【書籍】はじめてでも安心 コスプレ入門

2011/11/22-2
はじめてでも安心 コスプレ入門

拙著「インターネットのカタチ - もろさが織り成す粘り強い世界」の編集をされていたオーム社開発局の方(@ctakaoさん)が、実用技術書としてのコスプレ入門本という面白い本を編集されていて、それが遂に発売されるようです。 私は、その道はあまり良く知らないのですが、拙著「インターネットのカタチ」の書籍としての思想が似ているというのが感想です。

なお、この記事は「はじめてでも安心 コスプレ入門」を紹介してはいますが、視点としては「技術書の編集とはどういったものか」というようなものが多いので、ご注意下さい。 私が興味があるのはコスプレそのものじゃなくて、「コスプレ実用技術書」の編集/出版なので。。。

企画趣旨

本書の編集者と制作プロダクションの方(@ichika_akinoさん)に、本書の企画趣旨を聞いたところ「コスプレをやってみたいと思っている人はいるけど、入門書がないから」という回答を頂きました。

コスプレのために衣装制作や造形をされている方々は多いのですが、ほとんどが独自ノウハウで各自が行っている状態であるため、それらが表にでることはあまり多くありません。 コスプレをテーマとしたWebサイトも色々とありますが、書籍のように編集されたものではないため、多くの情報があったとしても体系建てて説明されているわけではない場合がほとんどであるとのことでした。

その分野のその内容に関して体系的に解説した書籍がないから、それを作るというのは拙著「インターネットのカタチ」も、微妙に共通するものがあると感じています。 編集者の方は「インターネットのカタチ」のあとに、medtoolz氏の「レジデント初期研修用資料 医療とコミュニケーションについて」を手がけられ、さらに「コスプレ入門」を手がけられているわけですが、それぞれが「それまでにない本」と言えるわけで、今回はコスプレというジャンルではありますが、方向性が一貫しているなぁという感想を持っていることもあり、コスプレ本がどういうものなのか興味を持ちました。 私はコスプレそのものをしたいというわけではありませんが、出版社と編集者という視点で見ると、このコスプレ本は面白いと思ったわけです。

曰く、それまでのコスプレ解説本は「コスプレ熟練者の体験談や座談会形式の文章が多く、 まったくの初心者にはハードルの高い内容が多かった」とのことでした。 本当に初心者がコスプレをしようと思った時に手に取れるような「実用技術書」としてのコスプレ本がなかったので作りたかったという問題意識のようです。

実用技術書であると思うと、教科書を作ることが多いオーム社がコスプレ本を出すのも「実用技術書」なので、まあ正しいのかと思えます。

中身

本書は、女性が女性的な格好をするというコスプレ入門書です(男装に関しての解説もところどころにあります)。 レイヤーの8、9割が女性であるという背景から、女性視点での内容になっています。

衣装の作り方、既存品を購入する場合のショップやサークルの連絡先紹介などがメインですが、各所で細かいノウハウや注意点がコラムとして掲載されています。 たとえば、p.155に必須アイテムとしてコスプレ名刺が紹介されています。 p.149-p.152あたりの「参加するイベントの決め方」などに、コミケは初心者にとっては過酷なので避けた方が良く、目的から参加するイベントを選択したほうが良いというような話は、きっと実践的なんだろうなぁと思いました(私はそこら辺は良く知りませんが、、、)。

メイン部分は体系的な解説となっていますが、所々にちりばめられているコラムも「現場での実践」的な内容が多い印象があります。 それらを読んでいると、きっと「そこら辺をもうちょっと深く語りたいんだろうけど全体的な流れやページ数の制約からコラムという形に収まったんだろうなぁ」と私自身の書籍執筆時の書籍構成試行錯誤を思い出しながら思いました(たとえば、p.106にある「小道具の自作に便利な道具と材料」や、p.138にある女性が男性コスプレをするときの「胸つぶしアイテム」の紹介などのコラムを見ると)。

各章の冒頭にマンガが入る

本書は、コスプレをしているバイト先の知り合いとコミケ会場でばったり会ったことことで、主人公がコスプレに誘われ、友人に色々と教えてもらいながらコスプレ準備を行うという内容のマンガが入ります。


p.111より (オーム社の許可を得て転載しています)

「コスプレ入門」は、ストーリーマンガでイメージを掴み、文章解説で具体的な説明をするという形式になっています。 マンガは各章の冒頭部分でその章の意図を伝えるために使われていますが、「マンガでわかる統計学」などマンガを使った技術書のノウハウが利用されているものと思われます。

衣装の作り方も解説されている

本書は、コスプレ用の衣装を作るための実用技術書としての側面もあります。


p.72より (オーム社の許可を得て転載しています)

布の切り方や縫い方、小物の作り方などが図入りで解説されています。

型紙

本書で紹介されているサンプル衣装の型紙がWebサイトからダウンロード可能になっています。

http://www.ohmsha.co.jp/data/link/978-4-274-06861-4/

企画から著者探し

本書の編集者および制作プロダクションは「脱オタクファッションガイド」と同じなのですが、この企画が最初に出たのは「脱オタクファッションガイド」が終わったあとだそうです(その後、改訂版である「脱オタクファッションガイド 改」が出ています)。 それが2005年なので6年前です。 「脱オタ」のノリでコスプレ入門本という案があったそうですが、当時は「誰も読まない」ということでボツになったとのことでした。 その後、市場の変化などを経て、去年になり案が再浮上したそうです。

「コスプレ入門」の企画を実現するにあたり、経験豊富なコスプレイヤーさんを著者として起用したいということになり、「Cosplay Kobo」というWebサイトを運営されていて豊富なコスプレ経験と衣装制作などに深い知識を持つたかそう氏が筆者に決まりました。 その後、舞台衣装なども手がけるRUMINE氏とコスプレ会場で知り合うことができたこともあり、入門書としての幅広い情報カバー率を上昇させるために、執筆者二人という体制で書籍の制作を行うことが最終的に決定しました。

編集者を含む関係者で実際のコスプレイベントに行って様々な確認を行いながら書籍を作成するなど、著者だけではなく編集者/制作プロダクションもコスプレ道を進みながらの書籍制作だったようです。

書籍といえば著者が原稿を持ち込むというイメージが強い方々も多いと思いますが、実態としては出版社が企画を考えて、市場調査を行ったうえで、著者を捜す事例も多いです。 出版社内での企画会議では、企画があっても「著者はいるの?」というような質問をされることも多く、コスプレ会場等で著者となり得る方々に出会えなければ、本書が世に出ることもなかったと思われます。

製本技術的なコダワリ

書籍そのもののこだわりとして、フルフラット製本(広開本)であるという点もあるそうです。

普通の本は、手で押さえ続けたり、型がつくぐらい押し付けてないと開いたままの状態を維持できませんが「コスプレ入門」は、開いたままの状態を維持出来るような製本技術を採用しています。

これは、「コスプレ入門衣装を作る工程を見て学ぶという本」という性格上、読者が作りながら読むことを前提としているためです。 たとえば、本書を開いたままの状態で机の上におきつつ布を切ったり縫ったり、荷物準備をするなど、読みながら手を動かせるようにとのことです。

まず、最初に拙著「インターネットのカタチ」を開いた状態ですが、手を添えていないと開いたままにはなりません。


次に、「コスプレ入門」ですが、以下のように手を添えなくても開いたままの状態を保てます。

本の背表紙部分をアップにすると以下のようになっています。

このような製本技術を活用しているのが、隠れたコダワリだそうです。

最後に

「技術解説」と一言で言うと、どうしても理工学書的なノリを私は想像してしまいますが、たとえばコスプレの実用技術書もあるというのが面白いと思いました。

以前、インターネットのカタチに関して打ち合せをしていた編集者の方がコスプレ入門本の背景として「オンナノコになりたい!コスプレ編」(オーム社の書籍ではなく一迅社の書籍です)のヒットというようなマーケット分析をしているという点も興味深かったです。 何故かオーム社会議室で「男の娘」について、編集者と制作プロダクションの方と語り合ってるというのは第三者が見たらきっと楽しい光景であったと思います。

実は、拙著「インターネットのカタチ」を執筆している時点で「実用技術書としてのコスプレ本を作ってるんですよ」という話は聞いていたので、どういった感じで出来上がるのかに興味があったのですが、実際に出来上がりを見つつ、どういう点に苦労したのかを聞いてみると「他の様々な本にも出版社(編集者)や制作プロダクションの苦労があるけど、それって表に出ることがなく終わるのが多いんだろうなぁ」と思ったりした今日この頃です。

おまけ

最後に、若かりし頃の私の女装写真へのリンクを掲載して、本記事を締めさせて頂きたいと思います。

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