Cold Topics in Networking
Jon Crowcroft, "Cold Topics in Networking", ACM SIGCOMM Computer Communication Review, Volume 38, Number 1. January 2008 という論文がありました。 インターネット研究における「つまらない」分野に関して語っている皮肉の塊のような論文です。
この論文は「このジャンルってもう冷えきってるよね」という話を列挙していてるだけなのですが、妙に納得できる部分もあり笑える反面、論文の世界においても「何を言ったか」よりも「誰が言ったか」が重要視される事があるという現実を見せつけてくれます。 恐らく若い学生がこれを書いてもACM SIGCOMMに採用されるような事はありません。 ただ、若い学生は、このような視点を持ちにくいでしょうし、こんな内容で投稿しようとは夢にも思わないだろうと言う意味では大御所しか書けないのかも知れません。
個人的には、この論文の最後の方にある一文が一番味わい深いと思いました。 「あるある」と思う反面、「ちょっとひどいんじゃないの?」という想いもありました。 夢も希望も打ち砕いてくれる一文が論文〆の一部として最後に来ている感じです。 その内容は以下のようなものです。
After all, when you come up with your PhD thesis topic, it is certainly going to be red hot, but 3 years later when you are finishing your third paper and dissertation, it may not be so any more.
博士論文に向けての研究テーマを決定する時には、そのテーマは非常に熱いのだろうけど、3年後に3つ目の論文が終わって博士論文を書き終わる頃には、もう冷めてるかもね。
冷えきった分野が示す特徴
この論文では、冷えきった分野が示す3つの傾向が書かれています。 まあ、どれも非常に強い皮肉が含まれています。
1. 二流カンファレンスでの論文数
その分野が冷えきっているかどうかを知るには、一流のカンファレンスでの発表論文数を見ても参考にならないと書いてあります。 一流のカンファレンスでその分野を熱かった論文数が減り、二流カンファレンスでの論文数が増えると「もう冷えた」という特徴があるそうです。
2. 性能向上の割合
初期の論文は数倍から数十%の性能向上を報告する論文が出ますが、そのうち0.00000001%の性能向上などが報告されるとのことです。 ただ、後の論文は先に発表された論文の誤りを訂正したりもするので、これだけで判断は出来ないとも書かれています。
3. 自動化
NSやPlanetLabのように、論文を書く事を自動化するツールの発展に目を向けろとあります。 「自動化できるのであれば、もうそれは研究じゃないだろう」と。 その分野の半分が自動生成された結果の組み合わせであれば、その分野は「死んでる」そうです。
冷えきってしまった分野
この論文では、「UNCOOL」になってしまった分野が列挙されています。 原文での章タイトルは「TOPICS CONSIDERED UNCOOL」です。 何か色々と列挙されている感じですが、まあ、納得できる部分もあります。
でも、「これがACM SIGCOMM?」とか「どっちかというとヒドイ中傷?」という風に見えなくもないです。
以下、個人的にツボだった部分を紹介しますが、もっと色々書いてるので是非原文をご覧下さい。 香ばしく、味わい深い内容です。
- DHT and Structured P2P
- DHTは、もはやボットネットの制御に使われるぐらい一般的
- Internet Coordinate Systems
- インターネットがどこにあるか皆は知っているのでコンパスは必要ない。そもそも完全なインターネット地図を作るには9次元が必要だろう(スポックかドクターフーみたいだ)。
- Faster packet classification
- これに取り組んでいる人が多過ぎる。ラインスピードが出せないルータはビジネスで失敗するからだ。
- BGP
- 生まれた時点で冷えていた。
- DoS
- そもそもIPはbest effortだ。
- Spam
- チャット、メッセージング、ソーシャルネットワークなどではなく電子メールという古い媒体を使う人だけの問題だ。
- Overlays
- 人とは違うやり方を皆が考えるためのもので、真面目にやるべきものではない。
- TINA
- GENIのコストを正当化しようとする人々を見よ、The Intelligent Network Architectureが復活しつつある。ここにKnowledge Planeを含めてもいいかも知れない。
- TCP+AQM
- この前見たら、この分野の論文が5000件あった。多くの論文がバグを含むNS TCPを使っているので「間違ったTCP AQM論文の撤回」というカンファレンスを実施すべきだ。
- Multicast
- 誰も使ってないからマルチキャストは既に死んでいる。でもIPTVが使っているし、P2P-TVとの比較をし始めた人々がいるから、またホットになるかも。
- Newarch
- デプロイされないから新しいインターネットアーキテクチャネタはColdトピックとすべきである。
- Self similarity, long range dependence, large deviations
- 数年前の論文に似て来たから、凄い勢いで温度が降下していると思う。
- MANET
- Mesh, Metro WiFi, 3G携帯が世界中にあるのに、何でろくに動作しないネットワークを作る必要があるの?ハンドオーバーも、この分野に加えようか。
- Self Organising Mobile Wireless Sensor Networks
- ほとんどのセンサーはモバイルじゃない。
- Small World Networks
- インターネットのASトポロジ、Web構造、人間社会の構造、鳥の羽ばたき、ミツバチの群までをカバーした物理学者による詐欺。あまり驚くような発見はないし、目立った用途もない。
最後に
エッセーとして面白い論文でした。 機会があれば是非読んでみる事をお勧めします。 話の種にはなると思います。
まあ、でも、何というか。。。 ACM SIGCOMMに投稿された愚痴というか、中傷というか、皮肉というか、、、珍しいタイプの論文だと思います。
追記
無料公開版 : Hot Topics in Networking
3ヶ月後に「Reheating Cold Topics(in Networking)」というのを出しているみたいですね。
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