Googleストリートビューは「悪の帝国」への入り口?
一部界隈では、「悪の帝国」と言えばマイクロソフトのための枕言葉でした。 昔、Windows95が出た頃に「30歳未満はシアトル産OSを使ってはいけない」と先輩に言われたり、「おじいちゃんの遺言でWindowsは使うなと言われている」という冗談が狭いコミュニティ内で流行ったのを覚えています。
今にして思えば変なのかも知れませんが、当時はそれに疑問を持たない人が一部コミュニティの多数派だった頃もありました。 便利なUIを使い過ぎてUNIX系コマンドやOSの使い方を習得する機会を逃すべからず、という意味も込められていたのかも知れませんが、マイクロソフトが「悪」だからという主張を持っている人もいました。
何故「悪」なのかに関して確固たる主張を持っている人もいましたが、「まわりが言っているから」「何となくそう思うから」という酷く曖昧な理由でマイクロソフト社を「悪の帝国」呼ばわりしている人もいました。 挙句、一部メディアでも「悪の帝国マイクロソフト」という表現が出現するようになっていました。
悪の帝国への入り口
Googleストリートビューが公開されましたが、賛否両論あります。 「超cool!大賛成!」という意見がある一方、「気持ち悪い」「怖い」というマイナスな感情も数多く表明されています。
ストリートビューは、今までのGoogleサービスの中で最もマイナス感情を巻き起こしたサービスなのではないかとさえ思います。 その他サービスも、マイナス感情を巻き起こす場合がありましたが、それとは違う「空気」がネット上に溢れている気がします。
このストリートビューが後に「悪の帝国」という枕詞への入り口になったと評される事があるかも知れないと感じることがあります。
当事者かどうか
Google社のその他サービスに対する批判も色々あります。 しかし、今までは基本的にサービス利用者になったり、自分から自発的に何かを公開していたりしなければ関わる事がないサービスが多いです。 例えば、gmailは申し込んだ人が使うものです。 また、検索エンジンのインデックスに載るにはWebページを「公開」するという段階が必要でした。
そういう意味では、Google Mapsは自分が自発的に何かをしなくても家の屋根等が「掲載されてしまう」珍しい事例でした。 それが発展して、人や建物や車などが人と同じ目線で見えるのがストリートビューだと思われます。
人の目線になっているので、多くの人が急に「当事者」になってしまっています。 自分が直接写っていなくても、写る可能性があったり、写っているかどうかもわからないというモヤモヤとした当事者です。 衛星写真でも当事者だったはずですが、ストリートビューの角度になった瞬間に当事者意識が強くなっているような感覚があります。 どの要素が当事者意識をトリガーしているのかはわかりません。 全ての要素が複雑に絡み合い、何かの閾値(threshold)を超えると急に当事者な気持ちが芽生えるのかも知れません。
人は当事者にならないと考え始めることができない場合が多いです。 例えば、YouTubeに掲載されるテレビ放送コンテンツ等をオプトアウトにするという提案を著作権者が反対していた時に著作権者に「ケチ」と言っていた人でも、ストリートビューに自分が撮影されていたときにオプトアウトである事実に対して激怒しているかも知れません。 今は裁判員制度に関して全く興味がなくても、自分が召集された瞬間から様々なものが見えてくるかも知れません。 IPv4のアドレスが枯渇しそうになっていますが、できないことが目の前で発生するまでは何の話をしているのか意味不明かも知れません。
同様に、アメリカでストリートビューが話題になっている時はスルーだった人が、日本でサービスが開始されて初めて色々と気がついたりするのかも知れません。 自分が住む地域が撮影された時点で初めて文句を言う人もいるかも知れません。
そして、結局はダブルスタンダードから逃れることができる人というのは極少数なのかも知れません。 私も自分のダブルスタンダードさを改めて実感してしまいました。
今まで、Googleは様々な業界の「壁」を壊そうとしたり、壊したりしてきました。 そして、今回壊そうとしている「壁」は多くの一般人の領域になったのかも知れません。
不気味の谷
以前、ストリートビューについて書いたときに「不気味の谷のようだ」という、はてブコメントを頂きました。 これは、非常にうまい表現だと思いました。
Google Mapsの撮影角度と解像度が変更されたのがストリートビューです。 今までの衛星写真に対して文句を言う一般人はさほど多いという印象を持っていませんが、ストリートビューになった途端に拒否反応を示す人は非常に多いと感じています。
恐らく、角度/解像度/位置情報/利用数などの規模/高速な応答性/サービス知名度、その他様々な要因が混ざり合った結果として「何となく怖い」という印象が発生しているのだと思われます。
そこに論理的な根拠を持つ人は多数派ではなく、恐らく混沌と「不気味さ」を感じている人が多いような気がします。
様々なブログで「何故嫌か」が語られていますが、私には何故それが「怖い」のか、何がどう「嫌」なのかを論理的に説明する自信は全くありません。 恐らく「それって○○でも怖いの?」というアナロジーを使った反論に対して脆弱な文章しか書けません。 そのため、私が抱くGoogleストリートビューへの「恐れ」は無根拠としか言いようがありません。
何となくの感覚が怖い
「何となく」の感覚は論理ではなく感情な部分が多いので、「論理」で納得させるのが難しいかも知れません。 議論では負けるけど、結果として心では納得しないという状況になりそうです。 もしくは、負けるとわかっているので議論には参加しないという選択をしてしまうかも知れません。
「だって気持ち悪いんだもん!文句あるか!」と言われてしまうと、不安を取り除くための説得をしようがありません。
さらに、この何となくの感覚が多くの人が共通で持っているという状態は非常に危険なのではないかと思われます。 誰かが何かの「根拠」を発見して関連付けをしてしまうと、たちまち無根拠な感情に大義名分が出来上がり、「嫌」だという気持ちが正当なものと感じさせてしまうかも知れません。
そして、それまでの「何となく悪の帝国っぽい」というイメージが定着してしまい、その他のサービスと無理矢理関連させた評論が出てきてしまうかも知れません。 例えば、Adsenseと情報商材系広告の関係とストリートビューが関連付けて語られる事もあるかも知れません。
結果として、ストリートビュー開始が「悪の帝国グーグル」という表現への入り口になってしまうのではないかと、思った今日この頃です。
でも、Googleは好きなんだよなぁ
以上、ネガティブな事ばかりを書いてしまいましたが、Googleって好きなんですよね。 先進的なイメージが非常にありますし、楽しいサービスに挑戦する姿は憧れです。
恐らく「Google大好き」という気持ちを持つ人は多く、そこら辺とストリートビューの気持ち悪さとを心の天秤にかけている人は非常に多いような気がします。 ということで、これに関する私の心の中は結構ぐちゃぐちゃです。
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