記者会見全文書き起こしのツライところ
最近、一部ネット界隈で記者会見の全文書き起こしが話題ですが、全文書き起こしって結構ツライと思います。 で、daichiさんが「会見全文は企業側がやった方が良いのでは?」と書かれていますが、個人的には半分賛成で半分懐疑的です。
一応、誤解されないように最初に書いときますが、現時点における記者会見の運用に様々な課題等があるのだろうと私も思います。 以前、以下のような記事を書いたりもしています。
とはいえ、全文書き起こしってツライよなぁ、という感じです。
そもそも全文書き起こしは損
全文書き起こしというスタイルは、ネット媒体が行える強みだと思います。 紙媒体だと普通はある程度の文量制限がありますし、たとえば、図や写真を増やすと文字数を減らさざるを得なかったりします。 ネットでは、文量が増えた分だけページを下に伸ばしたり、ページ数を増やせばそれで良いので、全文書き起こしと相性が良いと言えます。
しかし、多くの場合、ネット媒体はPVが求められます。 PVという視点で見ると、全文書き起こしはかなりツライです。 効率悪過ぎです。
ネット記事って、センセーショナルな部分を強調しつつ短く書くのが最も効率が良いわけで、ネット記事作成ノウハウから見ると、全文書き起こしは本当に損です。 他の誰かが行った全文書き起こしをベースに短く要点をまとめた記事の方が好まれます。
「自分ではない誰かにやって欲しい」では?
ネット上では、どちらかと、「全文書き起こしを誰かにやって欲しい」という傾向があるのではないでしょうか。 全文書き起こしを自分でやるのは恐ろしく時間と労力がかかります。 記者会見がネット中継されていれば、自宅で書き起こしも可能ですが、そうでなければ記者会見会場まで行く必要があります。 その後、全文書き起こしをすることを考えると、行き帰りの時間と会見時間と書き起こし時間がかかります。 書き起こし作業にかかる時間ですが、1時間の会見の全文書き起こしを丸一日で完成させられれば、かなり早い方だと思います。
一方、誰かが全文書き起こしを用意してくれれば劇的に楽になります。 そもそも記者会見が記者限定であれば、アクセス不能だった生情報にアクセスできるようになるというメリットもありますが、ネット中継が行われていた場合でもメリットがあります。
たとえば、1時間の会見がUstreamされていたとして、それを全部見るには最低でも1時間かかります。 しかし、誰かが全文書き起こしをしてくれれば、その会見内容を全部理解するのにかかる時間は劇的に短縮されます。 Seek作業が非常に楽なのも全文書き起こしの特徴だったりもします。 録画映像を見ていると、「あれ?これさっき何て言ってたっけ?」みたいな話を確認するのに時間がかかりますが、文字になっていると確認が凄く楽です。
ということで、全文書き起こしを望む声が大きいのは、恐らくそうなるだろうなぁという感想です。 だって、それが行われることで利益がある人が多いわけですから。
問題は、誰がどのように労力の負担をするかですね。 昔からある、「それは出来た方が良い、でも、それがペイしないことに関するブレークスルーは誰かに発明してもらいたい」みたいな他力本願系ネタっぽいんですよね。 (だからこそ、その「誰か」がスケールする形で組織されたら世界を変えられる可能性を持つのでしょうが。)
企業側が全文書き起こしを用意するのが当たり前になると記者会見が必要なくなるのでは?
全文書き起こしの労力を考えると企業側が用意すると良いのでは?というのは、案としては面白いと思います。 しかし、それが定常化すると、そもそも記者会見の意味がなくなる事態になりそうな気もしています。
というのも、企業側での運用を考えると、発言したことを全文書き起こしするのではなく、あらかじめ原稿を作成したうえで発表が読み上げだけになる可能性が高い気がしているためです。 今の記者会見って、発表側の油断があるからポロリがあるわけで、それが文字や録画として残ることが最初からわかっていれば、発表側による油断は減りそうです。
そうなると、記者会見は完全な原稿読み上げだけになるような気もしています。 どうせ全文書き起こしを提供するのであれば、原稿から外れない発表内容にした方が作業が減りますし。
記者会見に参加する側も発表をろくに聞かなくなる可能性がありそうです。 「どうせ全文公開されるんでしょ」とか思うと、記者側も油断しそうです。
で、最終的に質疑応答以外の部分はやる意味がなくなり、プレスリリース文書が報告書並のサイズになるだけとかになるかも知れないという感想があります。
書き起こし記事の感触
全文書き起こしに関して色々とネガティブなことを書いてますが、全文書き起こしは情報量が増えるので、私は好んで書いています。 私が取材に行くと、全文書き起こしに近いことをしていますが、はっきり言って凄く効率が悪いです。
ちょっと方式が極端ですが、つい最近行ったのがHTTP 2.0標準化に関するインタビューです。 これは、インタビュー相手が英語圏の方だったので、英語で発言されたことを書き起こしたうえで英文で掲載し、それを日本語訳したものを日本語記事として掲載しました。
- HTTP 2.0 Interview - Mark Nottingham, IETF httpbis working group chair
- HTTP 2.0最新動向インタビュー - IETF httpbis wg チェア Mark Nottingham氏
こうすることで、インタビュー相手が何を言ったのかが詳細にわかると同時に、どのように翻訳(場所によっては意訳)されたのかを読者側が確認可能となります。
インタビュー自体は1時間強ぐらいだったのですが、この記事を書くために膨大な時間をかけました。 その結果、かけた時間に見合うだけのPVがあったかというと、、、残念ながらそこまでではありませんでした。
内容がマニアックというのもあるのでしょうが、PVという視点で見ると、やっぱり要点のみを端的にわかりやすく示した方が効率が良いんですよね。 詳細な情報を掲載した方が、一部の方々に喜んで頂けるので、こういった方式を好んで記事を書いてますが。
最後に
全文書き起こしよりも会見風景のノーカット録画映像提供の方が実は労力としては少ないかなぁと思いつつも、動画トラフィックをホスティングするのは費用がかかるのでやるとしてもUstreamやYouTubeなどの既存プラットフォーム上かなぁみたいな感想もあります。
各種記者会見での全文書き起こしが実現したら、面白いと思う一方で、継続的な運用を行うには結構な労力が必要だろうなぁと思う今日この頃です。
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