WCIT-12 総務省インタビュー(3)
Q: 3.8はどうですか?
これはアラブが提案したインターネット資源の話で、「Member States shall, if they so elect, be able to manage the naming, numbering, addressing and identification resources used within their territories for international telecommunications.」、つまり加盟国は、ナンバーリング、アドレッシングなどについて管理する権利を持つという内容です。
インターネット資源管理は各国に分散せよと求めているようなもので、当然、先進国は反対でした。 ITU事務局から、「ITUのmandateの範囲内で」を追加して妥協を探る動きもありましたが納得が得られず、第二週の木曜日に議長から示された最終案には、これは含まれていなかったわけです。
同じような条文は、アラブ、中国、ロシアなどによる共同提案Document 47にも含まれていました(取材者注:Document 47-EWCITLeaksのPDF参照)。
ADD ALG/ARS/BHR/CHN/UAE/RUS/IRQ/SDN/47/48
31F 3B.1
Member states have the right to manage all naming, numbering, addressing and identification resources used for international telecommunications/ICT services within their territories.
Q: これは「過激なインターネット規制案が取り下げられた」と報道されてた提案ですか?
はい。このDocument 47がそうです。
1週目の金曜日に、同じ意見を持つ国の意見をまとめて出すという話が出て、WCITLeaksに流れた版には提案国にエジプトが入っていたのですが、翌週月曜日にエジプト代表が「我が国は関係がない」とプレナリで宣言したのでその名前が提案国名から消された上で、ITUのサーバの提案一覧にアップされました。
この提案は、取り下げられたということではないようですが、実際の審議にはかかりませんでした。
この提案の中には「Telecommunication/ICT」とあるので、ICANNの話を含みうるわけです。
ただ、ITU憲章はTelecommunicationについてしか書いておらず、ICTは対象としていません。 だから、Telecommunication/ICTとITRに書くよう提案するのは、ITU憲章の枠から明らかに外れてるんです。 つまり、この提案は、そもそもWCITに出すこと自体がおかしいんです。
しかし、アラブは「ICT」を追加するという提案を審議しないことを飲んで自分達は非常に譲歩したのに、先進国は何も譲歩をせずにずるいと感じていたようです。
Q: 最終的にサインした89カ国にとっては何があるんですか?
古くなって趣旨不明瞭になっていたITRの条文が使いやすくなったというのがあります。
Q: 「使いやすい」とは具体的にどういうことでしょうか?
旧ITRには使えなくなっていた条文がかなりあるんですよ。 その部分がなくなって、奇麗に改訂されました。
たとえばCCITTという今は存在しない機関名が入っていました。 このため、CCITT Recommendationsが何を指すのかが不明確になっていました。 しかし、これをITU-T Recommendationsに置き換えることによって、いま、生きているRecommendationsを指すようになったということがハッキリしたわけです。
ただ、Recommendationというのは法的な拘束力がないので、単に参照できるものが増えるというだけであって、何か権利もしくは義務が増えるというところまではいきません。
逆に、今回のWCIT-12議論の中では、Recommendationというものを法的拘束力あるものにしようという提案もありました。 それは通りませんでしたが。
WCIT-12での議論の過程では色々な意見が出て、ある特定の方向に内容を引っ張って行こうとした国々はあったわけです。 そのせめぎ合いだったわけですが、ほとんどの極論は防がれたと思って頂いていいと思います。 だからこそ、こうやってCCITTがITU-Tに変わったとかいう「わかりやすくなった」という程度の改正で終わっているんです。
ただ、先ほど申し上げたとおり、採決の結果「right of access of Member States」という文が入りました。 この提案は、さきほどお伝えしたようにキューバが提案したものですが、ロシアや中国が別の思惑でサポートしました。
Q: なぜロシアや中国は、これをサポートしたのでしょうか?
それは、アクセスを加盟国の権利と位置付けたいからですよ。 たとえば、ルートゾーンをアメリカという一国だけが管理しているじゃないですか。 恐らく、そういうところが問題だ、ということだと思います。 ロシアは、「アクセスの話の中にインターネットリソースのアクセスも入れろ」と言っていました。 とにかくロシアは、あらゆるところに「インターネットリソース」を入れたがりました。
アメリカ一極集中ではなく、インターネット資源を自国管理したいということだと思います。 たとえば、以前のIETFで中国からルートゾーンを分ける提案があったような感じで(取材者注:参考)、ICANNが「one Internet」と言っているのに対して、ロシアや中国がdivided Internetを指向しているんじゃないかと思います。
(続く:次へ)
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