感じます。

さらに、最近ではTwitterが楽しくてブログを書くのをやめてしまったような方々も多いので、ブログという文章執筆形態そのものが最盛期を過ぎた感すら漂っています。 「市民メディア」という考え方も一時より勢いを失った感がある気がしますし、マスメディアが無くなった世界を妄想したとき、発表会場へ取材に行く「メディアの記者以外」の人々はどのような人々になりそうなのでしょうか。。。

企業のプレスリリースを流すだけのソーシャルメディア

昨今の企業によるプレスリリースは、実は非常に充実しているような気がします。 メディア記事の中には、企業によるプレスリリース文からの抜粋という形態のものもありそうです。

そう考えると、各種企業のプレスリリースを常にリストするソーシャルメディアが存在していれば、ある程度は業界の流れがわかるようになってしまうのかも知れません。

ただ、それをつきつめていくと、企業によるプレスイベントに記者が行かなくても良いという話になっていきそうです。

そのような流れで企業による発表が「フルオープンなもの」になって行くという未来を微妙に妄想しました。 そもそも発表する企業側が「○○は発表した」という第三者的な語り口で自分の製品発表を文章化して発表するという本末転倒な未来もあり得そうな気がしてきました。

ソーシャルメディアがマスメディア並みに影響力を持った場合

次は、ソーシャルメディアが今のマスメディア並みに影響力を持った場合を考えてみようと思います。

ソーシャルメディアがマスメディア並みに影響力を持った場合、企業によるプレスリリースは、「いかにソーシャルメディアの上位に入れるか?」が非常に大きなテーマとなります。 今でも大きなテーマなのでしょうが、マスメディアが消えて、ソーシャルメディアが最もマスなメディアになった場合には、どんな手を使ってでもソーシャルメディア上位に食い込ませたいと思う組織は増えそうです。

先日、ソフトバンク社員全員にTwitter利用が推奨されたというニュースが話題になりましたが、たとえば社員全員に特定のソーシャルメディア利用が推奨すれば、プレスリリースがソーシャルメディアで注目されやすくなります。

もっと事例を絞って考えてみましょう。 たとえば、従業員数がグループ全体合わせて20万人弱?のNTTグループ社員全員に対して、はてなブックマーク利用推奨の社内報が流れた後に、はてブ人気エントリページがどのように変化するのかなどを妄想すると面白そうです。

まとめ

プレスイベントは非常に大きな情報源ではありますが、現時点では多くの企業によるプレスイベントが公開されているわけではなく、公開される兆しもあまりなさそうです。 公開し始めた企業も色々ありますが、恐らくまだ実験的にいくつかの企業が行っている段階なのだろうと思います。 なお、私は「企業が悪い」とか「閉鎖的だ」というつもりはありません。

「その中に入って行く」という活動を地道に続ける人々が多く出て来ないことには、色々変わりそうにはないかもなぁという気がしている今日この頃です。 企業が開催しているプレスイベントは私的なものですし、ブロガーとしては「企業側から"おいで"、と声をかけて頂く」のを待つ存在なんですよね(といっても興味が一致するかしないかは別の問題なので色々難しいのでしょうが)。

余談ですが、ブロガーイベントは参加する側の意識を含めてプレスイベントの簡易版(or 劣化版?)だと思うので、ブロガーイベントとプレスイベントは全く別の話という感じています。 ブロガーイベントをするよりもプレスイベントにブロガーを呼んでみたら面白いのではないかと思いましたが、色々実現は難しそうかなぁとも思う面はあります。

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