ロビイストとしてのネット民
Communications of the ACM 2月号の16-18ページに「The First Internet President」というタイトルでバラク・オバマ大統領の選挙戦とインターネットについての記事がありました。 2年間のキャンペーン期間中に利用されたWeb2.0的手法などについて語られています。
元記事では、Facebook、twitter、My-Space、Flickr、YouTube、Digg、Eventful、LinkedIn、BlackPlanet、FaithBase、Eons、GLEE、その他サイトや、iPhoneアプリなどを活用した選挙活動が紹介されています。 また、従来通りのWebサイト構築というWeb1.0的インターネット利用と、今回オバマ大統領が活用したWeb2.0的インターネット利用について語られています。
CGMと選挙
元記事ではFacebook内で作成された選挙コミュニティが紹介されていました。 一番大きなユーザコミュニティは「Stop Hillary Clinton : One Million Strong AGAINST Hillary Clinton」というアンチグループだったようです。
元記事には記述されていませんが、CGMとしてはObama Girl(wikipedia参照)が当時印象的でした。 (公式見解的には自然発生らしいですが、Obama Girlがどこまで自然発生的なバイラルだかは個人的にはわかりません。)
日本でのバイラルという意味では、ニコニコ動画内で同じ様な現象が発生しているように思えます。 後は様々な合成画像とかですかね。
平成19年の東京都知事選での外山恒一候補の政見放送がYouTubeに掲載され続けた事例も関係があると言えばあるのかも知れません。
参考
ITmedia : "泡沫候補"浮上させるYouTube 選管も困惑
Webキャンペーンと広告代理店
ブログなどでの記事誘発を行う為に、大規模なコンテンツ作成や、独特なWebキャンペーンが行われて行くのかも知れないと感じました。
そうすると、「面白い広告」や「独自性の高いコンテンツ」を実現するために広告代理店が大規模に政治家のコンテンツ(インタラクティブ広告)を作ることが当たり前の世界が来るのでしょうか? Webby Awardのようなインターネット広告賞に政治家のキャンペーンWebサイトが大量に登場する日が来るのでしょうか?
プライベートデータベースと献金
元記事によるとwww.barackobama.comへの登録ユーザ数は200万を超え、構築された1300万人分の個人データベースは有権者の10%分だったそうです。 このプライベートデータベースを構築できるという部分もかなりの力であるようです。
従来のテレビ放送などでは「one-size-fits-all message」しか送れないと元記事で述べられています。 インターネットでは、より細かいセグメントへのアクセスが可能になります。
さらに、オバマ大統領は400万人以上から合計7億5千万ドル以上の献金を集めたとも記述されています。 一般的な献金は100ドル以下だったそうです。
元記事では「This approach is putting PACs[political action committees] and lobbies on notice that we've entered a new and far more democratic era. It's no longer about the fat cats running the campaign and contributing to it. It's all about the average person」というコメント(2004年ハワードディーン候補のインターネット活用を推進したJoe Trippi氏によるコメント)が紹介されていました。
意見の公募
元記事では、構築されたプライベートデータベースを利用して調査を行ったり、アイデアや意見等を求める事ができると述べられています。
また、change.govでの意見公募に関する取り組みなども紹介しています。 サイト開始後約1ヶ月で3000以上の意見が届いたそうです。
ロビー団体としてのネット民
この記事を読むと一見「ロビー団体の影響力が低下する」と読めます。 ただ、個人的には「ネット民という緩いつながりを持った新しいロビー団体が誕生する過程だ」という風に感じました。
最近、私はネット上で情報発信をするようになってから、様々な方々からのフィードバックを頂けるようになりました。 ブログで何かを書いてコメント欄経由でフィードバックを頂けたり、twitter経由であったり、mixi経由であったり、経路は色々です。 フィードバックが増えれば増えるほど、何かを考える時の情報の練り具合も上昇しているような感じもあります。 しかし、最近徐々に自分と「ネットをしない人」との差が大きく乖離して来ている気がしてならないことがあります。 自分のまわりの「世間」がネット中心になってくると、「ネットにいる人々」の考え方が肌に染み付いて来てしまい、それを理解できない人々と話が合わなくなって来ているのではないかという怖さがあります。 このような感覚から、ネットから多くの意見を吸収していく事は「ネット民」に有利な意見が多く採用されていくという話なのかも知れないと感じる事があります。
ネット上では大多数がROM(Read Only Member)です。 何らかのフィードバックを返すタイプの方々は全体から見れば少数派です。 さらに、現状では新聞社などの既存メディアやYahoo!などのポータルサイトがネット利用の大半というユーザが結構多いと予想しています。 それら以外のサイトを積極的に見るような人は、全体から見ると少数派ではないかと予想しています。 そもそも高齢者が非常に多いような地域に行くとネットを使えない人が多かったり、見る人があまりいないので中小企業がネット上で情報公開をしていることが稀だったりもします。
そう考えると、「ネットの人々」は独自の生態系を持った独自コミュニティであると思われます。 現時点では「ネットを使えて、積極的に意見を表明する人」というのは「一部の声の大きい人」なのだろうと予想しています。 本人がロビイストになっているという事を意識しているかしていないかに関わらず「声を出す人」が何らかの変化を誘発していくようになるのかも知れません。
色々考えるうちに、ネット上に存在する声の大きい人の意見のみが多く吸い上げられて行く状況って、どこかで聞いた事がある何かな気がしてきました。 多くの人が「どっちでも良い」と思うか「積極的に反対しようとまでは思わない」というような問題に関して強い意見を持っている声の大きい人の意見が通り易いって、何かを連想しませんか? それって、代表や中心を持たず自律分散的なゆるい繋がりをもった新手のロビー団体って言いませんか?
いや、でも、これは日本の話であってアメリカのネット民は違ったりするんですかね? 外国でのネット利用は国よって様々であるようなので、一意に語る事は出来ない何かなのかも知れません.
p.s. MIAUのことも頭をよぎりましたが、この話題とは何となく違う雰囲気がします。 代表がいる何かではない何かも生まれそうな気がしています。
公職選挙法
でも、元記事を読む限り献金などに関してはアメリカと日本の違いが大きくて、日本で同様の事は発生するのかどうかは不明な気もします。 現状では、アメリカのような話は発生しないんでしょうね。
参考
- 4月24日(金)開催 AMNブログイベントvol.8 「インターネットが選挙を変える? Internet CHANGEs election」
- Internet Watch :「ネット選挙」は日本でも実現するか、国会議員も交え議論
- "ネットと政治"を考える(後編)――ネットユーザーが選挙でやれることとは?
最後に
10年後にネットが当たり前の世代が増えて来て「ネット民」が多数派になった世界における選挙も色々変わるのかもなぁと思った今日この頃でした(特にアメリカ)。 10年後に振り返ってみると、きっと今は「過渡期」なんだろうなぁと思います。
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