エロサイトについて1学期間考える大学授業
「Experience Offering a Course Centered on Cyberporn」という論文がありました。 ACM Special Interest Group on Computer Science Education、39th SIGCSE technical symposium on Computer science education(2008年)での論文です。
テーマはエロサイトですが、何故エロなのか、何を学ぶのかなどの内容は非常に真面目です。 やはり人間にとってエロは非常に重要な要素であり、角度を変えた扱い方を発見できると面白いものが出来上がるのかも知れません。
論文全体を見ると全体的には結構失敗しているんですが、それでもACMの論文として通っているので、"成功事例だけが論文じゃない"という事を改めて認識できる良い論文だと思いました。
以下、要約です。
1. 何故エロサイトの授業?
コンピュータ技術と社会に関する授業の必要性は認識されていても、実際に授業のカリキュラムを組むには困難が伴う。 真面目に語ると話が非常に深くなってしまい、聴講する学生も少ない傾向がある。
人権、セキュリティ、インターネットガバナンス、プライバシなどの話題は非常に重要だが、これらを抽象的に語っても学生は見向きもしてくれない。 これらの議論に対して興味を持ってもらうために特定の事例に特化することを決め、その事例としてオンラインポルノグラフィ(またはサイバーポルノ)を選んだ。
1回目のカリキュラム紹介用講義でポルノグラフィと人権擁護に関して語った時に学生は非常に興味を示した。 「他にこれだけ学生の興味を集められるテーマは思い浮かばない」。
授業のカリキュラムの論拠は以下のようなものだった。
- サイバーポルノは社会的な課題の一つとして見ることが可能であり、コンピュータと社会に関する疑問への入り口になる。
- 毎週1時間の授業を行うことにより、キャンパス内においてコンピュータと社会に関する議論が教員や生徒間で活発に行われるようになる。
- コンピュータサイエンスの授業でサイバーポルノを教えることができる。 サイバーポルノを運営するうえで、技術は不可欠なものであるため、技術を前提とした政策の議論が行える。
2. シラバス
第1週
紹介、ポルノグラフィとは何か?
第2週
ポルノグラフィは論じるに値する争点か?
- 承諾
- 未成年
- 職場
- 依存症
第3週
オンラインでのポルノ規制と既存のコンテクストの違い
- 管轄範囲問題
- 執行問題
- 裁判所での判例
第4週
アメリカでanti-ポルノ法案が裁判所に却下される理由
第5週
テクノロジは規制を難しくすること以外にポルノ界に変化を与えたか?
第6週
テスト
第7週
技術的/半技術的手法が成功したり失敗したりする理由
- フィルタリング : 技術的手法だけでは失敗してしまう理由
- Social protocol software
第8週
オンラインポルノグラフィは何故儲かるのか? ビジネスモデルは何か?
第9週
子供とオンラインポルノ
第10週
外国のオンラインポルノ事情
第11週
まとめ
第12週
ポルノグラフィと他のオンライン問題とを結びつけた授業
第13週
議論用の予備時間
3. 授業
各授業での議論が予想よりも長くなった。 例えば、「ポルノとは何か」に関しては予想の倍の時間を消費してしまった。
市場規模などのデータがわかりにくい。 良いソースとなるデータが発見しにくかった。 信頼できる機関によるデータとなると、さらに発見が難しかった。 ただ、いくつかの分野には良いソースがあった。
いくつかのトピックは非常に良かった。 法的問題やフィルタリングに関しての議論はスムーズに行えた。 画像処理を使ってエロ画像を発見する技術の難しさを理解できた。 判例を参考にした議論もできたし、.xxx TLDに関する議論と、インターネット規制が出来上がっていく様子も理解できた。
ポルノグラフィの「オープンソース化(学生が命名)」に関する議論もあった。 現在は、エッセーやブログのように多くの人がポルノコンテンツをオンラインに掲載している。 いまやポルノはプロのポルノ屋だけのものではない。
この授業はコンピュータサイエンスを専攻していない学生が受講する授業であったが、コンピュータサイエンスを専攻する学生にとっても価値があるものだったと思われる。
4. 学生の反応
授業に登録した学生は9人だった(訳注:あれ???9人?)。 そのうち二人は女性だったが、一人は途中で他が忙しくなったという理由で来なくなった。
議論や課題レポート、試験によって成績をつけた。 レポートは以下の内容から選ぶ形にした。
- Webによるポルノグラフィの「オープンソース化」のトレンドは本当か? 長期視点での問題点は何か?
- ポルノグラフィがオンライン化することによって、業界における女性の役割がどのように変化したか。 ポルノ業界における女性経営者は増加しているのか?
- バーチャルポルノグラフィを構成する要素は何か? バーチャルポルノグラフィを取り巻くものは何か?
- インターネットコンテンツをコントロールすることを目的とした立法後に生存が可能かどうか
当初はテクニカルな内容を中心にしたかったが、結局はトピックの方が主になった。 サイバーよりもポルノが中心だった。
しかし、プロトコルやガバナンスを含めてテクニカルであると言えるのであれば、総じてテクニカルであったと言える。 例えば、.xxx ドメインに関する話題や、インターネットガバナンスやプロトコルがレギュレーション(規制)とどのように関連するか、という話題に学生は非常に興味を示した。
学生の感想としては、以下のようなものがあった。
- 15 - 20の情報ソースを発見するのが大変だった。
- サイバーポルノの構成要素に関して色々と手を出しすぎた。もう少し絞ってもよかったのではないか。
- 授業時間が短すぎた
- 実際にコンピュータを使いながら学んだ方が楽しかったかも知れない。
学生は総じて積極的に授業に参加した。
5. 結論
計画通りには実行できなかった。 以下、今後の課題。
- 週1時間で全部できると考えていたのが甘かった。 サイバーよりもポルノに関しての議論ばかりが先行した。 内容を絞るか、授業の回数を増やすべきである。
- 情報が無い。 一般プレスでの発表は誇張されている場合が多い。
ポルノの議論をベースにして技術的な内容の習熟が可能だと信じていたのは甘かった。 授業の前半で少なくともインターネットの仕組みや、Webがどのように機能しているか、プロトコルに関してなどを教えるべきだった。
ポルノという題材が問題になる事はなかった。 社会問題への切り口として「ポルノ」というレンズを使っただけだった。 ただ、今後はもう少しデータが明確になっている分野を切り口とした方が良いのかも知れない。
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