未来インターネットアーキテクチャ
アメリカ国立科学財団(NSF, National Science Foundation)が、Future Internet Architecture(FIA)の一部として4つの新しいプロジェクトを発表しました。 それぞれのプロジェクトに対して3年間で最大800万ドルの研究費が充てられるようです。
「NSF Announces Future Internet Architecture Awards」
現在のインターネットが抱えている問題や、今までの運用から得られた経験を考慮しつつ、全く新しいコンセプトによるネットワークアーキテクチャを考えるというものです。
このうち、実際に将来のインターネットアーキテクチャに影響を与えるものが登場するかどうかは良くわかりません。 しかし、採用されているプロジェクトをざっと見た感想としては、今まで全くなかった発想の研究というよりも、ここ数年の流行モノが取り上げられていると思いました。
以下、4つの研究プロジェクト概要と個人的な感想です。
Named Data Networking
UCLAのLixia Zhang氏が代表としてNDN(Named Data Networking)がNSFの研究資金を獲得しています。 Lixia Zhang女史とVan Jacobson氏というIETF界隈の重鎮が含まれている研究という意味で、個人的には興味がある研究です。 さらに、今回のNSFプレスリリースで紹介されている4つの研究のうち、NDNが最も色々と資料がネット上で公開されているようにみえます。
NDNは、Van Jacobson氏 Contents Centric Networkingをベースとして発展させたものです。 Van Jacobson氏が2006年にGoogleで講演した「A New Way to look at Networking」を要約した記事を以前書きましたが(インターネットの次)、徐々にあのネタが研究として進化していっているようです。
Contents Centric Networkingとは、今のホストを基点としたデータの配信ではなく、コンテンツを基点としたものを作ろうとしています。 たとえば、Web情報にアクセスするためのURLは「http://」という文字列の後に「ホスト名」が入り、さらにそのホストの中に含まれている「コンテンツへのパス」が書かれています。 でも、みんなが見たいのは「特定のコンテンツ」であり、「どのホストに置いてあるか」は実はさほど重要ではないという思想です。
これを超大真面目に考えて行っているのがContents Centric Networkingです。 Van Jacobson氏がfirst authorとなっているCoNEXT'09の論文「Networking Named Content」に、背景を含めて色々書いてあります。 論文の最後に関連研究としてDONA(Data-Oriented Network Architecture)、ROFL(Routing on Flat Labels)、PSIRP project、4WARD NetInf project、TRIAD、などが紹介されていて、Contents Centric Networking系の研究がここ数年流行っているのが良くわかります。
ここら辺の研究に対する個人的な感想としては、AkamaiやRoot DNSのモデルをインターネット上の全コンテンツに当てはめたいのだろうなぁという感じです。 2009年にLixia Zhang教授が慶應SFCで行った講演資料(Evolving the Internet Architecture into the Future)を見ると、P2PやDTN(Delay Tolerant Networking)の考え方が色濃いようにも思えます。
NDNに興味がある方はProject CCNxも見ると面白いと思います。
MobilityFirst
NSFによるプレスリリース文を読むと、GDTN(Generalized Delay-Tolerant Networking)を使ってモバイル回線が切断されても、可能な範囲内でなんとか通信を維持したり情報取得を継続できるようにしようとしているように思えました。 上位回線が切断されても、P2P的に最寄りの機器から情報取得を行ったりするのだろうと推測していますが、以下のように、
The project focuses on the tradeoffs between mobility and scalability and on opportunistic use of network resources to achieve effective communications among mobile endpoints.
とあるので、どこまで何をやったらどうなるかというような、匙加減的な実証実験を行いつつ、モビリティを前提としたインターネットアーキテクチャを考察するのかも知れません。
ニュージャージーの州立大学Rutgers(ラトガーズ)のWebサイトにプレス発表文が公開されています。
「National Science Foundation Awards Rutgers-led Research Team $7.5 Million to Develop Mobile Internet」
このプレス文は主に概念を説明しているようなので、これを見ても実際に何をするのかの詳細な内容はわかりませんでしたが、天井に据え付けられた400台の無線機器写真が凄いです。
恐らく、この無線機器を利用して様々な状況を作りつつ、GDTNに関する検証を行うのだろうと思います。
NEBULA
未来のモデルとして、データセンター同士がセキュアで超高速なバックボーンで接続されており、"ネットワークサービスが常にある(always-available network services)" 状態を実現することにフォーカスしているようです。
"cloud-computing centric architecture (クラウドコンピューティングを中心としたアーキテクチャ)" を実現するための技術的な課題に対処する研究と概要で述べています。
ただ、この概要だけだと単にクラウドコンピューティングの話をしているだけのように思えます。 他の情報を探してみたのですが、関連する大学Webサイトでニュースとして発表されているわけでもなさそうなので、良くわかりませんでした。
検索してみると、NASAのNEBULA Cloud Computing Platform(あと、それに対してのInformationWeekの記事「Image Gallery: Inside NASA's Nebula Compute Cloud」)というものがあったのですが、NSFのFIAと関係があるのかないのか、良くわかりませんでした。
どなたか、何かご存知でしたら教えて下さい。
eXpressive Internet Architecture (XIA)
XIAもNDN同様に、今のインターネットのhost-to-hostモデルではない通信モデルを模索しているようです。
ただ、NDNとはフォーカスが多少違うように思えます。 NDNはコンテンツを中心とした通信を設計していますが、XIAはコンテンツ以外の将来の「何か」を含めて柔軟性を持たせると言っているように見えます。 また、host-to-hostではない世界で、データに対する信頼性などを担保するためにハッシュなどを使うことを考えているように見えました。
カーネギーメロン大学のWebサイトでPeter Steenkiste氏がXIAに関して語っている記事がわかりやすかったです。
おまけ
こういった話題で記事を書くと「インターネット2みたいな最新技術か?」という反応を毎回ネット上で見ますが、Internet2は技術ではなくアメリカの大学が集まったコンソーシアムの名前です(参考:Internet2: About Internet2)。
Internet2が今あるインターネットを置き換える何かであるようなイメージを持っている方々が多い気がしています。 また、よく混同している方々がいますが、恐らく有名なのはInternet2ではなくInternet2が運営しているコンソーシアムメンバ用の高速ネットワークです。 この高速ネットワークを使えるのは、主にコンソーシアムメンバーです。 昔はInternet2のネットワークはAbileneと呼ばれていましたが、今はInternet2 Networkと呼ばれているようです。
もうかなり昔の話ですが、実は私もInternet2と関わりがありました。 といっても、Abileneと直接関係があったというわけではありません。 私が学生時代に作って公開してたDVTSというフリーソフトがInternet2で使われていたので、やり取りをしていました。 http://www.internet2.edu/communities/dvts/
今回の記事は、いかにもそういう反応が出そうな気がしたので「おまけ」としてあらかじめInternet2に関しても書いておきました。 まあ、NSFが今回資金を出している4つのプロジェクトがInternet2 Network上で実験を行ったりする可能性もあると思うので、Internet2が今回のネタと全く無関係かどうかは良くわかりませんが。
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