WCIT-12 総務省インタビュー(6)
Q: WTPFで両論併記になったとしても、その後、そこに書かれていることを利用することは可能だったりしますか?
2014年の全権委員会議で「WTPF-13でこういう話が出た」と持って来る国は出るだろうと思います。 この2014年の全権委員会議は、PP-14と略され韓国で開催されますが、WTPF-13よりも、そしてWCIT-12よりも重要かもしれません。
全権委員会議は、4年に一回開催されるITU活動に関する最高決定機関です。 WCIT-12はITRでしたが、PP-14はITRの上位にあるITU憲章及び条約の改正を審議します。 よって、ITU憲章と条約のTelecommunicationと書かれている部分を「Telecommunications/ICT」と改正する提案を出すことは可能です。
Q: ITU憲章と条約が改正された場合、今回のWCIT-12のように「サインしない」ということが大量に起きるとなにが起きますか?
憲章と条約は、現場でのサインだけでなく、サインした国の議会による批准が必要になります。 もし、新しいITU憲章・条約を批准しない国が多いと、憲章・条約が2種類存在するという妙な状況が出来上がります。
仮に新しいITU憲章がICT又はインターネットを含むとなった場合、これを批准しなかった国は新しいITU憲章に拘束されませんが、批准した国はITUの場で堂々とインターネット規制の話をできるようになります。
Q: ITUは、スコープとしてインターネットを入れようとしつつも今まで入れられていないということですか?
標準化に関して言えば、ITU-TのX.400シリーズ勧告などもありますが、基本的には下のレイヤーが対象です。 ICTがITU憲章に含まれると、上のレイヤーも扱えるようになります。 ただ、それを批准した国同士に限っての話になりますが。
Q: ITUがこれまでインターネットの規律をおおっぴらに行うことはできなかったけど、PP-14の結果次第でそれを法的拘束力を持って行うことが可能になる恐れがある、ということですか?
そうですねえ。ただ、その法的拘束力に実効性があるかどうかは疑問です。 仮に、ITU憲章を改正し、ITUという国際機関がインターネット・リソースを管理することが条文上可能になったとしても、この改正憲章を批准しない国には適用されません。となると、リソース管理権限がITUに譲渡されることはなく、現実は変わらないと見ることもできます。
Q: 話は戻りますが、WCIT-12の結果である新ITRがあるからといって、いますぐに何かができるということではないんですか?
はい。ITRはITU憲章の範囲を越えることはできないので、実際はできないと思います。
Q: 今回のWCIT-12は、どういった意味があったのでしょうか?
PP-14の前哨戦として意味があったでしょうね。 ITUの伝統であるコンセンサスでやるべく妥協点を探ったものの、最後は多数決で決着が図られた、という事実が示されたということだと思います。
Q: そうなると先進国側は警戒しますよね?
はい。 そもそも、WCITを開催するということそのものに先進国は否定的でした。
また、やったおかげで、省エネや障がい者のアクセシビリティという国際電気通信サービスと直接の関係があるとは思えない内容がITRに入ってしまうというおまけまで付きました。
(取材者注:省エネと障がい者アクセシビリティは、ARTICLE 8Aと8Bです)
ARTICLE 8A Energy efficiency/e-waste 57B 8.2 Member States are encouraged to adopt energy-efficiency and e-waste best practices taking into account the relevant ITU-T Recommendations.
ARTICLE 8B Accessibility 57D 8.3 Member States should promote access for persons with disabilities to international telecommunication services, taking into account the relevant ITU-T Recommendations.
ITRは、国際電気通信サービスに最低限必要なことしか書かないのが美しいと思うのですが、一部の代表が国に帰った時手柄と主張するために必ずしも必須でないものが入ってしまうんです。
Q: そういえば国連にInternet Governance Forum (IGF)というのがありますが、IGFが出来る話は悶着があって結局ガス抜きで終わったんでしたっけ?
IGFの設置は、2005年に開催された世界情報社会サミット(WSIS)第二フェーズで採択されたチュニス・アジェンダの中で決まりました。
2003年のWSIS第一フェーズで、Working Group for Internet Governance(WGIG)を作り、議論を集約することになりました。 このWGIGで作られた様々な選択肢の中には、IGFは、ICANNを監督する場、ないしは、ICANNを政府が監督する場合に関係者の意見を聞く場とするというものまでありました。
これらの様々な案が、2005年11月までの政府間協議を経て、チュニス・アジェンダで意見交換の場としてのIGFになったというわけです。
Q: そのころは、まだ規制反対側が勝っていたけど、今回のWCIT-12は抑えきれずに押し切られたと考えて良いのでしょうか?
今回抑えきれなかった、とまでは言えないと思います。 改正されたITRには、決定的な文章は何も入ってないですから。
(続く:次へ)
最近のエントリ
- 「ピアリング戦記」の英訳版EPUBを無料配布します!
- IPv4アドレス移転の売買価格推移および移転組織ランキング100
- 例示用IPv6アドレス 3fff::/20 が新たに追加
- ShowNet 2024のL2L3
- ShowNet 2024 ローカル5G
- ShowNetのローカル5G企画(2022年、2023年)
過去記事