「国連がインターネットを規制する」と話題のWCIT-12開始

2012/12/3-1

「国連がインターネットを規制する」と一部方面で話題になっているWCIT-12が、本日ドバイで開始されました。 WCIT-12は、本日から14日(金曜日)まで10日間開催されます。

WCIT-12は、国際的な電話網における規制を規定した通信の国際規則であるITR(International Telecommunication Regulations/国際電気通信規則)を改訂するために行われます。

ITRは、1988年にITU(International Telecommunication Union)によるWorld Administrative Telegraph and Telephone Conference(WATTC-88)で規定されて以来、変更されていませんでした。 WCIT(ウィキットと発音)が開催されるのは、ITRを改訂するためにはWCITを開催しなければならないと決まっているためです。

今回の改訂は、電話通信に特化している現在のITRに対して、インターネットも規制対象とするように変更するというものです。 しかも、単にインターネットを含むだけではなく、様々な国家の思惑によって新たな規制を世界的に作ろうという動きもあるため、各方面から警戒されています。 インターネットを利用した通信に対する課金方法を変えようとする提案も含まれており、それが通れば、Webを活用したコンテンツ事業者に大きな影響が発生する可能性もあります。

とはいえ、そこまで無茶な内容にはならないのではないかという予想も多くあります。 ITU事務総局長が以前から、ITUの伝統は投票ではなくコンセンサスに到達することであると述べており、今回のWCIT-12のオープニングでも「3つの大事なポイントはコンセンサス、コンセンサス、コンセンサスだ」といった発言がされています。 そのため、恐らく各国意見の妥協点を探った玉虫色の条文が出来上がるものと推測されますが、複数の解釈が可能な条文が後で利用されてしまうこともあるため、可能な解釈を幅広く考えつつ議論が行われるものと思われます。 ITRのそれぞれ条文に対して、各国政府が納得できない場合には留保を付けることも可能であり、その条文の影響を受けないようにすることも可能です。

規制を強めたい国、現状を維持したい国

WCIT-12開催前に行われているWCIT-12/ITRの改訂案を見ると、規制を増やしたい改正派と、大枠に留めようとする現状維持派に別れています。

現状維持派は、米国、欧州、日本などです。

一方、改正派はロシアや中東諸国のように見えます。 2010年と2011年に多くのデモなどを伴い、大きな変化のきっかけとなった「アラブの春」以降、専制体制を維持するためにインターネットを規制したいという国家が増えたという分析もあります。 一方で、米国、欧州、日本などは、そういった規制はあってはならないと声を挙げています。

WCIT-12開催前の段階では、中国もセキュリティが関連する提案でいくつか意見を述べていましたが、ロシアほど目立って多くの提案をしていませんでした。 中国とインドは日本とともにアジア太平洋地域のAPTで議論を行ったうえでWCIT/ITR案の議論に参加しており、その段階で日本が提案したよりマイルドな案に同意しています。

WCIT-12に関する話題

WCIT-12は、半年ぐらい前から話題として登場しています。

ISOCも、強い危機感を持ちつつ、WCIT-12に関連する積極的な情報発信を行い続けているように見えます。

先月、Googleが「A free and open world depends on a free and open web. (自由で開かれた世界は、自由で開かれたウェブ環境で実現される)」というキャンペーンを開始し、その中で、「いくつかの国の政府は、12 月に開かれる非公開の会合でインターネットを規制する動きを進めようとしています。」と紹介していることに対して、ITUブログで「Closed-door meetingと言うけれど、米国代表団にGoogleは含まれている」といった反論が行われるといった一幕もありました。

ただ、全体的にWCIT-12の話題が盛り上がっているかというと、現時点ではそこまで大きな話題になってない印象もあります。 情報通信業界内では、かなり多くの人々が関心を持っているようですが、SOPA/PIPAのときのような爆発的な情報の拡大はいまのところは発生してません。

会議のライブ中継およびアーカイブ

ドバイで行われているWCIT-12の様子は、ネット中継されています。 既に終了した会議のアーカイブも閲覧可能となっています。

つい最近まで、まさかネット中継されるとは私は思ってもいなかったので、多少びっくりしました。 世界各国代表が集まってインターネットに関する国際条約の内容を議論する国際会議を、日本に居ながらにして視聴できるのって実は凄いことだなぁという感想です。

今年中旬時点では、WCIT-12の情報があまり公開されておらず、WCITLeaksという情報リークサイトが登場したりしたのですが、開催が近づくにつれて徐々に情報が公開されていった印象があります。 各種批判が発生していなければ、ここまでの公開は行われていなかったかも知れないと思うと、世界中である程度騒ぐことそのものは重要なのかも知れないという感想を今回は持ちました。

やっぱり、話題にすることと、興味を持つことって大事ですね。。。

追記

WCIT-12の結果については以下のインタビュー記事をご覧下さい。

参考

WCIT-12に関するさらに詳しい情報は、以下をご覧下さい。

最近のエントリ

過去記事

過去記事一覧

IPv6基礎検定

YouTubeチャンネルやってます!