不思議の国のNEO - 未来を変えたお金の話 -

2009/5/8-1

斉藤さん

大学で隣に座っている斉藤賢爾さんから「本を書いたから読んで下さい」と言って「不思議の国のNEO - 未来を変えたお金の話 -」という本を頂きました。 この本は「不思議の国」という国に迷い込んだ少女の話として物語調で書かれています。 個人的には「難しい本だなぁ」というのが正直な感想です。 内容が多少難しいという点も難しいのですが、思想的に色々と「難しい」と感じました。 一方で、深く読んで周辺を掘って行けば色々と発見がありそうだとも感じました。

物語調から現実への逆アセンブル

まず、最初に全てが物語調なのですが、全ての話が今の世界の現実とインターネットの構造を元に考えられています。 ストーリーから現実世界の話題へと逆アセンブルするのが結構大変です。 ただ、本の最後に「本書に登場するキーワード解説」という章があるので、逆アセンブルが絶望的に難しいというわけでもありません。 最初から逆アセンブルするつもりで読むと発見が多い本ではあると感じます。

内容的には以下のような物がちりばめられています。 キーワードだけ並べるとバラバラの内容のように思えますが、これらが「不思議の国」という国で発生するストーリーの中にちりばめられています。

  • 暗号
  • 認証(デジタル署名など)
  • 詐称(なりすまし)
  • Web of Trust
  • 石油などの資源の枯渇
  • 自然エネルギー
  • 特許
  • フェアユース
  • コモンズの悲劇
  • 地域通貨
  • 兌換通貨(だかんつうか)
  • ブログ
  • P2P
  • ヘッジファンド
  • カーボンナノチューブ
  • 軌道エレベーター

ゆずり合いによる超効率化

この本で斉藤さんが語ろうとしているのは「信用の輪による協調こそ全体にとって最も効率が良い」というような話なのではないかという感想を持ちました。

私は個人的には、インターネットはゆずり合いによって成り立っている部分があると信じています。 そのような意味では、この本が語っている「地球規模での効率化」という理想はあり得ると感じています。 例えば、数日前に話題だった「日経トレンディネット :「渋滞学」の権威、西成活裕東大教授が伝授!目からウロコの"究極"の渋滞回避術」という記事も、ある意味、全員のゆずり合いがあれば渋滞は発生しないという理論とも言えそうです。

ただ、現実問題としては現状では実現するのは非常に難しいと感じます。

この本で登場する「不思議の国」では、法律も警察もなく人々の自律分散的な活動で全てが決まって行きます。 そして、通貨も各自が自ら発行します。 通貨を発行しているというよりも借金(負債/手形)だけが存在する世界に近いのかもしれません。 その人が信用されなくなってしまうと、誰もその人の通貨を信用しなくなるというのがバックプレッシャーのようです。 でも、これだと信用はされていても村八分にされたら警察もいないので、死ぬしか無いという逆に残酷な世界なのではないかと思いました。

「不思議の国」は侵略されやすい国かも

また、もう一つ感じたのが「不思議の国は他国からの侵略に無防備なのではないか?」という点です。 「銃・病原菌・鉄 - 1万3000年にわたる人類史の謎」という本を読むと、無防備だったり、相手を騙そうという人と相手を信じ過ぎる人が対峙した時に文明全体が滅ぼされて行くという人類の歴史が書かれています。 直接関連するかどうかはちょっと自信がありませんが「文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの」も面白いと思います。

一方で、ゆずり合いやオープンにするというモデルが革命的に何かを作り出すことがあることも事実です。 オープンソース的な思想がなければ、今のインターネットは恐らく存在しなかっただろうと思われます。 「政府」や「国」や「紙幣(お金)」という概念にオープンソース的なものを適応しようとすると何か妙な違和感がありますが、オープンソース的な思想を適応することで革命的な変化が起こせるフィールドというのは人知れず存在しているのかも知れません。

参考:gnu.org : Philosophy of the GNU Project

最後に

この本は理解するのが非常に難しい本だと感じました。 読んでみた感想としては、全体的にあまりにunrealではありますが、一応全ての内容に根拠となるような思想や先行研究等があると感じました。

うーん。でも、表紙とストーリーの調子と内容のギャップが凄いですね。 それがこの本の良さなのかもしれませんが。。。

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