iPadでBBC放送が11カ国へ配信開始

2011/7/28-4

BBC WorldwideがiPlayerサービスをiPadアプリとして11カ国で提供開始しました。 これまで、iPlayerはイギリス国内でしか利用できませんでした。 国境を越えたインターネット動画配信そのものは、今では全く珍しくありませんが、個人的には、BBCによる今回の方式がインターネットを利用した世界的なテレビ放送の未来モデルを形作って行くように思えます。

guardian: BBC iPlayer goes global with iPad app launch in 11 countries

今回、配信が開始される国は、オーストラリア、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、アイルランド、オランダ、ポルトガル、スペイン、スイスの西ヨーロッパ11カ国です。 米国、カナダ、オーストラリアへの配信開始も今年後半に予定されているようです。

開始当初のコンテンツは、6割がBBCのコンテンツ、3割がBBCから委託されたプロダクションが制作したもの、1割がBBC以外からのものとなるようです。

個人的な注目点

BBC WorldwideによるiPad iPlayerサービスで私が注目したのは以下のような点です。

  • テレビ局が自ら運営している
  • 国毎に配信範囲の制限がある(主にIPアドレスで制限)
  • メインは広告モデルではなくサブスクリプションモデルである
  • 一部は無料視聴可能で広告が表示される
  • 国境を越えたサブスクリプションモデルである

個人的にiPlayerに注目しているのは「制限されたサービスである」という点です。 IPアドレスベースなので完全ではなく抜け穴はありますが、ある程度は国境という枠組みに対応しており、配信範囲が限定可能なので映像配信時の権利処理が行いやすくなります。 (BBCとは関係がありませんが、「インターネットで配信範囲を限定」という意味では、米国テレビ局によるHuluも有名です)

さらに、全て無料で見放題でありつつ広告で配信をするというモデルではない点も現実的に見えます。 現時点では、無料で大量の視聴者を集め過ぎてしまうと、そのトラフィックを快適に配信するための負荷分散にかかる映像配信コストが膨大になってしまいます。 世界の70%以上のISPと直接的に繋がっていると言われているGoogle(参考)のように自ら巨大ネットワークインフラを持っている組織が行うのであれば可能ですが(YouTube)、そうではない組織が行おうと思うと、配信量を制限しつつ各ユーザから毎月利用料を得る方式がコスト的には合理的と言えます。

現時点では、まだ実験的な取り組みの段階と記事中にありますが、徐々にコンテンツも地域にあわせてローカライズしていくとあります。

マルチキャスト?

BBCは、マルチキャストによる配信実験も行っています(BBC : Multicast)。 VoDにマルチキャストを利用するのは難しいと思いますが、テレビ放送のように全く同じ内容を同時に多数の視聴者が見る時には威力を発揮します。

iPlayerが世界的に普及し、非常に多くのユーザが同時に全く同じコンテンツを定常的に視聴するようになったとき、地域に応じてISPがマルチキャスト対応を迫られるという妄想が膨らみます(ここで重要なのは特定のイベント時だけ視聴者数が増えるのではなく定常的であることだと思います)。

BBCが映像配信を行うマルチキャストストリームを受け取る契約を行ったISPだけが放送をインターネット経由で視聴できるという状況になれば、ISPが海外チャンネルを見るためのケーブルテレビ的な役割を果たすようになります。

現時点では、一般的に視聴されているWebベースのインターネットストリーミングはTCP(HTTP)で行われているため、視聴者が増えれば増えるほど回線を圧迫しますが、同時配信が行われるコンテンツに関してはマルチキャストを利用することで劇的に回線への負担を軽減可能です。 ただ、現時点ではASを跨ぐ大規模マルチキャストはニーズも少ないため、非常にニッチな存在です。 この文章を読んでいる方々も「え?マルチキャスト?無いな」のような感想を持たれる方々が多そうです(笑)。

NHK...

BBC WorldwideのiPlayerとは全く関係がありませんが、NHKも「インターネット回線を利用している国民から受信料を得るべき」とか内向きなことを言わないで、イギリスのBBCみたいに海外からも可能なサブスクリプションをする方式を模索して外貨を稼いで欲しいとか思わなくもない今日この頃です。

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