WCIT-12 総務省インタビュー(4)
Q: IETFでの提案などを見ていて私は、ああいった提案は自国内でネット検閲等をやりやすくする目的だったと思っていたのですが、アメリカに切られることを警戒しているということですか?
中東諸国の発言を聞いていると、「アメリカが一国管理しているのがケシカラン」という感じでした。
だから、ITUでインターネットを管理したいと言っているわけですよね。 そういった話を将来、一国一票という原則のもとで数の力で決められてしまう恐れがあるとは言えそうです。
Q: 今回のITRにアメリカがサインをしないと発言してから、それに続いて他の国々が同調したと思うのですが、アメリカとして受け入れられない点はどこなのでしょうか?
アメリカは、今回のITRにインターネットという範囲の広い単語が入ったことが駄目だったのだと思います。 今回、それが入ったのはITR本体ではなく、法的拘束力のないResolutionではありますが、入ったこと自体が嫌だったようです。
Q: 今の話で多少わからなくなったのですが、アメリカが反対するのは良くわかる反面、なぜ日本はサインしないと判断したのでしょうか?また、ヨーロッパ等他の国々も同調した理由はどこですか?
法的拘束力をもつ条約であるにもかかわらず、議論が未熟で、条文の解釈が固まっていないということが主な理由です。 アメリカやヨーロッパは、ある条文について別の解釈もできる、と言っているわけです。
そのもとで署名してしまったら、当省が外務省の条約担当に「この条文はこういう解釈です」と説明している横で、他の国が「そんな解釈とは限りません」と言ってしまった場合、困るわけです。
1.1 a)で「contentに関しては対象としない」と最後の間際に議長が「これで文句ないだろう」と追加した条文があります。
これは、ヨーロッパがスパム対策はcontent issueであると反対したので、配慮で入れたというものでした。しかし、それでは足りなかったわけです。 contentというのは上のレイヤの一部に過ぎないじゃないですか。 Googleのようにcontent以外にも色々やっている事業者もあるわけで、このようなサービスに何らかの縛りをかけるようなことは一切反対なわけです。
Q: お話を伺っていると、決裂したのは事実ですし、その判断は妥当だったように思えます。ただ、結果に関しては、そこまで大きなインパクトが発生するような話ではないような気がしてきているのですが、それは正しいでしょうか?
はい。今回改正されたITRの内容、そしてそれにサインしたかどうかということは、実際面に大きなインパクトを与えるようなものではないと思います。
Q: ただ、決裂した結果とサインした国としなかった国の地図を見せつけられると、この事実は何かを示唆しているようには思えます
(画像はhttp://www.ipv.sx/wcit/より)
そうなんですが、気をつけなければならないのは、この色分けが対立構造であるという風にとらえてしまうと、状況を誤解する可能性もあるということです。 サインした国には、韓国の他、最近マルチステークホルダー指向を強調するようになったブラジルも含まれますから。
Q: 日本とアメリカの事情はわかったのですが、ヨーロッパはなぜサインしなかったのでしょう
Googleのような存在がないにしても、ヨーロッパは人権やインターネットガバナンスにおけるマルチステークホルダモデルを非常に重視しているので、マルチステークホルダではない場所で法的拘束力をもってインターネットを含むような内容が議論されたのは問題であるということのようです。
Q: その他の署名しなかった国々は、なぜ署名しなかったのでしょうか?
インドも署名してないんですよね。 インドは一貫してITRにcontents issueが含まれるのは反対であると言っていました。
Q: 韓国は署名してますね
はい。この件が韓国国内で盛り上がっているみたいですね。 韓国は2014年のITU全権委員会議の議長国ですからね。立場上はサインせざるを得ないと思いますよ。
Q: サインしたしないの色分けは対立というよりも、現時点での特色を表していると解釈した方がいいのでしょうか?
これが対立の構図であると使われてしまうと嫌ですね。 そもそも、サインした国がこのITR改正をきっかけとして、すぐに新たな規制に踏み出すとは考えにくいですし。
先ほど申し上げたとおり、Final Actは、解釈は定まっていないにせよ、この地図で黒く塗られている国々のうちの一部の譲歩によって当初に比べ表現はかなり収まったものになっていて、これをさらっと読むだけでは、今回の改正で新たに国に付与された権利など見当たらず「何で大騒ぎになってるんだろう」と思えるようなものになっているんです。
さっき申し上げたとおり、ITU憲章は既に、一国がアクセスを遮断したり、通信内容によって当局に通報する権利を認めています。 仮に、ある国が規制を強化するとしても、今回改正されたITRに「基づく」必要などありませんし、実際、基づくための新条項は見当たりません。
今回の改正ITRで一国が新たに得た権利は、あえて掲げるとすれば、例の「国家の国際電気通信サービスへのアクセス権の保証」くらいです。 が、この権利は法的には、その上位にあるITU憲章第34条第2項や第35条で定めた遮断権に対抗することはできないはずだ、と考えています。
(続く:次へ)
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