違法ダウンロード刑事罰化でP2Pトラフィック激減?
2012年10月1日に改正著作権法が施行され、違法ダウンロードが刑事罰化されました。 以前、公開されているトラフィック情報から日本国内インターネットトラフィックが大きく減少していることを書きましたが、10月1日のトラフィック減少に関して国内大手ISP事業者から情報提供を頂きました。
今回頂いたのは、ISP間でのピアリングトラフィックを抜き出してグラフ化したものです。 コンテンツ事業者Peerは10月1日以降も特に変化していないとのことでした。 国際トラフィックは若干減少したそうですが、恐らく海外ISPとの通信が減少したのではないかと推測されます。
今回のデータの意味
今回頂いたデータがISP間でのピアリングトラフィックに限定されているので、グラフの変化が非常に解りやすくなっています。 非常にザックリと表現してしまうと、「日本国内ISPでのユーザ間のやり取り」だけを見たグラフと言えます。
国内大手ISP内でのトラフィック情報は、日本国内IXで得られる情報と多少違うのが大きなポイントです。 近年、大手ISPが他ISPやコンテンツ事業者と直接BGP Peerを張ることが増えたため、日本国内主要IXにおけるトラフィックシェアが低下しています。 総務省によるトラフィック集計・試算手法が、こういった背景をうけて2011年に変更されています(参考:2011年5月時点の日本のインターネットトラヒックの集計・試算が発表)。
今回のデータから推測可能なこと
以下の図が今回頂いた情報です。 1週間分と2週間分の2種類のグラフを頂きました。 上が1週間分で、下が2週間分です。
前2週間分のデータを見ると、9月30日に向けてトラフィックが激増しているのがわかります。 10月1日に改正著作権法が施行される前に使えるだけ使っておこうと考えた人も結構多かったのではないかと思いました。
改正著作権法施行に関連して、日本国内において激減したのは恐らくP2Pファイル共有トラフィックではないかと推測しています。 今回の減少のしかたは、人間の活動ではなく機械的にトラフィックを発生し続ける「何か」が停止したように見えるためです。
以下、私がそう考えるポイントです。
- ISP間でのピアリングトラフィックに大きな変化がある一方で、コンテンツ事業者Peerでのトラフィックには変化がない→YouTube等のWeb映像閲覧が急激に減少したわけではなさそう
- ボトムトラフィックが各所で減少している
- 前回ブログで紹介したマルチフィードの公開情報を見ると、どの時間帯も一定量減っているように見える
感想
現時点で得られている情報から、改正著作権法施行で違法ダウンロードが刑事罰化され、日本国内におけるP2Pファイル共有トラフィックが激減したのではないかと推測しています。 傾向としては、2010年1月1日の改正著作権法施行でダウンロードが違法化されたときに似ているかも知れません。
ただし、注意が必要なのは、2010年1月1日の改正著作権法施行がトラフィック傾向を変えただけであり、著作権侵害行為そのものを減らしたわけではなさそうだと思える点です。 P2Pファイル共有から海外Webサービスへとユーザが流れただけである可能性も高そうです(参考:改正著作権法と日本のインターネットトラフィック)。
今回の著作権法改正でCDなどによる音楽コンテンツ売り上げが増えるとも到底思えませんし、そうなると今度は「もっと効果がある著作権法が必要だ」という声が出そうです。 その場しのぎの思いつきで新しい法律を作ってみて、その度にインターネットに変化が出ているにも関わらず、音楽コンテンツの売り上げが落ち続けているのであれば、それは何か別のところに原因があるのではなかろうかと思います(念のためですが「コンテンツの魅力がないから売れてない」と言っているわけではありません。コンテンツに魅力を感じつつも対価を払うことを回避する人が多いのが現状だと考えています)。
もうちょっと法律インプリ後の状況や運用を振り返って、何がどういった効果をもたらして、それからわかることを分析したうえで、根本対策を考えるようなことをしないと、スパゲッティな法律と運用が出来上がりそうな気がしています。 そういう意味では、いわゆる「ネット側」も反対意見だけ言っていて著作権侵害行為を効果的に減らす方法を権利者側と語れてなさそうという点が非常に不幸なのかも知れないと思う今日この頃です(いや、もちろん、知らないうちに危ないとしか思えない案が練られてて、それがいきなり出てくるので反対としか言いようが無いというのが現状だろうとは思いますけどね。。。)。
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