伝書鳩はインターネットより早い?
「南アの通信会社、データ転送速度で伝書バトに敗北 - ITmedia News」という記事がありました。 私が最初に記事を見たのはITmediaでしたが、様々なところで報道されているようです。 一見、「南アフリカのネットワーク遅い!(笑)」と言いたくなりますが、良く考えると何かが変です。
まず、最初に「伝書鳩の方が早い」というのは日本国内でも発生する可能性があります。 昨今では大容量メモリカードが小型化しています。 ちょっとしたメモリカードであれば、インターネットで転送するよりも十分早くなります。
実際に簡単な計算を以下にしてみます。 数値をわかりやすくするために8Mbpsで考えます。 まず、8Mbpsは8 Mega bits per secondなので、1秒間に8*1024*1024ビットの情報を転送できます。
PCなどでファイルを保存するときの単位はbit(ビット)ではなくByte(バイト)です。 そのため、計算にはbitをByteに直して考えます。 1Byteは8bitです。 そうすると、8Mbpsで1秒間に転送できるデータ量は1Mega Byteとなります。
1時間は3600秒なので、8Mbps回線で1時間で転送可能な最大量は3600MByteとなります。 3600MByteをGigaの単位にすると約3.6GByteです。 伝書鳩の足に8GBのMicroSDをくくり付けて1時間で伝書鳩が到達すれば8MbpsのADSL回線よりも伝書鳩の方が早いことになります。
さらに、例えば256GBのMicroSDの場合、伝書鳩が5時間以内に到達すれば100Mbps光回線よりも早いことになります。
そもそも、計測用の生データなど、容量が大規模になるものはインターネット回線での送受信にあまり向かない場合があります。 日本国内であっても、大容量データの送受信を行いたい場合はHDDやDVDやその他媒体などにデータを保存して宅配便という手段が使われる事があります。 例えば、2TBのHDD 10個を宅配便で送るのと、そこに入るデータをインターネット経由で転送するのとの時間勝負をすると、今のインターネットでどちらが早いかですね。
もうちょっと細かい話
TCPで通信する限りは定期的に「データが届いたよ」というACKを送信する必要があったり、途中でパケットが喪失するとスループットが低下したり、他のトラフィックが平行して存在しているとスループットが低下するなどもあるので、ワイヤースピードと同じスループットが出る事はあまり無いという点にも注意が必要です。
さらに細かい話になると、伝書鳩が途中で鷹や鷲に教われてデータが欠損したときの再送などを考えるという話もありますね。
「伝書鳩でも行き帰りの応答時間があるよね?」という意見を書いている人々もいましたが、それに関しては多少異議があります。 それは「データをある一方からもう一方へ移動させる」という目的だけを考えた場合、伝書鳩一回分に全データが入っていれば何度も往復をする必要が無いからです。 場合によっては「届いたよ」という応答ぐらいは必要かも知れませんが、それすらも無くて良い場合もあります。 まあ、これは割とどうでも良い突っ込みだと思うので無視して下さい。
先人の知恵
伝書鳩でデータを運ぶという話は1990年4月1日のJoke RFC(RFC1149)として提案されています(*注:鳥類とあるだけで鳩とは明記されていません)。
その後、1999年4月1日のRFC2549はQoS(品質制御)付きの鳥類通信を提案しています。 April Fool RFCは昔から結構面白いです。
これらは「Wikipedia : 鳥類キャリアによるIP」にまとめてありますが、そのページの記載に今回の話が既に追加されていますね。 流石に、早いですね。。。
さらに、「カタツムリにDVD2枚を引っ張らせた方がADSLより早いよ!」という「Snails are faster than ADSL (PDF)」というネタもあります。
海底ケーブル関係あるの?
元ネタ記事で、もう一つ気になった話があります。 気になったのは以下の部分です。
来年同国でサッカーのワールドカップ大会が開催される前に、アフリカ南部と東部を他地域のネットワークにつなぐ1万7000キロの海底光ファイバーケーブルが稼働する予定になっており、それによりインターネット接続速度は改善される見通しだ。
同国のISPは現在、帯域拡大のための交渉を進めている。
個人的な感想としては「17000kmの海底ケーブル記事関係ないじゃん」と感じました。
元ネタ記事は南アフリカ共和国国内の回線と伝書鳩を勝負させた結果です。 この結果をもって「遅い!」と言って文句を言うのであれば、国内インフラの整備が必要なのであって、海外との通信を行うための海底光ファイバケーブルは関係ないはずです。 言い換えると、17000kmの海底ケーブルと伝書鳩は勝負していません。
伝書鳩に負けた通信というのは、南ア国内同士の通信を行うために一度海外を経由しているのでしょうか? 国際的なコネクティビティが貧弱なので、80km離れた距離へデータが送信できなかったのでしょうか?
参考までに、今回通信を行った二つの都市の位置です。 ピーターマリッツバーグが左側の赤い地域で、ダーバンが右側の青い地域です。 この2地点間との通信で海底ケーブルが必要であるとは思えません。
画像はwikipediaより。青い色は私が追加。
謎は深まるばかりです。
Twitterで呟いていたら。。。
一番最初にこの伝書鳩ネタを知ったのはTwitter経由でした。 記事を見て、はてブして、その後も何か色々と釈然としないのでTwitterで呟いていました。 すると。。。(一部抜粋です)
何か、徐々に凄い話になってます。。。
ニュースを検索してみる
Twitter上での雑談を参考にしつつ、ニュース検索をしてみました。
- SA’s mobile broadband speeds higher than US : モバイル環境だけを見ればアメリカよりも南アフリカの方が高速という記事ですね。
- Undersea fibre optics: The benefits and dilemma for Africa : 大きな投資を行って海底ファイバは色々構築された。でも、ニーズはどこまであるの?というジレンマに関する記事。事業規模(金額)例も一部あり。
- Consortium brings cheaper internet connectivity to Botswana : 17000kmの海底ケーブルってこれの事ですかね?
- Tata Communications Transformation Services (TCTS) Starts Management of SEACOM Cable System Linking the World and Eastern & Southern Africa : 新規海底ケーブルに関してのニュースの日付が数日前ですね。
- Pigeon beats Telkom broadband : 南アフリカ共和国内のニュースサイト。これが元か???Twitterって書いてありますね。
- The Unlimited : pigeonrace2009 - Spread the word of the Bird : 伝書鳩レースの公式サイト
- White Paper : 今回の伝書鳩企画に関する技術的なホワイトペーパー
- http://twitter.com/pigeonrace2009 : 伝書鳩レースのTwitterアカウント
- BBC : SA pigeon 'faster than broadband' : 伝書鳩"Wiston"の写真あり。
まとめ
色々検索していたら、元ネタと思われるサイトを発見しました。 わかったのは以下のことです。
- ADSL vs 伝書鳩だった
- 伝書鳩を飛ばした企業は「Unlimited IT」ではなく「The Unlimited」ではないか?
- 伝書鳩プロジェクトを行っていた人々は国内回線の速度に不満を持っていた
- 伝書鳩プロジェクトはRFC1149を実装したかった
- 伝書鳩は実験フェーズでは4GBフラッシュ2本で飛んだ
- FacebookとTwitterが活用されていた
- Twitterでの伝書鳩アカウントのフォロワーは400弱ぐらい
- 元々は南アフリカ共和国のSAPAというローカル紙が報じている
- 海底ケーブルの話は元ネタ周辺では見当たらないように思える
- BBCとロイターは海底ケーブルに言及している
たまたま南アフリカ共和国の海底ケーブルの話を知っていたBBC記者が話をこじつけて、ロイターがそれを参考にして海底ケーブルネタが世界中に広がったという考え方もありそうですね。 本当のところはどうかわかりませんが。。。
どちらにしても、そもそもの伝書鳩プロジェクトはメディアを利用したISPへの恫喝を目的としていそうな気がしました。
何気ないニュースでも色々と調べると、面白いですね!
追記
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