テクノロジーと勇気
Technology and Courage(PDF)という文章があります。 Ivan Sutherland氏(1988年チューリング賞受賞)の講演内容をまとめたもので1996年に編集されたものです。 講演そのものは1982年9月16日にCMUで行われたのが最初で、様々な経緯があって1996年に文章としてまとめられたようです(詳細は原文24ページ参照)。
以下、名言と思える部分を抜粋してみました。 これらはあくまで個人的な視点で「名言」と思えた部分です。 全体的にかなり意訳気味です。 また、人によっては別の部分に注目すると思います。 原文は33ページありますが、非常に面白いので是非原文もご覧下さい
勇気とは
- 勇気とは恐怖を乗り越えるためのものであるが、恐怖は予想されるリスクによって発生する
- 子供が凍った池から水の中に落ちて助けに入れば助けられる場合を考える。 氷が十分に厚いと信じて助けに入る人には勇気は必要ない(まわりは勇気があると讃えるだろうが)。 氷が薄いとわかっていて助けに行かないという選択にも勇気は必要ない(この場合は臆病と呼ばれる)。 氷が薄いとわかっていつつも助けに入るには勇気が必要だ。
- テクノロジーを探求する作業にも勇気が必要だ。ただし、多くの場合は発生するリスクは身体的なものではない。
外部要因
- 個々人が何かを成し遂げるには動機が求められる事が多い。 そのため、社会が様々な動機の形を開発している。 金銭、知名度、地位、愛、賞与、証明、メダル、称号、などがある。 一方で、悪い行いには罰も用意されている。
- 契約には期限が明記されている場合があるが、これによって期限内に達成させるという動機になる。
- 人々が集団を作る事によって動機が発生することもある。 集団は個人が為さないことも為す。 リンチや暴動もこの一部である。
- アカデミアは古い事を研究し続ける事もある。 古い事を捨てるのは、もっと新しくて興味深い事柄を発見した時だけである。
- 新しいビジネスの大多数は失敗する。 どうように、大多数の研究アイデアも失敗する。
- 定常的に失敗を繰り返しているのでなければ、努力が足りていない。 問題は、一度失敗した後にはリスクがより明確になっているように見えるため、再出発するのが難しいことである。
- 株を保有する事が人々のモチベーションを上昇させ、さらに人々が一緒に何かを目指すようになる様子は驚愕に値する。
- コンサルタントとして活動していてわかったことの一つに、自分の訪問がクライアントの締め切りになり得ることである。 私が訪問するまでにクライアントは多くのレポートをまとめなければならなかった。 技術的に提供出来るものがあれば良いと思っていたが、無くても締め切りを提供するという価値は提供出来た。
- ビジネスは顧客がその商品を購入する事を拒否したときに失敗する。
- ビジネスにおいても止めるという行為には勇気が必要とされる。
- 自分がそのビジネスにおけるニーズを満たしていないと認めるには勇気が必要である。
- 株を売り渡すのは、株を購入するよりも勇気が求められる作業である。
- 長期のプロジェクトは短期のプロジェクトよりも先が不確かであるため、投資に勇気が必要である。
個人の勇気
- 勇気が溢れている時には前進は非常に簡単で、勇気など必要ではないとさえ思える。 しかし、勇気が衰えてくると「前進しない理由」をいくつも生成するようになる。
- 何かを開始する事に対して困難を感じた事はありませんか? その難しさは勇気の欠乏だと思った事はありますか? 何かを開始するには勇気が必要だと認識すれば、開始しないための言い訳と正当な理由を見分けやすくなるかも知れない。
- 新しいことを始めるときのリスクとして感じるものには様々な物がある。 例えば、そのフィールドで無視され、馬鹿にされる事に対する恐怖がある。 何か新しい事を始めようとすると、どうしても初心者から始めるリスクをとらなければならない。 このリスクは本物で、この理由のために多くの人が新しい道を模索しようとしない。 慣れ親しんだものを継続するという、リスクの少ない道を選ぶことを多くの人々が好む。
- 何かをするために時間を費やすと他の事に時間を使えなくなる。 新しい事をしない理由として、そのことを挙げる事もある。 忙し過ぎると考えていて、新しい事を調べたり学んだりする時間が膨大過ぎるとあきらめる。
- 新しい事を学ぶ事への恐怖は別の現象とも関連している。 人々は慣れ親しんだ町や、慣れた車のモデル、既に使っているコンピュータ、EMACSなどのエディタを愛している。 未知への恐怖や、うまくいかないことへのイライラ、アホな質問をするというリスクがある。 ところで、私は忙し過ぎてExcelを学ぶ時間を取れない。
- リスクを恐れずに行動する方法の一つとして「無視」が挙げられる。 例えば、凍った池の氷の厚さを無視してしまう。 Evans and Sutherland社を設立した時には非常に勇気があると言われた。 私にはどんなリスクがあるのかに関して無知だった。
- 子供を育てる前の人は子育てのリスクに関して無知だ。 子育ては勇気のある行為である。 子育てをした人だけが、その難しさを知っている。 学部生の魅力的なところの一つとして、「何ができないか」を知らない事が挙げられる。 そして、「できない」とされていることに挑戦しようとする。
- ウォームアッププロジェクトは良い方法だ。 何か非常に簡単なことを最初から最後までやり遂げると良い。 私がMITの学部生だった1961年に迷路を解くプログラムを書いたが、それが後の卒論の助けになった。 ウォームアッププロジェクトで解いた問題と同様の問題に時間を大きく節約出来た。
- ウォームアッププロジェクトは自身にも繋がった。 終わらせた後、自分にも複雑なプログラムを仕上げられる事を知った。
- 皿洗いは大嫌いで、いつも先送りしていた。 妻の叔父から「最初の一皿を洗え。。。」というアドバイスをもらってからは定期的に洗えるようになった。
- 大変な時には、継続することにも勇気が必要である。
- あなたのプロジェクトが魅力的ではないと思えた時には「役に立たないプロジェクトである」と認めても良い。 そう認めるには勇気が必要だ。 ただ、研究を続けるのであれば駄目なプロジェクトの中から何か新しい研究課題を絞り出す必要がある。
- 全く新しい発想をするには環境を変えて旅行をすると良いということがわかった。
- 同僚と飲みに行くのでも良い。
- 誇りが励みになることも多い。 仕事に対して強い誇りを持つべきだ。
- 細かいデッドラインを自分に区切って何かをしていくという方法もある。
- 友人や家族が励みになる事も多い。
- 研究の最も困難な部分は、その研究に関して話したり、書いたり、出版することかも知れない。
- 1960年に書いた迷路解析プログラムはウォームアッププロジェクトで、誰も興味が無いと思っていた。 1969年にそれを出版したが、それによって多くの課題が浮かび上がった。 1960年に出したとしても、誰かは興味を示した筈だった。
- 最初は誰でも自分の文章を見て恥ずかしいと思う。 文章で一番大変なのは最初のドラフトを仕上げるところだ。 それは完璧とはほど遠いが、最初のドラフトはとっかかりを与えてくれるし、前に進む勇気を与えてくれる。
- アイデアを批判に晒される状態にするには勇気が必要だが、批判から学ぶにはさらに勇気が必要だ。
- 今のプロジェクトを止めるリスクは非常に大きい。 まず、ゴールが消える。 次に面目を失う。 今までかけた時間も失う。 それに対する批判も待っている。 最後に、新しく開始する何かを発見する可能性を失う。
- 個人的な研究の開始は疑問からはじまる。 何かを疑問に思い、調査を開始する。
- 美しさも励みになる。 E=MC^2のようなシンプルでエレガントなものが例として挙げられる。
最後に
何か非常に凄い表現が大量にあるエッセーでした。 個人的には「時間を投資する勇気」的な考え方は非常に共感出来るものでした。
「勇気」と「無謀」を分けるのは結果だろうなぁと思いつつ、誰も「無謀」は望んでいないんだよなぁという複雑な想いが交錯してしまう今日この頃でした。
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