ネットに溢れる炎上や私刑は快楽のため?
インターネットの普及とともに、ネットにおける炎上と私刑のような叩きが日常的に観測されるようになりました。 それらは、日本だけで発生しているのではなく、世界中で観測される傾向です。 たとえば、中国では何らかの事件が発生すると「人肉検索」と呼ばれる身辺調査がネット上で行われます。 ネット上での検索だけではなく、ターゲットとなった人物の周辺にいる人々が情報提供したり、関連する情報を持つ職業についていると思われる人物がネット上に情報をリークしたりもします(日本では現場偵察を示すネットスラングとして「スネークする」というものがあります)。
で、なぜ人々が私刑のようなネットでの叩き行為を行うのかというと、実は「それが気持ち良いから」なのではないかと最近は推測するようになりました。
誰かが何か非常に悪いことをしたとか、悪い誰かのせいで誰かが非常に可哀想な目にあった、というようなニュースを聞くと心が痛くなることがあります。 自分とは直接関係がないはずなのに、ニュースを見ただけで気分が悪くなったり、ムカムカしている自分に気がつくことがあります。 で、そういったニュースに対して、たとえばソーシャルブックマークやソーシャルメディア等で怒りの表明等を行うと、こころなしかスッキリした気分になることがありました。
そのような自分の感情というか、気分に関して、「これ、なんなんだろう?」と以前から思っていたのですが、最近は、「ネットに書くことで実際にスッキリしていた、というか、脳内で快楽を得ていたのでは?」と推測しています(科学的根拠がない私の想像でしかありませんが)。
ソーシャルメディアへの投稿で満足感
今年5月に、Facebookなどのソーシャルメディアに対して投稿を行うことが、脳に対して食事やセックスと似た「ご褒美」になるというニュースがありました。
そこでは、以下のようにあります。
両氏の研究チームによると、自分の感情や考えなどを他者に伝える「自己開示」によって、脳内では快楽物質ドーパミンに関連する領域が反応を起こすことが分かった。ドーパミンは報酬への期待や満足感に関係する化学物質だ。
ネット上で自己開示を行うことは、快楽ではないかという話です。
悪い人が罰を受けることを知る快楽
natureに掲載された2006年の論文で、フェアに振る舞う人が痛みを受けると脳内で痛み関連脳領域が反応し、アンフェアに振る舞う人が痛みを受けると快楽に関連する脳領域が反応したようです。
論文の概要には、以下のようにあります。
男女の被験者を二人組にして経済ゲームをさせ、パートナーがフェアにふるまう場合とアンフェアにふるまう場合とを作り、その後パートナーに罰を与えて、その際の脳活動を機能的磁気共鳴画像法で測定した。男女とも、痛み関連脳領域(前頭-島皮質と前帯状皮質)に、フェアなプレーヤーに対して共感に関連した活性化が見られた。しかし、アンフェアな者が罰を受けたときには、男性被験者で共感関連反応が有意に低下した。この効果は、報酬関連領域での活性増大を伴っており、報復の意志表明と相関していた。したがって、少なくとも男性では、他人の社会行動の価値付けによって、フェアな対戦者に対しては共感し、アンフェアな対戦者への体罰を好むように共感反応が変化することがわかった。この発見は、利他的な罰という考え方を支持する最近の証拠と符合する。
この論文で面白かったのが、男女で罰に対する捉え方が違ったという結果が出ていたことです。 縦軸が「Desire for revenge」グラフで男性の方が高いとあります。
Empathic neural responses are modulated by the perceived fairness of others より
ただ、論文では、男女に有意な差があるのは罰が「悪い方に痛みを与える」という物理的なものであったことが理由の可能性もあり、さらなる研究が必要であるとしています。
罵倒は痛みを和らげる
2009年に、罵倒が痛みを和らげるというニュースがありました。 罵倒を続けた被験者の方が、そうではない被験者よりも長く痛みに耐えられるという実験結果を紹介したものです。
追いつめられたネットユーザの言葉が徐々に汚くなっていくのは、こういった要因もあるのかも知れないと思うこともあります。
ネットの一部が荒れるのは、実は「自然なこと」なのかも
こういうニュースや論文を見ると、ネットにおける罵倒や炎上等は、実は「なるべくしてなっている」という話なのかも知れません。 「青い光を駅や踏切に設置して自殺激減」というニュースが今年前半にありましたし、自分で自覚している以上に人間も本能な部分があるような気もしています。
ネット上で何か嫌なものを見てしまっても「とりあえず落ち着け自分」とか考えるようにしていますが、ネット上で暴れ回りたくなる気持ちも凄く良くわかる今日この頃です。
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