アメリカのネットって本当に実名主義なの?
匿名性やネットコミュニティを研究している中央大学ビジネススクールの折田明子先生が "「日本人は匿名志向・外国では実名志向」を疑う" という記事を書いていました。 その記事に書いてあることを裏付けられる情報を探そうと思ってWeb検索をしていたのですが、とりあえず現時点で発見したものを紹介しようと思いました。
まず、最初に元ネタに、以下のような一節があります。
私の発表の後に話しかけてくれたドイツ人の学生さん曰く、「Facebookで実名を使う、というのはあり得なくなっています」とのこと。特に就職活動を控えた学生達は、web上に実名でいろいろなことを書いておくと、就職面接でプリントアウトした束を目にすることになるのが怖い、と言う。そのため、彼らが取っている方法は
「ファーストネームは実名、ラストネーム(姓)は偽名」
「アメリカは実名主義」という表現を見る事がありますが、本当にそうなのでしょうか? 実は、「アメリカでは名前を前面に出して商売をしている人が日本よりも多い」というだけだったりしませんかね?
もしかして、日本で言われている「外国は実名が当たり前」という話って、「アメリカでは戸籍上登場しやすい仮名を使うのが多いので、日本人の多くはアメリカでは実名が当たり前と勘違いしている」というオチがあったりしますか???
EFFブログガイドライン
確かに、EFF(Electronic Frontier Foundation,電子フロンティア財団)においても仮名(Pseudonym)を使えと書いています。
How to Blog Safely (About Work or Anything Else)
http://www.eff.org/wp/blog-safely Blog Anonymously
The best way to blog and still preserve some privacy is to do it anonymously. But being anonymous isn't as easy as you might think.
「ブログをやりつつも、ある程度のプライバシーを保つために最良の方法は、匿名でブログをすることです。しかし、匿名で居続けるのは思うほど簡単ではありません」と書いてありますね。
EFFは、結構由緒正しい団体です。 クリエイティブコモンズ(Creative Commons)を設立したローレンス・レッシグ教授が理事会メンバーとして参加したりしています。
そこが、こうやって書いているので、このアドバイスに従っているアメリカ人も多い筈だと思います。
Let's say you want to start a blog about your terrible work environment but you don't want to risk your boss or colleagues discovering that you're writing about them. You'll want to consider how to anonymize every possible detail about your situation. And you may also want to use one of several technologies that make it hard for anyone to trace the blog back to you.
1. Use a Pseudonym and Don't Give Away Any Identifying Details
さらに、上司にバレずに酷い職場環境を記述したブログでは、全ての情報を匿名化するのが難しいという例が記述されています。 そのうえ、ブログの履歴から辿られないように通信に関しても考慮することも言及されています。
そして、1章のタイトルは「仮名を使って個人を特定できる情報は一切出すな」です。
ここで「あれ?これってアメリカの文章だよね???」と思った人はいませんか? はい。アメリカの文章です。
ネットストーカー対策:「実名出すな」「情報出すな」
アメリカのセクシャルハラスメント問題を扱ったサイト内に、ネットストーカー対策に関するページがあります。 「Cyberstalking: What To Do」です。
ここでは、「In order to better protect yourself on-line」として複数の項目が列挙されていますが、以下にいくつかを抜粋してみました。 言っている事は日本と変わらないと思います。
- Use a gender-neutral, anonymous screen name. DO NOT USE YOUR REAL NAME.
- Tell children not give out their real name, address, or phone number over the Internet without permission.
- Use a free e-mail account such as Hotmail (www.hotmail.com) or YAHOO! (www.yahoo.com) to pass messages in newsgroups, mailing listings, enter chat rooms, fill out forms, or correspond with someone you don’t know well.
- Don’t give your primary e-mail address out to anyone you don’t know.
- Spend time on newsgroups, mailing lists, and chat rooms as a "silent" observer before "speaking" or posting messages.
- Don’t respond to e-mail from a stranger; when you reply, you are verifying your e-mail address to the sender.
「実名出すな」「子供には実名、その他情報を他人に教えるなと教育しろ」「フリーメールアカウントを使え」「大事なメールアドレスは他人に教えるな」「書き込む前にROMれ」「知らない人のメールには返信するな」と、何か本当に同じですね。。。
ハンドル名ブログで解雇
ブログ執筆で解雇の事例として世界で最も有名なのはHeather Armstrong氏の事例ではないでしょうか? 「be dooced」という表現が生まれるほど、衝撃的な事例として扱われていました。
しかし、「Dooce氏」は知っていても、「Heather Armstrong氏」は知らない人が多いのではないでしょうか? 実は、「Dooce」は実名ではなく、ハンドル名(仮名)です。 Wikipediaの記述は以下のようになっています。
http://en.wikipedia.org/wiki/Heather_Armstrong
Heather B. Armstrong (nee Hamilton) born July 19, 1975, is an American blogger who resides in Salt Lake City, Utah. She writes under the pseudonym of Dooce. Armstrong explains that "Dooce" came from her inability to quickly spell "dude" during IM chats with her former co-workers.
要は「ハンドル名で書いていたら身元がバレて解雇された」という話です。
Queen of Sky
「CNET:Perspective: I was fired for blogging」という記事もありました。 2004年12月の記事ですが、「Diary of a Flight Attendant」というブログで「Queen of Sky」というハンドル名を使っていた女性客室乗務員が制服での写真をブログに掲載して、身元がバレて解雇されたという記事です。
ということは、この人は実名ではブログを書いていなかったということになります。
なお、余談ですが2004年のCNET記事で紹介されている、Queen of Skyさんのブログは現在は第三者がURLを取得しているようです。 そこでは、プロフィールとして以下のような文章が書いてあります。
Alright, here we go.
I’m not the original - and now infamous - Queen of the Sky. I’m not even female or gay - so therefore I’m not a queen at all. Maybe I should call myself the King of the Sky? Hmmm……. maybe not!
I am a Flight Attendant though. That’s pretty much all me and the previous ‘owner’ of this site have in common. I’ve just grabbed this web address because it’s been left abandoned, despite it still being popular.
Such a shame to see a good website go to waste right......
Well, I won’t be risking being fired here. I will NEVER share my name, or the airline I work for, or any photos or videos I’ve taken at work. Then I know I’ve done nothing wrong!
Look out soon for my diary.
新しくURLを取得された方のプロフィールを拝見していると、実名主義な文章とは思えません。。。
そもそもリアルでも偽名/仮名を使ってますか?
2003年12月のアメリカでのニュースによるとドミノピザを偽名で注文した人が使った「名前」の一位は「Paris Hilton」らしいです。
この記事を見る限り、偽名と実名の割合はわかりませんでしたが、記事になるぐらいなのでそれなりには居るのかも知れません。
Flashdanceという映画の中で出て来るLaura BraniganのGloriaという曲に以下のような歌詞があります。
「I think they got your number, I think they got the alias, that you've been living under」
どうも、歌詞の中に登場する女性は仮名で活動をしているようです。 まあ、単なる歌ではありますが、そういう生活をしているということが受け入れられているのかもと、調べながらふと歌を思い出してYouTubeで探してしまいました。
MySpaceに実名で登録しなかったので起訴
逆に、MySpaceに実名登録しなかったことを理由の一つとして起訴されたという事例がありました。
- 本家Slashdot:User Charged With Felony For Using Fake Name On MySpace
- SecureWorks: False Positives in the Legal System
- AFPBB:「ネットいじめ」で起訴の女性、無罪を主張
大人が子供に成り済ましてMySpaceに入り込み、13歳の少女と仲良くなったうえで急に関係を断ち切って、少女が自殺してしまったという事件です。
AFPBB:「ネットいじめ」で起訴の女性、無罪を主張
【6月17日 AFP】米ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)のマイスペース(MySpace)上で少年になりすまし、13歳の少女を中傷するメッセージを送り自殺に追い込んだとして、少女の近所に住む女性が起訴されていた事件で、ローリ・ドリュー(Lori Drew)被告(49)は無罪を主張している。
この事件では、ソーシャルネットワークの利用規約に違反したという理由で起訴できるのであれば、誰に対しても起訴可能になってしまうという理由で今年7月に棄却されたようです。
「WashingtonPost: Dismissal of MySpace Case 'Proper,' Defendant Says」
この事件は「ネットいじめ」として大きく取り上げられました。 背景が非常に特殊ではありますが、実名を求めるSNSがあり、そこに実名登録しなかったことが理由の一つとして、訴えられた事例もあると言えるのかも知れせん。
参考:Wikipedia: Suicide of Megan Meier
Anonymous Coward
Slashdotというアメリカの巨大掲示板風のサービスがあります(この文章を読まれている方々はご存知の方が多いとは思いますが。。。)。
そこでは、Anonymous Cowardという表現があります。 「匿名の臆病者」という意味です。
「臆病者」という表現ではありますが、逆に言うと、匿名での書き込みが要素として認められている事を意味しています。 また、wikipediaによると、ルーツはUSENET時代にさかのぼるらしく、昔からアメリカでも匿名での書き込みがあったことを物語っています。
http://en.wikipedia.org/wiki/Anonymous_Coward
最後に
ネット上で良く目にする「アメリカは実名主義」というのは、どこまでが本当なんしょうか??? 今後、このテーマで様々な事例が調査されて「外国は実名主義が当たり前」という良く耳にする主張がどこまで本当なのか、それとも現実に即していないのかに関して情報が出て来ると良いと思いました。
今日はちょっと疲れたので、韓国やヨーロッパ関しての調べ物はまた今度。。。 というか、英語圏以外では言葉の壁が。。。 英語論文を探すとかしかないのかも知れないですね。。。
p.s. 折田先生!インスパイア元記事、ありがとうございます!
関連
- akoblog@はてな:「日本人は匿名志向・外国では実名志向」を疑う
- ネットで実名を出せない理由
- ネットにおける匿名の誹謗中傷を減らすには
- WikiLeaksへの支払い停止でDDoS攻撃をした「Anonymous」って何?
おまけ
「Facebook anonymous」などの検索語で色々調べていたら、面白い動画を発見しました。 Facebookストーカーの歌です。 2年前の動画なので、ご存知の方も多いかも知れませんが、個人的に初めて見てウケたので紹介してみました。
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