社長自らが考えたビットアイル第5データセンター
ビットアイルが文京区に建てた新しいデータセンター(第5データセンター)の記者発表会に参加してきました。 第5データセンターは、住宅地に隣接しているので騒音対策が求められるなど、建物等に対する各種制約が存在しますが、そういった制約のなかで最大限のエネルギー効率と経済効率性を目指した設計なのだろうと思えました。
社長のアイデア
株式会社ビットアイル 社長 寺田氏
第5データセンターの構想は、ビットアイル社長が米国にあるIntelとFacebookのデータセンターを視察したところから開始したそうです。
見学したデータセンターが「面白い」と思った社長は、米国での食事中におもむろにペーパーナプキンの上に空調デザイン案を描き始めたところから開始しているようです。いまから3年前のことだそうです。 建設地が決まるよりも前に、まずは空調に関してのアイデアがあって、その後に各種準備が進んだというのは面白いエピソードだと思いました。
空調はデータセンター全体の消費電力を大きく左右する要素でもあり、各社のデータセンターで大きな特徴となっていることが多いのですが、構想開始の経緯からも、第5データセンターでも空調は非常に大きな特徴と言えそうです。
2層構造のサーバ室
ビットアイル第5データセンターの大きな特徴は、サーバ室と機械室を別々の階に分離した構造であることです。 空調設備などをサーバ室の上階に設置しつつ、サーバ室の階と機械室の階をセットとして運用するというものです。 (ただし、サーバ室と機械室を別の階にすることで完全に分離するという仕組みそのものも、ビットアイル独自というわけではありません。)
記者発表会資料より
サーバ室と機械室がセットとして構築されている第5データセンターですが、サーバ室の上部に作られた機械室から冷気が下に向けて送られる構造です。上階から下階へと送られる冷気の量が必要に応じて変化するのが、第5データセンターの大きな特徴です。サーバ室の各所にセンサーが設置されており、熱くなっている部分のファンを強くまわすことで、必要なところに多くの冷気が送り込まれるように設計されています。
第5データセンターは、サーバ室と機械室が2セットあります。建物の高さ制限をクリアする範囲内でデータセンターを構築するために、最下層部分は地下になっています。最下層のサーバ室の下は、データセンターを免震にするための設備になっています。
外気空冷システム
第5データセンターの空調システムは、外気空冷システムを利用したものです。 ここ数年、日本でも外気冷却を行うデータセンターが建設されていますが、ビットアイルとしては初の外気冷却を行うデータセンターです。
第5データセンターの外気空冷システムも、一般的な外気空冷システムと同様に、気温や湿度などの外気条件がサーバ室の冷却に利用可能であるときに外気を取り込んだ冷却が行われます。取り込まれた外気はミキシングチャンバーを経由します。ミキシングチャンバーでは、サーバ室を経由して温められた暖気と外気が混合され、適切な気温や湿度に保たれた空気が再びサーバ室へと送り込まれます。
ミキシングチャンバー(写真はビットアイル提供)
上記写真はミキシングチャンバー内で撮影されたものですが、左側のフィルタの外側に外気取り込み口があり、右側フィルタの外側に冷却コイルがあります。
サーバ室を通過した暖気は、上階からの冷気による圧力で横に押しやられます。外気を取り込んでいるときには、横に押しやられた暖気が外へと排出されます。外気を取り込んでいないときには、全ての暖気が再びミキシングチャンバーへと送られます。
暖められた内気は、排出口を通り排出されます。その排出口は、特注で作られています。通常の排出口にしてしまうと、気圧によって排出口が押されて空気が漏れてしまうため、円柱状の排出口になっています。内気の排出が行われるときに、円柱がまわって穴が空きます。
円柱状の排出口
上層と下層で異なる排気経路
第5データセンターでは、吸気を上から下へのダウンフロー方式で行っており、上からの冷気に押されて暖気が動きますが、外気を利用しているときには暖気が冷気に押されて抜けていきます。
上層部分では、機械室がある階から外気を取り込み、サーバ室がある階から暖かくなった内気を排気できます。下層部分では、サーバ室がある階が地下になっていることもあり、そのまま内気を排出できません。内気を排出するために、ひとつ上の階に暖気を持って行ってしまうと、冷たい外気と混ざってしまうので効率が落ちてしまうためです。
そういった事情もあり、下層部分では、南北から吸排気しつつ、地下の免震層を経由して暖気が東西に抜ける設計になっています。
モジュラーチラーを利用した冷却システム
外気のみで冷却が常に行えるわけではありません。第5デーセンターにも、当然、冷却システムが備わっています。
第5データセンターは、モジュラーチラーという設備によって冷却が行われます。第5データセンターで利用されるモジュラーチラーが冷却を行う手法は、自動車のラジエータと同じような方法です。
建物の屋上に設置された第5データセンターのモジュラーチラーは、省スペース設計です。できるだけ表面積が大きくなり、冷却効率が高くなるように、モジュラーチラーのコイル(熱交換部)は斜めになっています。
屋上に設置されたモジュラーチラー
斜めになっているモジュラーチラーの熱交換部(写真はビットアイル提供)
第5データセンターは、水冷媒による液冷システムです。密封された水が、屋上にあるモジュラーチラーで冷やされ、データセンター内を通る配管を通じてミキシングチャンバーにあるコイルユニットへと送られています。ミキシングチャンバーを経由した暖気がコイルユニットに触れて冷やされますが、その際に温められた水は、再び屋上のモジュラーチラーへと送られて冷却されます。
機械室で一括して空気の流れを作る
第5データセンターでは、機械室の床に設置されたファンが一括して建物内の空気の流れを作ります。
モジュラーチラーから送られた冷却水を通すコイルなどを含むエアハンドリングユニットや、外気空調の外気取り込み部分、暖気を建物外に排出する部分などにファンが無いのも、第5データセンターの大きな特徴と言えます。
機械室は、以下の写真のようになっています。
機械室(写真はビットアイル提供)
機械室の床は、道路の排水路にかける蓋であるグレーチングと同じような、格子状に組まれた鋼材になっており、その下に下階へと空気を送り込むファンがあります。ファンは、機械室のある階から、サーバ室のある階に向けて上から下へ吹き付けるように設置されています。
機械室の床下にあるファン
機械室の床が格子状になっているため、機械室に入るときには、靴の上にカバーをつける必要があります。靴底にゴミがついていると、それがファン周辺に落ちてしまいます。
機械室に入るときに利用する靴カバー
機械室の床下に設置されたファンは、ビルオートメーションシステム(BAS)によって制御されており、必要に応じて必要な箇所のファンがまわるようになっています。サーバ室で気温が高くなっている箇所の上にあるファンが強くまわり、そうではないところは弱めにまわることで消費電力を削減するという設計です。
機械室全体が空気の流れを作っていることは、機械室の扉を開けた時の凄い風でもわかります。 機械室の横にコイルユニットが設置されていますが、そのコイルユニットの裏にミキシングチャンバー室があり、今回の記者発表会でそこを見学することができました。機械室からミキシングチャンバー室へと出入りできる扉を開けると、すごい勢いで風が機械室へと流れ込みました。
上階の屋上へ出る扉を開けると凄い風が
このように、機械室が空気を吸い込む形になっているので、外気取り込み口を開くだけで空気が流入する構造になっているのも、第5データセンターの大きな特徴です。
サイレンサー
ミキシングチャンバーから機械室に入ったところにサイレンサーが設置されています。
サイレンサーの設置箇所
第5データセンターは住宅地域と隣接していることもあり、45dbを超える音が外に漏れないようにする必要があります。外気を取り込み口が開くと、外気と機械室の間に壁が一切ない状態になるため、機械室の音が外に漏れてしまいます。機械室の音をサイレンサーで吸音することで、外に出る音が45db以下になるようにしてあります。
音を45db以下に
サイレンサーは、下記写真のように並行に立てられています。
サイレンサー
サイレンサーの仕組みは、下記図のように音がサイレンサーの壁に当たるときに、跳ね返らずにサイレンサーに吸音されるというものです。
サイレンサーの仕組み
第4データセンターと隣接
第5データセンターは、第4データセンターと隣接しています。第4と第5が一体とした運用も可能な立地であると言えます。
たとえば、第5データセンター用の休憩所として、第4データセンターのものが利用されます。そのほか、データセンター利用者が契約可能なオフィススペースも第4データセンターのみにあり、第5データセンターにはありません。
データセンター全体を管理するコントロールセンターでは、建物外構監視カメラ、空調、電気、ネットワーク、サーバなどがすべて一括管理されます。コントロールセンターは、第5と第4の両方にありますが、双方ともにバックアップとして機能するように設計されています。
第4と第5の間に道路や河川などが無いこともあり、第4と第5で構内配線扱いでの配線も可能です。第4と第5の両方ともに2系統の対外回線があるので、第4と第5の双方にコロケーション契約を行ったうえで、その間を構内配線し、対外線2系統ずつを双方で利用すれば4系統による通信回線のバックアップもできるという設計のようです。
他のクラウドとの接続
株式会社ビットアイル 事業開発推進部 高倉氏
記者発表会では、昨年12月に発表された「ビットアイルコネクト」も紹介されていました。「次世代ハイブリッド・マルチクラウド接続サービス」と説明されていましたが、その内容としては、SoftLayer、Microsoft Azure、Amazon Web Services、ニフティクラウド、ビットアイルクラウドなどのクラウドサービスとのL3接続サービスをビットアイルが提供するというものです。
ビットアイルコネクト(記者発表会説明資料より)
ビットアイルの第1から第5データセンターの間に、それぞれを接続する独自の光ファイバ網がありますが、そのネットワークは他のクラウド事業者とも接続されています。そのネットワークを利用しつつ、ビットアイルデータセンターを利用する顧客に対して、他のクラウドとL3によって直接接続されたバーチャルルータが提供されるのが、ビットアイルコネクトです。
ビットアイルデータセンターの顧客は、ビットアイルコネクトに申し込むことで、各クラウドとの接続を行うための回線確保等を自前で行わずに各クラウドと接続が可能になるというサービスです。
ビットアイルコネクトそのものは、昨年12月に発表されており、そのサービスも第1から第5データセンター全てで利用可能ですが、第5データセンターの記者発表会で紹介することで、同社がマルチクラウドに力を入れていることを示したかったのかも知れません。
草原をイメージしたサーバ室
第5データセンターのサーバ室は、非常に特徴的な内装になっています。第1から第4データセンターはメタリックなイメージが各所で採用されているのですが、第5データセンターのサーバ室は「草原をイメージした」内装になっています。ラックが設置されているエリアへの出入り口部分も木目調になっています。こういった内装が施されたデータセンターは、非常に珍しいと思われます。
サーバ室内装(写真はビットアイル提供)
これまでのビットアイルは、全体的にメタリックなデザインが採用されていました。ビットアイルの事務所があるビルの外装や内装、データセンター内の内装、雑誌などでの広告のトーンなどがメタリックな感じになっています。
第5データセンターのサーバ室を、これまでとは違うトーンの内装にしたのは、落ち着いた内装にすることによって、障害対応等を行うたえに寒く過酷な環境で作業をするエンジニアの気持ちが少しでも安らぎを感じてくれればという理由のようです。
免震構造
第4データセンターは耐震でしたが、第5データセンターは免震であるという点も大きな違いです。
記者発表会資料より
免震ビット(写真はビットアイル提供)
免震ビットの横に、揺れを記録する装置も設置されていました。
揺れを記録する装置
最後に
ユーザがデータセンターを実際に利用するかどうかを判断するとき、データセンターの設計思想そのものよりも、その設計によってどれだけ経費が削減され、利用者にとってどれだけコストメリットがあるのかという部分が重視されがちでもあると思います。
とはいえ、データセンター見学は、いつも楽しいです。設計が開始される時期のトレンドが非常に色濃く出ることもありますし、設計者の思想が垣間見えることもあります。第5データセンターは、様々な部分で「設計者のこだわり」が垣間見えるデータセンターだったと思う見学会でした。
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