WCIT-12 総務省インタビュー(2)
Q: このITU憲章は、いつからこの内容なのでしょうか?
少なくとも14年は変わってないと思います。
WCIT-12で改正審議されていたITRは、もともと、その前文に「ITU憲章を補完する」と明記しています。 つまり、憲章で現時点でも国の主権として認められている範囲におさまっているはずなんです。
Q: 今回の新ITRにサインしないことの意味を教えて下さい。サインしないことによって旧ITRが適用されると思うのですが、サインしない国が非常に多くなると何が起きるのでしょうか?
サインした国は新ITRを適用し、しない国は旧ITRを適用するというだけのことです。
Q: それぞれの相互接続で影響が出ることはあるんですか?
ありません。
というのは、ITRがそういうことに影響するような内容になってないからです。 ITRは料金精算の原則などを定めていますが、通信プロトコル等を決めているわけではありません。
しかもFinal Actは、審議の結果サインしようがしまいが、実際面での影響が無いような内容に最終的になっています。
2週目中旬時点でのバージョンは、もっと過激でした。 特に、3.7と3.8がそうでした。
ただ、実質的に最終日となる2週目木曜日に議長から出て来たバージョンでは、3.7と3.8が落ちていました。
Q: 3.7と3.8には、何が書いてあったのでしょうか?
3.7はキューバが提案したのですが、「各国は差別無くインターネットにアクセスできる」という内容です。 キューバは、アメリカからの制裁としてインターネットに接続させてもらえないことがあるらしいんです。 アメリカは「それは安全保障の話である」と言って3.7の追加に反対し、欧州もサポートしたのですが、中国、ロシア、アラブ、アフリカ諸国も加わって本条文の新設を要求し続け、双方から妥協案は示されてはいたものの、妥協に至らず議論は平行線のままでした。 第二週の木曜日に議長から示された最終案からはそれが落ちていたんです。
ところが、アフリカ諸国等、これに不服な国が前文(PREAMBLE)に似たような趣旨の文章を挿入することを提案しました。 これが審議の中で微修正され、採決で了承されて、Final Actの序章の第3段落「These Regulations recognize the right of access of Member States to international telecommunication services.」となったのです。
この条文の追加をめぐっては、審議が非常にもめました。
Q: それがどうもめたのでしょうか?どっちの陣営がどのように反対したのですか?
まず、新たな一文を追加すること自体について議論がありました。 先進国はインターネットを指していることが明らかな「国際通信」へのアクセスを保証することに前向きでないことはわかっていたので、議長は追加なしにさっさと進めたかった。 でも、一部の途上国は「ITU加盟国」は人民の集合体なのだから加盟国の国際通信へのアクセスは人権の一部のはず、と主張し始め、この考え方を巡って、先進国と途上国との間の意見の応酬が始まったわけです。 先進国側は、国家を「人権」を享受する主体と見なすことは問題であり、WCITは新しい人権について議論する場としては不適切だとして反対しました。
なお、ITU憲章第34条第2項には、安全保障上の理由により、加盟国はアクセスを切断できると規定されていますし、第35条には、ITU事務総局長に通報さえすれば国際回線を繋がなくても良いと書いてあります。 また第33条には、すべての利用者に対し、いかなる優先権又は特恵も与えることなく同一とする、と書いてあります。 ITRにnondiscriminatoryアクセスの条文が入った場合、それはITU憲章と矛盾するのか、それとも憲章に反しない範囲で保証されるだけなのか、という点も議論されるべきだったと思います。 が、現実には、そこまでの議論にはなりませんでした。
(続く:次へ)
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