Count Down the Reality - Face the 2010 / 2009年のShowNetの見所は? Interop Tokyo 2009 ShowNetインタビュー(1)
今年のShowNet全体的な見所に関してInterop 2009 NOCメンバーである奈良先端大学院大学 門林雄基氏、慶應義塾大学 重近範行氏、NTTコミュニケーションズ 長谷部克幸氏にお話を伺いました。
Q: 今年のInterop ShowNetの傾向を教えて下さい
門林氏
門林氏: 今年の標語である「Count down to the reality - Face the 2010 -」のうち、「Count down to the reality」の部分は去年と全く同じです。 これは、昨年からの試みで2010年に向かって3年かけて2010に直面するであろう数多くの問題点に向けて一歩ずつ進んで行こうというものです。 2010年には様々な問題が同時に発生すると言われています。 IPv4アドレス枯渇問題が差し迫りますし、国内での地デジ移行、さらには暗号の2010年問題などもあるかも知れません。
今年のShowNetでフォーカスしているのは、ネットワークの仮想化、IPv4アドレス枯渇とIPv6化、ネットワークの可視化、クラウドなどです。
長谷部氏
長谷部氏: Interopはベンダ各社からのコントリビューションベースでネットワークを組みます。 そのため、ある程度は「どのような製品が出てきているか」や「どの機器をコントリビュートして頂けるか」などの要素も大きいですね。
門林氏: コントリビューションベースであるという点は、制約であると同時に一つのリアリティだと思うんですよね。 コントリビューションベースで組めないネットワークでは、本当にやろうと思った時にあまりに高額になり過ぎてしまうなど、リアリティが無くなってしまいます。 リアリティのあるコントリビューションベースネットワークで、しかもリサーチネットワークじゃないものとして、L1からL4までを考慮して作られているネットワークはInteropのShowNetでしか見せられないと私は考えています。
長谷部氏: 昔のInteropは「未来を見せる」という形だったのですが、DSLが登場し始めた頃から「ちょっと先を見せる」に変わり、今ではNetwork Service Providerがモデルにするためのネットワークという感じになっていますね。 個人的にはそのような傾向は良い面もあり、悪い面もあると考えています。 良い面に関して言えば、小規模中規模な商用ISPなどが自分のネットワークのリファレンスモデルとして使いやすいという点ですかね。
悪い面に関して言えば、将来をあまり見せていないかも知れないという点が挙げられます。 極端な言い方をしてしまうと、単に「来年はこうだ」という形ですかね。 それはそれで重要なんですが、5年先、10年先、15年先は見える展示にはなっていないと思えます。
門林氏: ただ、現状では5年先という構想を入れようとするとものすごく高額になってしまうという問題があるんですよね。 例えば、昔はネットワーク設備に対して1000万円の投資をするというのはかなりの事務処理を要しましたが、今では大きなISPであればその日の決済で買える場合もあります。 ネットワークに対する投資規模が昔とは比べられないほど大きくなってるんですよね。 ビジネス的なスケールが大きくなればなるほど、先の商品で今はまだ買えないというものがほとんどない状態になって来ているのかも知れません。
最初のInteropは「これからはISPが来る」というテーマでしたが、今、5年後の話をやろうとすると量子ネットワークというような話になりそうです。 例えば量子ネットワークを想定したネットワークの展示を行っても、「これ、いつ買うんだよぉ」という意見が多く出てしまうのが現状ではないでしょうか。 それでは、あまり意味がなくなってしまうような気がしています。
長谷部氏: とはいえ、今年は今までと違って色々新しいアーキテクチャの物が出ていますね。 今までは提供ベンダが違ったとしても、それぞれは同じようなアーキテクチャの上で作られた物が多かったのですが、今年はちょっと違うものもでききています。
重近氏
重近氏: NGNへの移行が大きな流れになっていますが、その中でいわゆる電話が無くなって来たので、電話とIPの間を取り持っていたような人達がみんなIPのところに来始めた感じがしますよね。 今年は、そのような傾向の製品を多くコントリビュートして頂けたと思います。
門林氏: 仮想化もラージスケールNATもそうなんですが、InteropのShowNetで運用してみたことによって世の中の理解が進んだと思える部分はありますね。 代表的なネットワークベンダ各社がコントリビュータとして参加している運用ネットワークとしてのShowNetで様々な立場の人が関わって、その情報を持ち帰る事で一つの流れを作っていると思えます。 今の日本のISPもそうですし、大手企業もそうなんですが、出せないじゃないですか、情報を。 日本は何もしないと情報が出てこないので、ShowNetのような活動は重要だと考えています。 ShowNetでオープンエンジニアリングをしているのが日本国内のネットワーク業界では大きいのではないでしょうか。
Q: オープンエンジニアリングの成果はどのように活かされていますか?
門林氏: 具体的に「この機器のこの機能が動かなかった」などのネガティブな情報はNDAなどによって、各自が持ち帰らないようになっています。 Interopでは、開発途上の製品をコントリビュートして頂く事も多く、例えばライブデモ中にバグが発見されて、現場で急遽修正作業が行われることもあります。 普通は開発途上の製品が社外に出る事はありませんが、開発途上の製品であってもコントリビュートして頂けるというのがShowNetの凄さの一つです。 折角、挑戦的なコントリビュートをして頂いたのに、開発途上のバグの情報が広まって発売前の製品等に悪いイメージがついてしまっては取り返しがつきません。 その関係を継続していくためにも、Interop中に発見されたバグなどのネガティブな情報は漏らさないようになっています。
一方で、例えば「仮想ルータが動いた」や「Large Scale NATの使い方」などのポジティブな情報は持って帰っているかと思います。 NOCメンバーもそうですし、コントリビュータ、Interopに来るオペレーショングループでポジティブな部分の情報交換をしていて、各自の運用などに活かしています。
長谷部氏: Interopで色々と試行錯誤することで、実際のサービスを行う上での問題点などがクリアになっていくという特徴もあります。 半年間かけてShowNetのネットワークアーキテクチャを考えるのですが、色々と考えて行く途上で実際のサービスでやる問題点がはっきりしていったり、本番前のホットステージで課題が見つかったりしながら様々な事が発見されていきます。
Q: 製品が改善されていった面白い事例などを教えて下さい?
長谷部氏: 個人的な感想としては、ベンダさんが好む改善提案と好まない改善提案というものがある気がしています。 例えば、致命的な欠陥がInteropで発見されると積極的に修正が行われます。 バグの発見という面での貢献は色々していると思います。 一方で、あまりジェネリックではない、ちょっとした機能に関しては修正することに対してコミットを求められるという事もあります。 これはビジネスなので、そういうものだと思います。
最近であれば、DHCPリレーでスルーするときにTTLを減らさないために受け取れないクライアントが出現するという「致命的な欠陥」が発見されてすぐに修正されたという事例がありました。 あとはMLD snoopingが出来ない仮想スイッチが存在したときに、妥協案としてMLD snoopingが出来る機器を直下に接続するという方式が考えられたりという事もあります。
門林氏: 昔はルータに搭載されている機能は非常に限られていたのですが、今はルータに搭載されている機能の種類が爆発的に増えてしまっています。 例えば、マルチキャスト単体でさえ様々な機能があります。 今回のShowNetのテーマの一つである仮想化もそうですし、モニタリング関係の機能も色々あります。
そのような状況下で、ある機能とある機能が両立しないというケースが存在することが幕張に持ってくるまで表面化しないという事があると思うんですよ。 あまりに組み合わせのバリエーションが多過ぎるので、まだ誰も試していない組み合わせが存在しているんですよね。 でも、実際にリアリスティックな環境で特定の機能同士が両立しないと困る場合があるので、それを事前に発見できるのは良い事だと思います。
例えば、それらがシナリオベースでそもそも無理に見えてしまうような事例が明らかになるような場合もあります。 このような問題点が発見された場合、ベンダさんは非常に一生懸命修正して頂けることが多いと感じています。
長谷部氏: 幕張で使うことが決定されるまで機器の問題点が発見されないことはあると思います。 例えば、Service Providerはあまり実運用でマルチキャストを使いません。 そのため、マルチキャストで1.5Gbpsの映像トラフィックを発生させたときに何が発生するか誰も知らないという状況もあると思います。
門林氏: 最近のISPは非常にディフェンシブになってしまってるような気がしています。 色々な体重がネットワークにかかってしまっているという事情もありますが、例えばMBoneをやってた頃にメモりリークして問題が発生したりとか、痛い目にあってるじゃないですか。 あの辺で火傷してると思うんですよね。 それで「新しい機能を試すと痛い問題が発生するかもしれない」というような感じでトラウマになってしまい、保守的になったところもあると思います。
そこで、私たちが色々な新しい事を試してみるということが実は重要になってくると考えています。
長谷部氏: 新しい機能を中々試せないという状況はありそうですね。 例えば、25万経路問題(経路爆発問題)などもあってISPによっては余計なメモリを消費できないという点もあるのかも知れませんね。 小規模プロバイダなどでは、25万経路を処理しきれないので手前で/28以下の経路を全部フィルタしてもらってから経路を受け取るという対応で現状をしのいでいる場合もありますね。
重近氏: そのような意味では、ホットステージや会期中の夜のネットワークは非常に重要ですね。 例えばセキュリティ製品やネットワークテスタなどを使って激しくネットワーク上で実験しています。 このような実験的な試みは、本番中に行うとショーに影響を与える恐れがあるので夜に行われる事が多いですね。 その過程で様々な機器の未発見な問題点やバグが発見されることもあります。
Q: 来場者がShowNetを見て楽しむにはどうすればいいですか?
重近氏: VLANが登場し始めた頃からの問題なのですが、仮想化されたネットワークの構成を把握するのは非常に困難です。 NOCであっても、細かい部分や実際の構成を知るにはルータに入ってコンフィグを見るしか無いという場合もあります。
一方で、ネットワーク図の作り方や、仮想化された各「面」の表現方法に関しては、毎年多くの労力を割いています。 来場者の方々に配布されているネットワーク図は、ある意味我々の運用ノウハウの結晶です。 あの図を見て頂いて理解して頂くという方法がまずあり得ます。
次に、ShowNetツアーに申し込んで頂くという方法もあります。 また、「ネットワーク見える化ハンズオン」や「仮想化ハンズオン」などもあるので、是非ご覧下さい。
Q: ありがとうございました
ありがとうございました
(撮影:森田兼次)
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