IPv6とIPv4アドレス在庫枯渇問題の感想

2012/4/18-1

IPv6やIPv4アドレス在庫枯渇問題に関しての私の感想です。

  • IPv4アドレス在庫枯渇問題が現実のものとなり、今後のIPv4インターネット運営が徐々に行き詰まると思われるので、IPv6は必要だと考えています。
  • IPv6はこれから普及していくと考えています。
  • 一方、IPv4はインターネットの中心的な通信手段として結構長い間、使われ続けると考えています。
  • たとえば、20年後ぐらいにIPv4が主流であり続けるのか、それともIPv6が主流になるのかは、現時点では私には予想できません。
  • IPv4とIPv6の違いはIPアドレスが32ビットか128ビットかだけではなく、結構違います(IPv4とIPv6の違い)。
  • IPv6を無条件に他人に強要するのも、IPv6を全否定するのも個人的には適切ではないと考えています。
  • 短期的視点で見た場合、IPv6はIPv4アドレス在庫枯渇問題を直接的に解決するものでも、緩和するものではありません。 現時点では、世界の99%以上の人々が利用しているのはIPv4であり、IPv4アドレス在庫が枯渇した代替としてIPv6を利用できないので、IPv4アドレスが足りなくて困ったからIPv6を導入しても基本的に意味を持ちません。
  • 長期的視点で見ると、IPv4利用者数を減らしてIPv6へとユーザを移行させることはIPv4アドレス在庫枯渇問題の対策であると言えます。 それには、世界中の多くのユーザが現在のIPv4ではなくIPv6を使うように促す必要があります。
  • IPv4アドレス在庫枯渇問題による不利益が多くなるため、早くIPv6へとユーザを移行させたい立場であれば「IPv6がIPv4アドレス在庫枯渇問題の唯一の解決策である」といいがちです。 逆に、現時点でのサービスを継続することが重要な立場であれば「現時点でのユーザの大半はIPv4を利用しているので、今行うのはIPv6への移行ではなく、従来通りIPv4でのサービスを提供しつつも、IPv6という新しいプロトコルにも対応することである」と言いがちです。
  • 「IPv6への移行」という表現を使っているのか、それとも「IPv6対応」という表現を使っているのかで、その表現者のスタンスが何となく推測可能です。
  • IPv6はIPv4アドレス在庫枯渇問題の直接的な対策とは言いにくい側面とIPv4アドレス在庫枯渇対策であるという側面が両方あるので多少話がややこしいです。
  • IPv4アドレスは消費して消えるものではないので、IPv4アドレス在庫が枯渇して困るのは「成長している場合」です。
  • 歴史的経緯から、日本には非常に多くのIPv4アドレスが割り振られており、他の国や地域と比べるとかなり余裕がある方です。 インターネットの普及が既にある程度終わっていて、かつ、IPv4アドレスが多く割り振られているという点がポイントです。
  • 急激な成長まっただ中にIPv4アドレス在庫が枯渇してしまった中国とインドにとっては、IPv4アドレス在庫枯渇問題は非常に大きな問題です。 数年後に、IPv4アドレスを巡って論争(「日本とアメリカはIPv4アドレスをヨコセ!」とか)が発生するものと予想しています。
  • 大手キャリア3社は、IPv4アドレス在庫枯渇前にある程度余裕がある規模の割り振りを受けており、10年ぐらいは大丈夫なんじゃないかと邪推。
    追記:以下のようなご指摘を頂きました。「10年」はいい過ぎだったかも知れません。申し訳ありませんでした。
    大手キャリアは昨年初めに駆け込みで大量にIPv4アドレスを在庫枯渇前に取得しましたが、10年分も余裕はないと思います。どこもデータは公開していませんが、今のペースではせいぜい数年分ではないかと思っています。(すでにもう1年過ぎましたが) その理由の一つはアドレスの分割損などもあるためです。ISPは、すべてではありませんが、通常ユーザーに割り当てるアドレスを各地のルータに分散してプールしますので、利用効率は運用上100%といかず、実際はもっとずっと低いためです。
  • 成長しているホスティング事業者やデータセンター事業者は、IPv4アドレス在庫枯渇問題で凄く困ります。 現時点でユーザの大半がIPv4を利用しており、IPv6だけでサーバを立ち上げてもほとんどの人が使えないサービスでしかないためです。
  • ISPは、CGN(Carrier Grade NAT)などの技術を使って利用するIPv4アドレス数を圧縮することが技術的に可能なので、ホスティング事業者よりは何とかする方法が残っています。
  • IPv4とIPv6には直接的な互換性がないので、トランスレータなどの変換技術が介在しない状態では通信ができません。
  • IPv4とIPv6は全く別のネットワークですが、インターネットにおいて通信の中心的な役割を果たすDNS部分がIPv4とIPv6を混在して扱っているので、ユーザにとってはどちらを使っているのかを意識せずに使えるという状況になっています。 しかし、それによってIPv6/IPv4フォールバック問題が発生したり、AkamaiなどのCDNとの相性問題が発生するなどの問題あり、障害を発生させる要因ともなっています。
  • IPv6関連機能は、まだ本格的に使い倒されているとは言い難く、運用とともに様々なバグが表面化することが予想されます。 ある程度バグ潰しやノウハウが溜まるまで、これからまだ数年かかりそうです。
  • たとえばセキュリティアプライアンスなどでIPv6に対するチェックがIPv4と同等レベルで行えないものもあります。 IPv4とIPv6は色々と違うため、各製品のIPv6対応機能がIPv4で提供されているレベルと遜色が無いものになるためには、実環境への投入によるノウハウ蓄積が必要です。 早期に新機材を投入すればするほど「地雷」を踏む可能性が高くなりますが、そういった「地雷」を誰かが踏んでベンダーが経験を詰めないと良い製品は産まれないという「にわたま問題」もあります。
  • 現時点の日本では、一般ユーザにとってはIPv6を利用するメリットはあまりありません。 IPv6の方がIPv4よりも通信速度が速いというわけでもないですし、IPv6の方が安定運用されているわけでもありません。 IPv4でのインターネット接続サービスがCGNだらけになったときに、ユーザがP2P的な通信を行うにはIPv6の方が通信が実現しやすくなりますが、現時点の日本ではモバイル網以外でのCGN導入はあまり進んでいません(ISPでの大規模NATは当分流行らなそう。スマートフォンでは導入が進む)。
  • IPv6の普及は、固定網ではなくモバイル網が顕著になりそうです。 LTEサービスでIPv6接続サービスを提供する事例が色々とあります。
  • Webサイト等を運営する事業者にとって、早すぎるIPv6対応は実害もありそうです。 しかも、特許を取得して他者との差別化を狙っている機器ベンダー等でなく、単純に運用するだけであれば、早くからIPv6対応したからといって他の事業者よりも有利になる要素が現時点ではありません(IPv6という新しい技術を積極的に推進していることをアピールできるという宣伝的なメリットはありそうです)。
  • 現時点でほとんどのユーザが使っていないIPv6という通信手法にWebサイトが対応したとしても、そのWebサイトのユーザビリティ等が上昇するわけではないので、そういった活動に対する承認が降りないことが多いです。 「IPv6という新しい通信手法の啓蒙活動に協力して欲しい」とWebサイトが言われて、「何でうちがリスクをおかして啓蒙活動に参加しないといけないの?」という構図があります。
  • IPv6に関連する仕様は現在も多く策定中(議論中)であり、IPv6インターネットを構成する技術の概要がある程度固まるまでは、まだ数年かかるのかも知れません。
  • 各事業者にとって最も有利なのは、まわりが多く対応してきた頃合いを見計らってIPv6対応することだと考えています。 その方が各種ノウハウが溜まり、購入者が増えるため導入コストも下がるものと思われます。 技術者が技術を習得するコストも、後になればなるほど下がることが予想されます。
  • とはいえ、誰かが先導(扇動)しないとIPv6は普及しないので、IPv4の行き詰まり具合が極端に進んでインターネット全体がいびつな形になっていくものと思われます。
  • インターネット全体という視点で見ると、多くの人々がIPv4を捨ててIPv6へと移行するのが手っ取り早く見えますが、各個人のメリットという視点で見ると無理に急ぐことはデメリットがあるという印象です。
  • IPv6普及推進は、インターネットがインターネットであり続けるためという掛け声(もしくは思想)のもとに、コスト負担を誰がどのようにするのかという部分で議論が勃発しがちという経済的な側面を抱えているという感想です。

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