Web読者が切り捨てられていく?

2010/2/25-1

3月から日経が有料のWeb新聞を開始するようですが、徐々にWebの世界が有料化していく流れを感じます。

ITmedia : 日経を丸ごと読める「Web刊」、単体月額4000円で 「良質な情報はタダではない

新聞社や出版社だけではなく、一般的なWebサービスを運営している方々から有料Webを模索しているような話を聞きますし、水面下で有料Webを準備している媒体は多そうです。 現状では、Webメディアでのマネタイズ方式が広告に偏っており、その広告がジリ貧状態で、そもそもそんなに利益が大きいとはいえないWebメディアがさらにツライ状態になったからなのだろうと妄想しています。 (フリーの周縁でのマネタイズという方式もありますが、継続的に使える手段かどうかや、無名の人がフリーで利益を得るのと、既に強者な存在がフリーにすることは色々違いそうなので、本記事では範疇外とさせてください)

気がついたらWeb読者が切り捨てられていく?

最近のWeb有料化の流れを見ていて「無料でWebを読む読者を切り捨てに行ってるのでは?」という感想を受けます。 Webやオンラインでの利便性をあえて下げているように見えるためです。

日経のWeb有料化に関して、非常に面白い記事がありました。

日本経済新聞電子版の価格設定から透けて見える日経のホンネ - A Successful Failure

そもそも「価格」というのは相対的なものなので、現時点ではどんな値段をつけても無料と比べて「高い」となることは避けられないので、いっそのこと販促ツール化してしまえという感じかも知れません。

もしかすると、10数年Webで行って来た無料での情報公開をあきらめて、Webを単なる販促ツールにしてしまう作戦が今後は増えるのかも知れないと妄想しました。

今回の日経関連ニュースに伴って、先月の「有料登録者35人」を例に出して論じている方々が散見されましたが、個人的には、あの事例と今回の事例は似ているのではないかと感じています。

Newsdayの登録者35人というニュース

先月、アメリカの新聞であるNewsdayが2009年10月にWebを有料化したところ、登録者数が3ヶ月で35人だったというニュースが各所で話題になっていました。 「400万ドル(4億円弱)かけてWebを有料化して登録者が3ヶ月で35人???バカじゃないの?」という反応がWeb上で多く見られました。

THE NEW YORK OBSERVER: After Three Months, Only 35 Subscriptions for Newsday's Web Site

ただ、個人的には、このニュースにずっと違和感を感じていました。 違和感を感じていた点は以下の通りです。

  • 記者が有料Web登録人数を質問した時にJimenez氏は数字を知らなかった
  • 近くの役員に数値を聞いて「35人」と答えた
  • 質問が来るくることを想定していなかったっぽい
  • Newsday側は「別にどうでも良い数値」と考えているように見える
  • 致命的な数値ならば記者会見の場で安易に答えるとは思えない
  • ニールセンによると、ユニークビジター数が220万から150万へと減少。35人しか登録してないのが大失敗ならば減少度合いが中途半端過ぎる
  • 新聞をとっている顧客は無料でWebを見られるのは個人的にはどうでも良いけど、ケーブルテレビ加入者がWebを無料で見られると書いてある
  • もしかすると、ケーブルテレビの販促目的がメインであって、登録という意味でのWebからの収益は最初から捨ててた?

個人的に一番違和感を感じたのが「ケーブルテレビ」という存在です。 アメリカでは全家庭の6割弱がCATVを利用してテレビを見ていると言われており(wikipedia:Cable television in the United States)、CATVの存在や競争が非常に激しいからです。

テレビではありませんが、FCCにある資料を見ても「インターネット接続の58.9%はCATV網より」と読めます。(参考:FCC Lab Presentationの3ページ)。

さらに見て行くと、NewsdayのWeb有料化のコンテキストで登場しているケーブルテレビ会社は、2008年にNewsdayを買収したCablevisionです(参考:New York Times: Cablevision Is Winner of Newsday)。

2009年10月にWebを有料化するためにかけた経費が4億円弱と言われていますが、それだけの規模の金額を使う改修であれば、きっと時間もかかるはずです。 2008年5月にCablevisionがNewsdayを買収しているタイミングを見ると、最初からCablevisionのCATV顧客獲得の「山車」にするためにNewsdayを利用する意図があって、計画的にWeb有料化と無料視聴者の閉め出しが行われたのではないかとさえ思えます。

言い換えると、CATV販促のためにWeb側は一般に対して「不便ではなければならない」という感じです。 もう、完全に一般のWeb視聴者は無視されてる気がします。

さらに、その莫大な費用というのは、CATV網内からの自動的なアクセス許可や、CATV加入者がSTB(セットトップボックス)を通じてワンクリックでNewsday紙が自宅に送られてくるように申し込めるようにするシステム費用が含まれているのではないかと妄想しました。

例の記事の後にNewday社内に送られたとされるメールにも「オンライン登録者なんて気にしてないから」と書いるように見えます。

Gawker : Newsday: We Don't Care About Paid Online Subscribers, Duh

Newsday's web strategy has two parts: 1) to provide Newsday's print subscribers with a rich web experience that goes far beyond what they can get in the newspaper alone, thereby motivating them to remain, return, or choose to subscribe to Newsday; and 2) to provide Cablevision's high-speed Internet customers with reasons to remain with Cablevision, reasons to return to Cablevision, or reasons to choose Cablevision.

要は「重要なのは新聞紙とCATVの差別化だ!」ということです。 Webの有料化は、Web版Newsdayをコマセ(撒き餌)にするためになってしまっています。

アメリカのCMを見ていると「これを買うと、これもついてくるよ!これもFREEだよ!さらにADDITIONALなボーナスで!」という通販チックなものが色々ありますが、そこに追加する要素としてNewsday有料Webが加えられた形ですかね。。。

あと、おまけですが、次の記事を見ると「よりターゲットを絞れた」とNewsday側が主張しているようにも見えます。 「トラフィック全体では44%減少したけど、地域だけで見ると2%の減少でしかないから、よりターゲットが絞れてるよ!」という感じですかね。

crain's New York Business: Newsday harder-pressed

He added that the Web site will be developing “deep content and useful tools,” specifically targeting Long Island residents, and dismissed the hubbub over the site's having only 35 new paying subscribers. He said the more important statistic is the number of unique visitors from the New York metro area, which fell just 2% in December, compared with the year-earlier period, to 643,000, according to ComScore. The gated audience will be part of the online ad sales team's 2010 pitch.

For total traffic, the site's December number was down 44%. Analysts say that's not necessarily a problem, since advertisers prefer a focused audience. But they don't see customer retention alone as a means for growing revenue.

CablevisionもNewsdayも両方ともニューヨークメトロエリアと強く関連があるので、無駄なトラフィックを排除することでサーバ運用にかかるコストを削減するという意味合いはありそうです。 広告出稿する側から見ても、余計な広告費を払ってしまう可能性が減るので良いのかも知れません。

まあ、でも最後のアナリストのコメントで「でも、それ単体が直接収益上昇と繋がるようには見えない」というのを見ると「そうだなぁ」とも思うところはあります。

最後に

新聞を読む人が構成しているマーケットと、Webを無料で読む読者が存在するマーケットを比較したとき、実は「新聞が勝手に自滅しに行ってる」のではなく、「Web読者が切り捨てられてる」という状況が発生しつつあるのではないかとも思うことがあります。

例えば、外国の新聞記事が検索エンジンで発見できなくなったり、オンラインで読めなくなってしまうと私は非常に痛いですし、そんなの嫌です。 かといって、私は外国の新聞社の売り上げに貢献しているわけではありませんし、掲載された広告を間違えてクリックするこがあるぐらいで、掲載される海外広告にも興味がありません。 そもそも、興味があっても地域が離れた私には、外国媒体で掲載された広告の大半は無意味です。

何か論文誌や各種統計データのように、検索はできるけど「この先は有料よ!」というのばかりになって、様々な「まとめてパック」に加入した組織しか情報にアクセスできなくなる日が近づいていそうですね。 今まで「無料」の恩恵を受けていた身としては、このような流れになっているのが名残惜しいのですが、コンテンツ作成者も生活しなければならないので仕方が無い気がします。 ただ、単純にコンテンツのアクセスという意味では、何かアクセス可能な部分が縮小する方向に世の中が動いて行ってるなぁと感じてしまう今日この頃です。

プライスレス 必ず得する行動経済学の法則
プライスレス 必ず得する行動経済学の法則

ネットビジネスの終わり
ネットビジネスの終わり ポスト情報革命時代の読み方


最近のエントリ

過去記事

過去記事一覧

IPv6基礎検定

YouTubeチャンネルやってます!