Ustreamで世界に向けて剣道を中継

2010/4/21-1

全日本剣道連盟は、4月18日に行われた剣道八段戦をUstream中継しました。 前日から私も手伝い役の一人として名古屋に行ってました。 今回、最終的なUstream視聴者は2962でした。

剣道の八段は合格率約1%の超難関であり、その八段の中から選ばれた32名が選手として登場する大会です。 公式情報によると八段戦(正式名称は「全日本選抜剣道八段優勝大会」)は以下のような大会です。

全日本選抜剣道八段優勝大会とは
全国500余名の八段受有者の中から、受有後5年を経た65才以下に該当する100余名が抽出され、さらに選考委員会において厳選された心技ともに円熟した32名によって行われるトーナメント方式の大会です。

こちらはUstreamではなく、YouTubeに掲載した動画ですが、今回の大会で撮影された動画で個人的にインパクトがあると思ったのは、準決勝での東選手の突きです。 試合は佐藤選手が勝利しましたが、東選手の突きで佐藤選手が吹き飛ぶ映像は迫力があります。

これをハイスピードカメラによるスロー映像ではなく、通常映像で見ると次のような感じになります。 当たり前ですが、ハイスピード映像と比べると、かなり早いイメージがあります。

この大会の特殊なところは、全員が八段の先生である点です。 平均年齢が57.9歳、最年長63歳、最年少52歳です。 たとえば、この突きの映像に登場する東選手が53歳で、佐藤選手が57歳です。

大会後の表彰式で整列している選手の先生方の写真を見ると、映像での動きとのギャップを感じざるを得ません。

(他の試合の動画はhttp://www.youtube.com/ZennipponKendoRenmeiをご覧下さい。)

構成

今回のUstream中継は以下のような構成で行いました。

1Fの体育館隅に中継本部を設置し、スポーツセンター事務所からCat5eケーブルを伸ばしました。 ケーブル長は、だいたい50mぐらいです。

中継用のカメラは当初会場横に設置予定だったのですが、前を人が通過したり、通行の邪魔になる可能性を考慮し、2F席に中継用スペースを作りました。 2F席へのネットワークは、1F中継本部からイーサネットケーブルを伸ばしました。 こちらの長さは計測してませんが、恐らく30mぐらいだと思います。


これらのケーブルは会場設営を請け負っている現地業者の方々にお願いしました。 Cat5eケーブルをこちらで用意して、業者の方々に敷設をお願いし、端子の圧着は私が行うという形です。 ケーブルは秋葉原の愛三電機で購入しました。

2F中継用のブースには、ビデオカメラが3台ありました。 これは、中継用+録画用2台です。 録画用ビデオカメラはSDに録画するタイプでしたが、これが2台あるのは試合毎にSDカードを取り出すためです。 SDカードを取り出している間は次の撮影が出来ないので、2台交互に使う形です。

Ustream中継用のカメラはHDVカメラでした。 HDVカメラがPCにIEEE1394で接続され、その映像入力をUstream Producer ProでUstreamへと送信していました。 Ustreamへ送信する動画には、試合を行っている選手に関する情報をテロップで含むようにしてありました。

2F席は恐らく激務だったと思います。 テロップ作業とSDからの動画取り出し、見所編集を一人で2Fで行い、編集後の画像を敷設LAN経由で1F中継本部PCへと書き込むという作業を成蹊大学理工学部准教授の武藤さんが行っていました。

なお、2Fのカメラ操作は現地の高校生が行っていました。

1F席では、撮影された写真をtwipticに上げたり、Twitterで経過を書いたり、動画を編集したり、その他色々してました。 途中で剣道連盟や愛知剣連の役員が状況を見にいらしたので、今回行われている事のデモも行いました。

2Fからのビデオカメラ撮影以外にも、試合会場真横からの静止画撮影と、ハイスピードカメラ撮影も行われました。 これらのカメラで撮影されるデータは、ボールボーイ的な現地高校生が試合の合間毎に新しいSDカードと交換しに行っていました。 データ入りのSDカードが1F中継本部へと運ばれて、そこでネットへのアップロード処理が行われるという形です。


(一番右に座っているのが私です)

もう、何か試合会場で試合を見ている暇なんてありません。

高品質映像転送TIPS

今回、Ustream Producer Pro+HDV optionを利用して最高品質での映像配信を実現できました。

High HD Quality
960 x 540
AAC 44.1k Stereo
配信中だいたい1Mbpsぐらい
配信中29〜30fpsぐらい

最初は2006年発売のThinkpad X60を利用したのですが、どうもそれでは高い品質での映像配信ができませんでした。

Ustream Producer Proは、CPUのロードアベレージやネットワークスループット(ビットレート)などを計測しながら送信映像品質を調整しているように見えます。 そのため、最高品質での映像配信をするためには、ある程度以上のスペックの機器とネットワーク環境を用意する必要がありそうです。

最終的に利用したPCのスペックです。 PCとしては最新というわけでも、最上位機種というわけでもありません。

VAIO VGN-NS50B
Windows Vista Home Premium
Core 2 Duo
P8400 (2.26Ghz)
2GBメモリ

まだ試してはいませんが、恐らくネットブックではHDVを活用した最高品質の動画配信を実現できないと思います。

あと、カメラそのものの品質や、標準搭載ではない後付けマイクを利用するなどの工夫があるのとないので結構変わります。 ここら辺は、かなり不勉強なので今後色々と試して行きたいと思います。

光回線トラブル

私は前日から現場に入っていたのですが、既に利用可能になっている筈の光ファイバ回線がどうしても立ち上がらないという状況が発生していました。 現場のかた曰く、4月5日時点では疎通確認をしてあったそうです。

しかし、どうやっても繋がりません。 今回は、4月1日から中村スポーツセンターの運営が指定管理方式に変わり、4月以前と4月以降で事務所運営を行っている組織が異なっており、さらに光ファイバ回線は今回の大会のために前組織が残して頂けた形だったため、IDやパスワードもわからないという状況でごちゃごちゃしていました。

色々な方々に連絡して頂き、何故か局側でIDが削除されていて繋がらなくなっていたということがわかり、急遽新しいIDとパスワード発行によってISPへの接続が行えるようになりました。 かなりドキドキしました。

土曜日にも関わらず、現場での様々な方々のご尽力によって、ネットワーク接続性が確保できてホッとしました。 こういう予測の範囲を超える現場トラブルは、イベントならではですね。

会場照明

最初、体育館の照明が多少暗かったため、ハイスピードカメラで十分な品質での撮影ができませんでした。 また、普通の静止画もボケてなかなか撮影できず、ビデオカメラもピントがあいにくいという状況になってしまっていました。

そのことをスポーツセンター館長に伝えた所、迅速に対応頂けました。 しかし、試合中に照明の明るさを急に変えることはできません。 そのため、1回戦と2回戦の間に設けられた休憩時間に明るさ調整をしました。 同時に点灯できるライトの数に上限が存在するため、試合会場の真上をフルに点灯しつつ、外側のライトを消して頂く事で、2回戦以降は様々な撮影がスムーズに行えるようになりました。

光回線トラブルの時にも、非常に色々とやっていただけたので、ありがたかったです。 中村スポーツセンターの方々の暖かいご支援のおかげで今回のUstream中継が成功したと言っても過言ではなさそうです。

現場での編集作業

今回は現場で動画編集を行いつつYouTubeへのアップを行おうとしたのですが、私が動画編集をやったことがなかったので、限られた時間の中での作業は残念ながらあまり上手くいきませんでした。

今後、色々と修行する必要があると思いました。

組織内部での啓蒙活動

今回の動画配信は、剣道の組織内部でも衝撃が大きかったようです。 全画面表示に耐える画質でありつつ、秒間30コマ表示で滑らかに動く動画配信は、テレビを見ているのに近い感覚がありました。

高画質動画を実際に見て頂くとインパクトが大きいようです。 さらに、Twitter上に表示される各国からのTweetも見て頂きながら、「世界各国からの視聴者がみている」ことを伝えるとさらに喜んで頂けました。

ほとんどの視聴者は日本からだっとと思われますが、外国からの視聴者もちらほら居たので、 名古屋から世界に向けての剣道八段戦中継であったと言えます。 八段戦終了後も各所で話題になったようなので、一昨年から開始したYouTubeに続く施策であるUstreamを使っての「世界に向けてのリアルタイムな配信」が持つインパクトは非常に大きかったようです。

今後の課題

今回は、かなり多くの人々が活動することによって多面的なネット中継が出来たわけですが、今後は色々な所で効率化が必要になってくるのだろうと思います。

システム化して手間を減らせる部分を発見しつつ、必要な場合にはプログラムやスクリプトを作って対処することが求められそうです。

Twitter八分

昨年、全日本剣道連盟がTwitterアカウントを作った時からの未解決問題があります。 実は全日本剣道連盟はTwitter検索から八分にされています。

たとえば、全剣連のアカウント名である「aj_kendo_f」で検索をすると、他のユーザのReTweet以外は表示されていないのがわかります。

http://search.twitter.com/search?q=aj_kendo_f

これではハッシュタグを使っても、あまり意味がありませんし、そもそもTwitter上に全剣連が存在していないのに近い状態になっています。

Twitterはフリーのサービスであり、運営側に無理矢理にでも対処して頂く正当な理由があるわけでも無いので、現在まで「どうしようもないよね」という感じでそのままになっています。 新規アカウントを作成すれば解決するのかも知れませんが、もう色々なところで既に紹介されてしまっているので、アカウント名を変えるのも躊躇しつつ現状のまま時間が経過しているという感じです。

早くTwitterのバグが解決することを願うばかりです。

Ustreamによるネット中継が持つ意味

帰りの新幹線の中で、大学の剣道サークル同期で一緒に10年以上全剣連情報委員をやっている阿部ちゃんが「今回みたいな中継を繰り返すと愛知県での八段戦の意味合いが変わって来るかも知れないよね」と言っていました。

そういわれて、私もそうだと思いました。 たとえば、毎年正月に開催される箱根駅伝はある意味単なる地方大会です。 しかし、毎年テレビで放映されるために非常に高いステータスがあります。

八段戦に限らず、毎回世界中に向けて配信される大会が数年間続けば、Ustreamなどによる放映が、その大会そのもののブランディングとなりそうです。

色々な競技団体が自分の力で放映すれば良いと思う

今回の八段戦ネット中継は全員素人が行いました。 放送機材や音響機材などに精通した「プロ」は一人も居ません。 現場では、私も動画編集でオロオロしてましたし、全剣連事務局の方々も初の試みで色々と苦労されていました。 何を言いたいかというと、競技団体が自力で試合を放映することは実はそんなに難しいことではないということです。

今回使った機材に特別なものはありませんし、ネットワーク等に関しても特に高度な知識が要求されるわけでもありません。 単にUstreamやYouTubeやTwitterやFlickrやTwitpicやブログなどの、Webツールを使っただけです。 剣道以外のどんな競技団体であっても、電機屋さんで普通に売られている民生用器材と情熱さえあればネット放映が出来てしまう時代になったと言えます。

今までは、プロリーグが存在せず、テレビに出ることの少ないからといって自前で「ネット放映」をすることは出来ませんでした。 「出来ない」というのは、技術的に不可能というよりも「予算的に難しい」という感じです。 一昔前であれば、CDNなどを駆使した高額なサービスを購入しなければ、多人数に対して動画配信は行えませんでした。 しかも、ネット中継をしたとしても見てくれる人がどれだけ登場するかわかりません。 効果が出るかどうかわからないネット中継のためにお金をかけることは、普通はしないと思います。

しかし、今は恐ろしい低コストでそれができてしまいます。 凄い時代になったものだと思います。

競技団体によるネット中継とテレビ

今後、各種競技団体が自前放送を開始すれば、無限に近い多チャンネル化が事実上開始します。 コンテンツがネット上に出そろえば、家庭用テレビでUstreamを見られる日もすぐに来るだろうと思います。 そうなったとき、テレビ局/CATV/衛星放送は様々な変化を迫られる可能性もありそうです。

まあ、ネット中継やネット放送に走るのは恐らくテレビが扱ってくれない競技が多いのだろうと思いますが、そういった組織が増えて来ると、メジャー競技でもテレビ放映されない場合には、ネットで放映ということが当たり前のように行われるかも知れません。

日本では、各種競技団体が自らの手で放映を始めるまでには、まだ多少時間がかかると思いますが、世界1〜2位を争う日本国内の高速なインターネットインフラを積極的に活用することで色々と変わって行くのではないかと思っています。

今回のスタッフ

今回のスタッフです。

最後に

今回の中継をやって思ったのが「やっぱり私は現場が好きだなぁ」ということです。 「回線が繋がらなかったらどうしよう。。。」と前日にドキドキしたり、現場でイーサネットケーブルを養生テープで固定したりしてると、何か充実感があります。

今回の中継で、無事にUstream中継が行えてホッとしました。。。 次はいつになるのかは今のところわかりませんが、次回も何らかの大会で中継が出来そうならば可能な範囲内で手伝いたいと考えてます。 今回ご尽力頂いた方々ありがとうございました!

参考

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過去記事

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