MegaUpload閉鎖と日本国内でのトラフィック

2012/2/7-1

先日、Arbor NetworksのブログでMegaUpload閉鎖に関するインターネットトラフィック減少について紹介されていましたが(参考)、日本国内ISPにおいてもMegaUpload閉鎖によるインターネットトラフィックが減少している事例があります。 今回、国内大手ISP事業者から情報提供を頂きました。 ありがとうございます。

A社での海外トラフィック

頂いたデータを見ると、MegaUpload閉鎖によって約2割トラフィックが減少しています。


図1:A社における海外トラフィックの推移

このグラフを見る時に注意が必要なのが、このデータがA社の海外トラフィックのみを表しているという点です。 Googleなど、巨大トラフィックを発生させる世界的な事業者の多くは、日本に拠点(キャッシュ)を持っているため、ISP的視点で見るとデータは海外からではなく日本国内での通信となります。

(土日にトラフィックが多いのがB2C的です)

週間トラフィックの比較

図2は、MegaUpload閉鎖前後の週でトラフィックを比べたものです。 このように重ねて見ると、大きくトラフィックが減少しているのがわかります。


図2:週間トラフィックの比較

MegaUpload閉鎖後も徐々にトラフィック量が減っているのも大きな特徴です。 MegaUpload閉鎖は強制的なものであったため、ある瞬間から減るものでしたが、その後の他社アップロードサイトでのアフィリエイト停止や著作権侵害コンテンツ大量削除は徐々に実施されたものであったため、このような傾向になっているものと思われます。

ピークトラフィックの推移

図3は、MegaUploadがホスティングされていたCarpathia Hostingが運用していたASからのピークトラフィックの推移です。 A社のBGPルータにおいてAS35974をORIGINとなるflow dataを計測したものです。 MegaUpload閉鎖(現地時間19日、日本時間20日)とともに、ゼロになっているのが特徴的です。


図3:ピークトラフィックの推移

なお、図3はflow dataを元にCarpathia hostingのAS35974と、A社ASの間での一日のピークトラフィックだけをプロットしたものです。 1日のデータの流れを表しているわけではありません(MRTGの1日の頂点を線でむすんだようなかんじです)。

このように、MegaUpload閉鎖による日本でのトラフィック軽減は存在していたようです。

JPIXではトラフィックは減っていない

日本において公開されたインターネットトラフィックとして有名なのがJPIXによる公開データですが、そこで公開されていたデータを見る限り、MegaUpload閉鎖がインターネットトラフィックに影響を与えているようには見えません。

同社代表取締役社長の石田慶樹氏は、Twitterにて以下のように発言されています。

JPIXにおいてトラフィックに変化がないことを理解するには、IX(Internet eXchange)がどのような場所であるかを理解する必要があります。 IXは、ピアリングを行う場所です(ただし、IXがトランジットサービスを提供する場合など、現時点での各種業態に関する説明はここでは割愛)。 ピアリングとは、トラフィックの交換ですが、基本的に交換は自社トラフィックもしくは自社がトランジットサービスを提供している組織のトラフィックをピアリング相手と交換するものです。

そのため、日本においては、通常であれば上流トラフィックとして扱われる海外線へと向かうトラフィックがピアリングされている回線で流れることはありません。

ただし、MegaUploadが利用していたCDN網の一部が日本にあった場合は、IXにおいてMegaUploadトラフィックが流れる可能性があります。 ということで、JPIXのトラフィックにMegaUpload閉鎖が反映されていないということは、CDN網を利用していないかったことを推測できるという意味でもあります。

ここら辺の説明は、かなり省略してしまっているので多くの方々にとってきっと意味不明だと思います。 ピアリングやトランジットやISP同士での金銭的なやり取りとトラフィックに関して興味がある方は拙著「インターネットのカタチ」の8章をご覧下さい(宣伝です。ごめんなさい。)。

Arbor Networksのデータを考える

折角なので、先日、Arbor Networksで紹介されたデータをもう少し噛み砕いて考えてみます。 Arbor Networksの記事ではMegaUpload閉鎖によって、USで20Gbpsの減少、EUで30Gbpsの減少と推測できるグラフが公開されています。

一見、このデータは莫大な量だと思いがちです。 しかし、このデータを見る限りMegaUploadは、いわゆる"Hyper Giants"と言えるかというと、それは微妙と思えるぐらいの規模であったことがわかります(Arbor Networksのブログ記事では、MegaUploadのことを"Hyper Giants"と書いてますが)。 実は、Googleのような"Hyper Giants"の影響は、MegaUploadの比ではないのがわかります。

Arbor Networksのデータは広域データをかき集めたうえで集約されたものです。 その状態で30Gbpsや20GbpsがMegaUploadのトラフィックです。

一方で、例えばNTTコミュニケーションズの日米間の回線は600Gbpsに達しています。 たとえ、US全体の20Gbps分のデータがNTTコミュニケーションズ回線に乗っていたとしても、1/30にしかならず、グラフでパッと見てしまうとわからないぐらいになってしまいます。

なお、ここで言いたいのは「MegaUploadのトラフィックは大した事がなかった」ということではないのでご注意下さい。

私が言いたいのは、どのような粒度で調査するかで「MegaUpload閉鎖の影響」というものの見え方が違うという話です。 バックボーン系の方々に「MegaUploadのトラフィックどうでした?」と質問して「顕著な変化は見られない」というような意見をいくつか聞いたとしても、それは規模感があまりに違い過ぎるためだったりする場合もあります。

一方で、国内ISPにおいて「2割程度のトラフィック減」という事例もあり、どの視点で何を見るかというのが大事だと改めて思いました。

最後に

MegaUpload閉鎖と、それに続く各種アップローダサービスの変化は、日本のインターネットトラフィックにも影響を与えました。 アップローダサイトが世界中で多く利用されていたことが良くわかります。

一方で、B2B的な接続事業に専念する国内ISP(A社以外)では、MegaUpload閉鎖の影響は見られなかったという情報も頂いています。 MegaUpload閉鎖によってトラフィックが減ったのは恐らくB2C的な接続事業を行う国内ISPがメインだったものと推測しています。

さらに、規模感を考えると、今回の事件単体が全体的なインターネットトラフィック増という潮流そのものに対して大きなインパクトを与えるほどのものであったかというと、そこまで行くかどうかは微妙だというのが現時点での私の感想です。 日本に限らず、アップローダサイトの利用はある程度の影響をインターネットトラフィックに与えていたものと思われますが、その割合は実はそこまで大きくはなさそうです。

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