「ブログとは何か」を読者視点で分析する (前編)

2008/10/8-1

「Exploring the Role of the Reader in the Activity of Blogging, Eric Baumer, Mark Sueyoshi, Bill Tomlinson, CHI 2008 Proceedings, April 2008」を読みました。 ブロガーの行動や現状を分析した論文が多い中、ブログ読者に着目した面白い論文でした。

公募で募った15人のブログ読者に対するインタビューと、これまでのブログに関する論文まとめのような論文でした。 インタビューを受けた15人のブログ読者には報酬として最大20ドルが支払われたそうです。 個人的には、「15人という限定された人数に対する調査でもACM系通るやりかたがあるんだなぁ。。。」というのが新しい発見でした。 いや、読者に着目したことによる新規性や、文章全体としての読み応えなどに重点が置かれたのかもしれないですね。

以下、要約です。 誤訳などが含まれる可能性があるので、是非原文をご覧下さい。

はじめに

この論文は、Reader response theory/Reader response criticism(読者反応理論/読者反応批評)を参考にしており、ブログそのものではなくブログの読者に対して注目している。 ブログの書き手だけではなく、読者側でどのように受け止められるかも大きな要素である。 ブログには、コメント,リンク,タグ付け,トラックバックなどの要素もあるため、従来の書籍と異なり著者のコントロール外である要因も多い。 この論文では、ブログそのものよりもブログ読者に関する研究へとシフトすべきであることを提唱する。 ブログは著者だけではなく、読者と読者によるインタラクションに関する研究も必要である。

理論

この研究は読者反応理論を参考にしている。 ここでは、読者反応理論に関しての概要を述べる。

原文テキストそのものだけが意味を持っているとする形式主義(formalism)と読者反応理論は対照的ではあるが、読者反応理論は形式主義の中から生まれたものである。 読者反応理論は1950年代に形式主義者の講演で出てくる"mock reader"という概念から始まっている。 "mock reader"とは、文章を理解するために読者がなりきらなければならないペルソナである。 このような考えの中から、読者自身が意味を持つという考えの種が形成されていった。

その後、クロスマン(Crosman)のような読者反応理論家によって「意味の構築は各自の主観によってテキストと対峙している読者側で行われる」と提唱された。 ブログをテーマとして扱った近年の論文においても、著者と読者が両方とも参加してブログを形成していくと述べられるなど、同様の視点がある。 良い読み物とは何かに関しては様々な議論があると思うが、今回の目的は良いブログと悪いブログを分けることではない。 今回の目的は、コンテンツや構造や技術的側面ではなく、読者が読むときに取る行動を分析することである。

手法

読者がブログを読むときのエクスペリエンスを調べるために、以下の手法を用いた。 チラシや掲示板やオンラインでの公募を行った。 応募条件としては、最低でも5個のブログを週2〜3回以上読むというものだった。 応募者は23人いたが、条件を満たしていたのは19人だった。 そのうち、実験に参加すると判断したのは15人だった。 被験者への報酬は最大で20USドルだった。

3つの情報収集手法が利用された。 2回に分けた半構造的面接を各被験者と行った。 デモグラフィックのような基礎データを集めるためのロガーソフトによる行動調査も行われた。

ブログ読者に注目した文献が少ないため、1度目のインタビューは予備調査的に行われた。 あらかじめ着目していた項目はあったが、1度目のインタビューはブログ読者によるその他の興味深いテーマを探すためにも利用した。 2度目のインタビューでは、1度目のインタビューで話題になった話をさらに掘り下げた。

被験者は、IBMによるWeb Intermediaries infrastractureプラグインとして実装されたロガーソフトのインストールを求められた。 しかし、多くの被験者は、インストールすることを拒否したり、インストールに関して技術的な問題が発生した。 そのため、結局データが取れたのは5人だけとなり、今回はその結果を記載していない。 しかし、ここで取得できたデータを元に2度目のインタビューの質問を考えた。

実験による発見、及び考察

実験被験者は主に学内で募られたため、被験者の多くは学生か卒業したばかりの学生だった。 サンプルが偏っており、かつサンプル数も少ないため、統計的な手法は用いていない。

この章では、被験者の多くが示した共通のブログ購読手法を示す。 ブログ購読方法に違いに影響を与える要素も同時に示す。 ブログ購読手法の多様性を示した後、「ブログとは何か?」に関する被験者の回答を述べる。 この結果を元に、既存の研究との類似点や違いを述べながら、オンラインアイデンティティに関する表現と知覚に関して考察する。 読者が「自分がブログの一部である」と知覚することなどを述べる。

一般的なブログ購読形態

読者反応理論によってデータのバリエーションは説明できるが、読者が示す購読形態に一様な部分も存在する。 15人中13人が、ブログ購読を「時間つぶし」「暇つぶし」「無駄な時間」「何もしていない」などと表現している。 残りの二人は、後ほど、ブログ購読は「時折」つまらなくなったときにすることであると述べた。

ブログは習慣になっている場合もある。 被験者の一人Fernは、ポストされたコンテンツに興味が無くても読んでいる。 もう一人の被験者であるLillianは、ブログ購読が朝のルーチン作業に含まれていると述べた。 さらに、別の被験者であるCharlesにブログを読むことに対して前向きかどうかを聞いたところ、以下のような回答があった。

自分がブログ購読に対して前向きなのかどうかは良くわからない。 今はタバコに対して前向きではないが、それはやらなければならない一日の一部のようなものだ。 習慣なのかも知れない。

Charlesの感想に示されるような中毒性とは異なるものの、ブログ購読が習慣になることはしばしば存在する。 Krishはブログ購読期間が8ヶ月だけであるが、「ブログをチェックする事はメールをチェックする事に等しい」と述べている。 その他9人も同様の意見を述べている。 多くの人にとってメールの確認はルーチン作業である。 メールを受け取っているかどうかはあまり関係なく、メールボックスを確認する。

検索技術などの情報取得技術の多くは、「情報過多」を前提にしている。 あまりに情報が多すぎるため、ユーザはやむにやまれず手が届く情報だけを利用する。 しかし、本実験の被験者達の間では、ブログによる情報過多は多数意見ではなかった。 被験者のうち2人だけがブログによる情報過多が存在すると述べた。 他の被験者達は、忙しいくてついていけない時には気にしないと述べている。 何人かは、新しいポストを読まずに時間があるときに遡って読み、他は新しいポストだけを読んで古いのはスキップすると述べている。 Lauraは、「ブログを読むために自分を追い込んだりしない。行けばある場所はわかっている。必要になったら見ればいい。」と言った。 これらの結果は、ユーザは最新情報についていくために圧倒されているという一般的な見解と異なる。

これらの結果は、ブログの共時性(シンクロにシティ:synchronicity)に関する課題を提示している。 コンピュータによるコミュニケーションは、同期的(ライブビデオ、音声通話など)、半同期的(インスタントメッセージ)、非同期(メール)の3つに分類される。 ブログは非同期的なコミュニケーション手段として扱われていることが一般的である。

しかし、今回の被験者からのインタビューの結果から、例えば長い間見ていなかったブログを久しぶりに見ると、最新ポストの数個が最も読まれる可能性が高いことがわかった。 その時、最新のポストが数ヶ月前のものか、昨日のものかはあまり重要ではなく、最新のものであることだけが重要となる。 これは、インスタントメッセージの扱われ方に似ている。 インスタントメッセージを利用して、多くのメッセージが投稿されると、古いメッセージほど読まれなくなる。

ここでは、このような概念を表すための「non-chronous」という表現を紹介する。 ブログでは、投稿された時間ではなく、投稿された順番が重要である。 投稿された時間が全く無意味であると言っているわけではない。

ブログ読者が自分の行動をどのように見ているに関する違いは非常に大きい。 ブログを読むモチベーションを質問されたとき、「情報のため」「インスピレーションのため」「エンターテイメント」などの理由が挙げられた。 しかし、「ブログとは何か?」という質問に対しては、被験者は非常に饒舌に語った。

Patriciaは、「テクニカルな用語と、自分なりの定義がある」と述べた。 彼女は、どのような時にどの定義を適応するのだろうか?

「場合による("It depends")」

今回の被験者の間では、ブログの読み方や参加方法はブログのコンテンツ,読者の目的,予想される著者の目的,読者と著者の関係などに依存した。 ブログ購読形態の多様性は、ブログ自身の多様性が原因ではないかと予想している。 ブログをジャンルによって分類することで調査をしている先行研究も存在するが、我々は文章などによるブログの構造よりも、読者がどのように読んで参加するかに関して着目した方が有意義であると考える。

ここで紹介する分析では、ブログ購読手法を分類するために以下のテーマに着目した。 ブログのコンセプト,ブログの表現形態と知覚,「ブログの一部」となること。

何がブログで、何がブログではないかに関してあらかじめ定義するのではなく、被験者がブログとは何かを定義できるようにした。 被験者が読んでいたブログのスタイルは、被験者が示したブログ購読手法と同じように様々な形態が存在していた。

ブログを反復的に読み続けるプロセスとしては、Krishのような例が見られる。 彼は、暇になるとブログを読む。 彼は自分が受動的(パッシブ:passive)な読者であると述べている。 新しいブログを探すことは行わず、いつものブログを読む。 ブログを読むうちに、ブログに記載された彼の地元に関する情報のメモをとりはじめた。 そして、家に帰るとブログから得られた情報を活用して外に出て行った。 彼は自分を「受動的である」と述べているにも関わらず、インターネットでの経験を実世界の行動へと結びつけた。

読者反応理論は、別々の人々が別々のブログを別々の読み方をすることに注意するように促している。 例えば、ある読者は有名ブログを気軽に読む反面、友人のブログは義務感にかられた読むかも知れない。 ブログのフォーマットやコンテンツのみを追求してカテゴライズすることは、ブログに関する一般的な知識を得るには良いが、そのような手法はブログ著者が誰かなどの情報を無視してしまう可能性がある。

ブログとは何か?

ブログとは、「日別表示機能がありコンテンツが新しい順番に並べられ、頻繁に更新されるWebページである」とされることが多い。 我々が「ブログとは何か?」という質問をしたとき、回答は更新,コメント欄,原作者,RSSフィード,個人的なコンテンツなどであった。 そこには、一般的な共通解はなかった。

例えば、Judithはfacebook.comのノートやmyspace.comのblog opinionをブログと呼んだ。 他の多くの被験者は、この考えを否定した。

被験者にブログに関して述べてもらうとき、更新頻度についての言及はあったが、日別表示やコンテンツの並び順への言及はなかった。 構造的な要素よりも、13人の被験者は荘作用的な要素を取り上げていた。 多くのブロガーにとっては、ブログは「持っているもの」ではなく「行うもの」である。 しかし、被験者の間で明確な定義は存在していなかった。

Patriciaは、ブログの会話的な性質(conversational nature of blogging)を以下のように述べている。

「ブログとは常に続いているものである。人々がコメントをしていく。ただ、いつもでなければいけないわけではない。ただ、著者と読者の間での掛け合いはある。会話が終わった時、それは死んだサイトだ。」

しかし、全ての被験者が会話的なインタラクションを強調したわけではない。 Natalieは、「ブログとはジャーナルである。人々が自分が表現したいことを表現できる電子ジャーナルである。そしてそれを多くの人に読んでもらえるかもしれない。。。結局何でも良いのかも知れない」と述べている。

多くの被験者はXangaを「取得し」、ブログを「所持する」ものであった。 8人の被験者は「ブログ」という単語の用法が異なった:時には特定のブログを差すことがあり、ブログホスティング全体を示す事もあった。

Patriciaの定義では発生するインタラクションがブログであるが、一方で、Natalieの定義ではコンテンツがブログである。 「何でもいい」という発言は、ブログというものが非常に流動的であることを示している。 Tonyは、RSSなど技術的な要素を列挙した。

読者と著者の両方がブログの構築に関わった時、このような定義のばらつきがプロセスに与える影響としてはどのようなものがあるだろうか。

多くの読者はブログという用語を定義するために比喩を利用した。 15人中7人がブログを新聞や雑誌に例えた。 15人中10人が少なくとも一つのブログを表現するために、日記やジャーナルという単語を利用した。

ブログのフォーマットは、特定の読み方を誘発することはあるかも知れない。 また、今までの研究で定義されているブログは解析には有用かもしれない。 しかし、それらは、読者やブロガーがどのようにブログと接しているかを理解するうえでは、あまり有用と言えず、ミスリーディングであるとさえ言える。 ブログをブロガーや読者の観点から考えると、学術的に定義されているブログという用語ではなく、ブログ活動に従事する人々の利用する用語の方が有用であると考える。

とりあえず今日はここまで

後編に続く。

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