企業名/ブランド名gTLDのはなし
先日、ICANNによるNew gTLDsプログラム応募者が公開されましたが、多くの企業が自社名等を示すgTLDを申請していました(参考)。 それに対するネット上での反応(たとえばTwitterなど)では、「ブランド名は取るべきだ」とか「大企業として良くやった」というような好意的な意見も非常に多く出ていました。
ただ、個人的には多少微妙な感想を持っています。 New gTLDsは、トップレベルドメインを管理運営するレジストリの募集なので、.comや.net以下のセカンドレベルドメイン登録とは大きく意味が異なります。 恐らく最も大きな違いは「レジストリになる」という点だと思います。
そのレジストリに課される条件として、「全てのレジストラを平等に扱わなければならない」(ドメイン名登録におけるレジストラの機会均等)というものがあります。
以下は、2008年のJPNICニュースレター記事です。 今回のNew gTLDsの話題ではなく、gTLD新設第三ラウンドの話なので多少話が古い部分もあるのですが、以下の部分に関しては現在も変わってません。
レジストリ-レジストラ モデルは、元々アメリカの独占禁止法に対する対策として考えられた仕組みで、gTLDの登録機関(レジストリ)は一般顧客から直接ドメイン名登録の申請を受けることができず、必ずICANN認定のレジストラを通さなくてはいけない、という制度です。
そういった背景もあり、今回のNew gTLDsに関しても、自分自身の企業名で申請せずにレジストリとなる組織を別会社にしているのではないかと思える申請も多いです。
2008年のJPNICニュースレターは、さらに以下のように続きます。
レジストラ経由で来た申請を拒絶することも許されず、また特定のレジストラを他のレジストラに対して優遇することも許されていません。今話題となっている「gTLDの新設」は、新しいレジストリの募集であり、確かにこれまでの2回のラウンドに比べて大幅に審査基準が緩和されることが期待されていますが、レジストリ-レジストラ モデルは厳格に堅持されることが予想されています。このため、例えばIBMが「.ibm」というTLDを申請することはできますが、それが承認されたとしても、IBMが「xxxx.ibm」というタイプのドメイン名を自分の好き勝手に登録できるわけではありません。レジストラ経由で「anti.ibm」というドメイン名登録申請が来ても拒否できないのです。
さて、では、New gTLDsのApplicant Guidebookを見てみましょう。 Applicant Guidebook 4 June 2012のModule 1-24には以下のようにあります。
Registrar Cross-Ownership -- ICANN-accredited registrars are eligible to apply for a gTLD. However, all gTLD registries are required to abide by a Code of Conduct addressing, inter alia, non-discriminatory access for all authorized registrars. ICANN reserves the right to refer any application to the appropriate competition authority relative to any cross-ownership issues.
レジストリは、ICANNによって公認された全てのレジストラを非差別的に扱わなければならないとあります。
.com以下で登録したセカンドレベルドメインと同じ感覚で「私が使っているドメイン名だから、それ以下も自由にできる」という認識だとすると危ない気がします。 特に問題が起きそうなのは企業名ブランドgTLDです。
先日公開されたリストを見ると、AppleがAPPLE、GoogleがGOOGLE、MicrosoftがMICROSOFT、ORACLEがORACLE、百度がBAIDUなど、様々な企業が自社ブランド名を申請しています。 トップレベルドメインを申請している日本企業としては、以下のものもありました。
- CANON
- FUJITSU
- MITSUBISHI
- NHK
- NICO(ドワンゴ)
- NTT
- NISSAN,DATSUN
- PANASONIC
- SAKURA(さくらインターネット)
- SOFTBANK
- SONY
- SUZUKI
- KONAMI
- TOSHIBA
- TOYOTA
- YODOBASHI
- 他、色々
条件次第では、これらのブランド名(企業名)gTLDに対して、.comや.netなどと同じように万人が自由にドメイン名登録申請可能になるかもしれないのです。 たとえば、appleというgTLDが承認されたとして、そのセカンドレベルドメインとしてgeekpage.appleを取得できる可能性がゼロではないかも知れません。
さらに、たとえば誰かが「mail.nhk」というドメイン名を第三者レジストラから登録申請したとして、レジストリ側がそれを拒否できなければ、登録が可能となってしまいます。 そのうえで、そのドメイン名を利用してメールを出せば、その企業に所属している人物からのメールだと思い込ませることが可能になりそうです。
とはいえ、実質的に独占可能?
とはいえ、実質的には一企業が特定のgTLDを独占的に使うことも可能となっているようにも思えます。
レジストリ側も「どのような部分で一般登録可能にするか」という点を判断可能だとは思うので、「セカンドレベルドメイン名を一般登録可能にしない」とか「一般登録可能なセカンドレベルおよびサードレベルドメイン名を一つも作らない」という手段もあります。
さらに、事実上他人が登録を出来ないように申請条件を整えたり、登録料を異常に高くするような方法もありそうです。
ICANNで公開されているFAQには以下のようにあります。
1.9 Can I pre-register a second-level domain name?
Be wary of anyone who claims to be able to reserve your place in line for a second-level registration for one of these new gTLDs. Not only can no one predict which TLDs will be available, but the new TLD operator may choose not to sell second-level registrations.
gTLDを運営するレジストリがセカンドレベルドメインを開放しないことも可能であるとあります。
この他、gTLDの独占的な利用に関して、FAQの後半に色々あります。
9.2 If I apply for a TLD for my exclusive use and will only issue domain registration for internal use, must I use an ICANN accredited registrar?
Yes. Registry operators must use only ICANN accredited registrars in registering domain names. If a registry operator wishes to issue domain names, it must become an ICANN accredited registrar in order to do so.
9.3 If I want to register a gTLD solely for my own use, for example, solely for use by my company, partners, consultants, shareholders, auditors, etc., can I limit the issuance of second level domains to those individuals? Can I refuse to accept applications for second level domains from members of the public in general?
Yes. The applicant is responsible for setting the business model and policy for how they will use their gTLD, so long as the registry is in compliance with the terms of the registry agreement.
9.4 If I want to register a gTLD solely to promote my own brand and undertake my own marketing plans, can I refuse applications for second level domains from my competitors? Can I also refuse applications for second level domains from individuals who appear to be cybersquatters or scammers?
Yes. The applicant is responsible for setting the business model and policy for how they will use their gTLD, so long as the registry is in compliance with the terms of the registry agreement.
それぞれ、gTLDの独占的な利用が可能であるとしていますが、「so long as the registry is in compliance with the terms of the registry agreement」とあるのが大きなポイントだろうと思います。 「それはregistry agreementに反する」と言われた場合には独占的な利用ができなくなってしまいます。
New gTLDsに関しては、レジストリとしての縛りを緩くして欲しいという「多数の声」が時間と供に大きくなるとは思うので、レジストリ-レジストラモデルがどうあるべきかの議論が発生して、その結果次第で変わって行きそうな気はします。 New gTLDsって、TLDが増えることそのものよりも、それを利用する利害関係者がICANNに大量に流れ込むことの方が長期的にはインターネット構造に大きな影響を与えそうな気はします。
最後に
トップレベルドメインは、今回申請している企業が登録および利用してきたセカンドレベルドメインとは全く概念が違います。 レジストリになるというのは、「自分用に取得する」という話ではなく、「第三者が使えるようにする」という部分が付随してきてしまうためです。
ここら辺の話って、意外と議論されてないような気がします。 ICANNも情報の出し方として「これは革命的だ!」という宣伝文句ばかりを前面に出すんじゃなくて、「ここら辺は注意した方がいいよ」とか、Trademark Clearinghouseまわりの話をもっと前面に出せばいいのにとか思わなくもない今日この頃です。
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