もはやインターネットは回線ではない

2008/12/1-2

「インターネット」という単語を聞いてイメージするものはなんでしょうか? 私は、相互に接続されていってる回線であったり、ルータであったり、ルータに接続されたエンドノードが集合して形成されたネットワークというイメージを持っています。 しかし、最近では「インターネット」というと「情報を共有するサイバースペース」であったり、「各個人が意思や心を発表/表現できる場」であるというイメージを持っている人が多いと感じています。

私の感覚としては、以下のようなものがまとめて「インターネット」と呼ばれている気がします。

  • Web上で表現できること
  • Webやメールなどによって形成されるコミュニケーション
  • オンラインでのつながり
  • オンラインで意思が形成されていく過程
  • 掲示板
  • オンラインサービス
  • Webやメールそのもの
  • IE(Internet Explorer)

もはや多くのユーザにとって「インターネット」はInter-networkingのインターネットではないのだろうと思います。 「ネットワーク同士が相互接続って何よ?」とか「一部が破壊されてもネットワークが生存できる?(゚Д゚)ハァ?」なのでしょう。

インターネットはフラットというイメージ

多くの人にとって、インターネットは「フラット」なのではないでしょうか。 (ここで言う「フラット」は、多くの場で使われている「フラット」と多少使い方が違う気がするのでご注意下さい)

例えば、WebであればURLを入力すればすぐにデータが出てきています。 まるで隣にサーバがあるようです。 メールであっても、手元のメーラソフトにメールアドレスを入力すれば相手にメールが届きます。 そのとき、途中にある数多くのルータやスイッチや光ファイバなどの回線を意識することはあまりありません。 AS(Autonomous System)の通過まで考える人は極少数だと思われます。

魔法のキーワードさえ入れれば、すぐ隣の情報が出てくる「フラット」なネットワークであると「勘違い/錯覚」している人が大多数であると思われます。 インターネットの規模性を実現するためにほとんどのシステムが階層構造で運用されていて、さらに各機能を提供するネットワーク上のノードは可能な限りdumb(単純)であろうという思想で設計されているという実態とは大きくかけ離れているのではないでしょうか。

ただ、これはこれで「そんなものだろう」と思います。 昔と違い、ユーザは知らなくても何も問題は発生しないからです。 私も電話をかけるときに交換機や電信柱の立地などを意識する事はありません。 強いて言えば電話をかける相手の距離と電話料金を多少気にするぐらいでしょうか。

インターネットに関しても恐らく同じようなもので、通信の仕組みを知らなくてもWebサービスを簡単に作れたりします。 ユーザとして構築されたものを利用するだけであれば、通信の仕組みはさらに知らなくてもいい知識になってきます。

研究分野

研究分野においても、インターネットそのものは今後フラットになっていくという考えのものが色々出てきています。 例えば、「フラット」なインターネットではURLのように識別子と情報の存在する位置が固定されていうのではなく、情報そのものが重要であり情報そのものに識別子をつけてフラットに管理するという思想があったりします。

I3(Internet Indirection Infrastructure)、ROFL(Routing on Flat Labels)、TRIAD(Translating Relaying Internet Architecture integrating Active Directories)、DONA(A Data-Oriented Network Architecture)、P2P Overlay Network、P2P Overlay MulticastなどはIPベースのネットワークの上にさらにネットワークを重ねるような事をしつつ、独自の仮想的ネットワークを構築するような提案をしています。 LISP(The Locator Identifier Separation Protocol)というものもあります。 DTN(Delay Tolarent Network)も最近話題です。

D.D.Clarkらによる「A Knowledge Plane for the Internet」のようになものが提案されてきています。 これは「ネットワーク自身が自分が何をすべきかを把握できるようになる」というものです。 今のネットワークは、自律分散的に運用されていて各パケットなどに対するポリシーなどをできるだけ考えないという設計になっていますが、新しい「層」を作ってそれらをできるようにしようというコンセプトです。

これらをまとめて解説するような文章を書こうと思っていますが、まだ各論文をじっくりと理解できていません。 早くて数週間ぐらいかかりそうです。 (なお、途中で断念するかも知れません)

関連

TCPやpathcharその他色々で有名なVan JacobsonがGoogleで講演した内容を要約した記事を昨年書いています。 もしよろしければ「2007年3月5日記事 : インターネットの次」をご覧下さい。

最後に

今後、「インターネット」や「ネット」という単語が持つ意味はさらに多様化していくものと思われます。 「デジタルネイティブ」というNHKの番組もありました。 インターネットが普及し始めた90年代に生まれた「若い世代」が40代ぐらいになって活躍する頃には、社会全体が現状では想像も出来ない感覚になっているのかも知れません。 技術の向かう方向も、今とは違った方向に行っているかも知れません。

20年後ぐらいに、今の感覚のままでいて「化石」とか「老害」呼ばれないように気をつけなきゃなぁと思った今日この頃です。 なお、そもそも自分がその時代まで生きているのだろうかという問題はこの際考えない事にしました。

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