インターネットが物理的に壊れる原因いろいろ
インターネットは物理的な回線の上に構築されているため、物理回線の故障がインターネットに影響を与えることがあります(この記事は主にLayer 1編みたいな感じです)。 意外と知られていない、あんな原因やこんな原因を紹介しようと思います。
なお、ここで紹介するものは全体の一部であり、これ以外にも色々と障害発生の原因はあります。
酔っぱらったハンター
米国では、通信回線に対する脅威の一つに「酔っぱらったハンター」が挙げられます。 2010年に行われたNANOG49の「Keynote: Worse Is Better」というセッションで、GoogleのVijay Gill氏が以下のように述べています。
アメリカには入手が容易なアルコールと、入手が容易なハイパワーなライフルを両方とも手に入れられる環境がある
ハンティングシーズンに獲物を発見できずに酒を飲んだハンターが、暇つぶしに露出している光ファイバケーブルを撃っているとのことでした。 NANOG49のプレゼンでは、雪の中をクロスカントリーでファイバ修理に向かうGoogle社員が紹介されています。 発表内容がWMV形式でアーカイブしてあるので、実際のプレゼンを見るとより笑えます。
NANOG49 Worse Is Better発表資料より
先月公開されたLevel3ブログの「Level 3 Communications Blog : The 10 Most Bizarre and Annoying Causes of Fiber Cuts」という記事でも、「銃による障害は全体の約7%ぐらい」として散弾銃で撃たれた光ファイバケーブル写真が紹介されています。 米国では「よくある話」なのかも知れません。
クマゼミ
日本国内で「生物によるインターネットへのダメージ」という話題で一番メジャーなのが、恐らくクマゼミだろうと思います。 クマゼミの雌が光ファイバケーブルに産卵してしまい、ケーブルにダメージを与えます。
- (2011年2月) NTT技術ジャーナル 作業性を向上させた,経済的なクマゼミ対策ドロップ光ファイバの開発 (PDF)
- (2007年6月) NTT技術ジャーナル クマゼミ対策を施した「防護壁型ドロップ光ファイバ」の開発 (PDF)
最近、徐々にクマゼミ被害が日本列島を北上しているようです。
サメ
サメがガブッと咬みます。 以下の写真は、「ICPC : Submarine cables and the oceans: connecting the world」の、p.33に掲載されているPseudocarcharias kamoharaiです。 カナリア諸島周辺の光海底ケーブルに残された歯の大半は、この種類だそうです。
ICPC : Submarine cables and the oceans: connecting the worldより
YouTubeにサメがケーブルを咬んでいる動画があります。 水中でのケーブルの埋設や修理などに利用されるROV(Remotely Operated Vehicle)で撮影された映像のようです。
現在では、サメ対策として咬まれても大丈夫なケーブルが利用されているため、サメによって断線してしまう例はあまり多くはないようです。 ケーブルを咬むサメは深海には居ないので、水深が深いところのケーブルの方が浅いところよりも軽装だったりもします。
インターネット登場前の銅線ケーブルにクジラが絡まるというのも昔はあったようですが、最近はケーブルを海底に埋設するようになったので発生してないようです。
漁業活動や船舶のイカリ
光海底ケーブルに対するダメージで最も多いとされているのが、船舶のイカリによるダメージです。
漁業用イカリの例 : ICPC Fishing and submarine cablesより
漁業活動による光海底ケーブルへのダメージの原因としては、釣り針、固定用イカリなどが挙げられます。 「光海底ケーブル」という本(278ページ)では、韓国周辺や黄海の入り口の潮流が強く水深が20〜60mの範囲で行われるアンコウ網漁によるケーブル故障が紹介されています。
ゴキブリなどの昆虫、カラスやキツツキなどの鳥類
日本で光ファイバを損傷する昆虫としては、セミの他に蟻、ゴキブリ、コウモリガの幼虫などが紹介されています。
その他、キツツキやカラスなどの鳥類も光ファイバに影響を与えるようです。 カラスは、巣を作るために光ファイバのドロップケーブル(家庭まで来る部分など)を使おうとして、ケーブルを壊します。 カラスによる被害は東京を中心とした首都圏で多いそうです。
地震による光海底ケーブルの損傷
地震によって、多くの通信を担う光海底ケーブルが切断されてしまうこともあります。 地震でいきなり切れるというよりも、地震によって海底地滑りが発生して、その地滑りに光海底ケーブルが引きずられて、徐々に切れて行くという状況が多いようです。
たとえば、2006年12月に発生した台湾沖地震では、富士山ほどの深さがある海溝斜面を土砂が流れて行き、それに引っ張られることによって数時間かけて光海底ケーブルが切れて行ったとされています。
JANOG26「海底ケーブル、構築と運用の深イイ話」発表資料より
東日本大震災でも多くの光海底ケーブルが影響を受けました。 KDDIの発表によると、茨城沖3箇所、神奈川沖1箇所、銚子沖6箇所で海底ケーブルが故障しました。
飛行機の墜落、交通事故、道路工事
Level3のブログでは、最も多いファイバ切断の原因が道路工事によるものとしています。
Level3のブログでは、電話線が巻き付いた状態で走り続けたトラックや、光ファイバケーブルの上に落ちて来た飛行機の写真も掲載されています。
ハリケーン
ハリケーン「アイリーン」によって到達不能となった地域を動画にしたものがYouTubeに掲載されています。
誰かがマンホールに侵入して切断
2009年4月9日に、シリコンバレーで地下の通信ケーブルが故意に切断され、インターネット、電話、携帯電話が不通になりました。
犯人は、重たいマンホールの蓋を開けて地下に侵入しましたが、マンホールを開けるには特殊な道具が必要で、切断した光ファイバも重く太いものだったようです。
げっ歯類
NTTの論文によると、リス、モモンガ、ムササビ、ネズミなどの、げっ歯類にかじられることによる損傷が紹介されています。
米国Level 3での2011年の光ファイバ障害の17%がリスによる被害だそうです(Level 3 Communications Blog : The 10 Most Bizarre and Annoying Causes of Fiber Cuts)。 ただし、昨年の被害が28%で、その対策としてケーブル保護を行った結果が17%への減少とありました。
落雷
落雷によって電源等が損傷を受けて、インターネットにも影響が出る事もあります。
つい最近、アイルランドで落雷によってAmazonとMicrosoftのデータセンターが両方とも落ちたというニュースもありましたが、後日談によると、それらは落雷が原因ではなかったようです。
窃盗目的
銅線窃盗目的で穴を掘っていて、間違って地中の光ファイバを切断してグルジアとアルメニアのインターネットで障害が発生させたとして、75歳のおばあちゃんが起訴された事件が今年発生してました。
この事件の他にも、海底にあるケーブルがごっそり盗まれるという事例もあるようです。
ショットガンを持ったおっちゃん
Level 3ブログのファイバ障害事例紹介記事の最後に記述されているのが、ショットガンを持ったおっちゃんです。
ジョージア州とフロリダ州を跨ぐ土地を通過する高速道路のために通行権を得ていた男性が、フロリダ州側からの料金が低いとして怒っていました。 ある日、復讐のために地域内を通過していた光ファイバを掘り出して切断し、修理に訪れた人々をショットガンで脅して修理をさせないという事件があったようです。
最後に
私は著者でも関係者でもありませんが、「光海底ケーブル」という本は凄くお勧めです。 日本周辺の光海底ファイバ敷設地図があったり、光ファイバまわりの技術や運用、法律等に関しても詳しく書かれていてマニアックです。
光海底ケーブル , 光海底ケーブル執筆委員会 , 2010年5月
あと、ここで紹介した事例の一部は、拙著「インターネットのカタチ - もろさが織り成す粘り強い世界」の5章「物理的に壊れた!」で詳しく解説しています。 はじめに、目次、1章までの草稿をサンプル用に公開してあるので、興味がある方は是非ご覧下さい。
なお、余談ですが、拙著の「インターネットのカタチ - もろさが織り成す粘り強い世界」の表紙に掲載されている微妙な生き物っぽい絵は、デフォルメされた鮫です。
拡大すると。。。
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