キャプテン効果

2008/10/29-1

「キャプテン」という漫画があります。 以下、wikipediaに記述されているあらすじです。

野球の名門青葉学院から墨谷二中に転校してきた主人公谷口タカオは、野球部に入部しようとグランドを訪れ、練習に参加しようと青葉時代のユニフォームに着替えた。そのユニフォームに気付いた野球部員は、勝手に谷口を名門青葉のレギュラー選手だったと思いこんでしまう。しかし、谷口は2軍の補欠でレギュラー選手とは程遠い選手だった。そのことを気が弱くて言い出すことができない谷口は、周囲の期待に応えるべくすさまじい影の努力で上達し、キャプテンに選ばれるまでになりチームを引っ張っていくことになる。

コンピュータ知識を持つ人が非IT系ベンチャー企業に行く事によって、「キャプテン」と同じ状況もあり得るのではないかと思うことがあります。 (昨日の記事に関連する内容です。)

1. 2軍の補欠でも大きな戦力

大きな組織に所属しいると「あの人には一生勝てないんだろうなぁ」というような劣等感に襲われることがあります。 そして、そのような劣等感を抱いている状況では、あまり活き活きと仕事ができず、結果として「企業に飼い殺される」という状況に陥ってしまう人もいます。

しかし、そのような人であっても、全くIT系ノウハウが蓄積していない業界に入り込むと、凄い人として扱われる場合があります。 まさに転校したての谷口タカオと同じような状況です。

そして、非IT系企業ではIT系技術を持った人は実際に大きな戦力になる事が多いです。

2. 影ながら努力せざるを得ない状況

IT系技能を持っているとは言え、多くの場合、その技術は限定されたものです。

そもそも「IT技術者」って何でしょう? プログラマでしょうか?ルータを設定できる人でしょうか?光ファイバ作れる人でしょうか?データセンターを運用している人でしょうか?データベース構築できる人でしょうか?Webデザイナでしょうか? それぞれ別の生態をしているにもかかわらず、それらをひとくくりにして語っている時点で大きな問題があります。

しかし、世の中では全てがひとくくりだと思っている人が結構多いです。 データセンターが何であるか知らない人に、Web管理者とWebデザイナとプログラマの違いを説明しても全く理解してくれない場合があります。

また、自分以外に誰もIT技術者がいないようなベンチャー企業に乗り込むと、全てを自分で考えなければならないこともあります。 検索エンジン広告やWebを使ったプレスリリースの存在なども考えると、広報や広告に関してまで考えなければならないこともあります。

そして、それらを全て満たすためには影ながらひたすら努力をして勉強し続ける事が要求されます。 例えば、電気回路が全てだと思っていた人が、効果的な検索エンジン広告活用方法を勉強しているようなものでしょうか。 全く違った分野のITを勉強するのは楽しいものです。

人は自分が必要としていない勉強より、自分が必要としている勉強に熱中することが多いです。 視野を広げるという意味では「勉強せざるを得ない状況に飛び込む」というのは有効な手段かも知れません。

3. 信頼される(というよりSingle Point of Failureになる)

IT技術者があまり入り込まないような業界に飛び込むと、いつの間にか頼りにされることが増えて行きます。 そして、色々と手伝ったり関わったりしていくうちに、徐々に信頼されていきます。

信頼されるだけではなく、徐々にSingle Point of Failureになっていく場合もあります。 i.e. その人が倒れると全てが崩壊するようなクリティカルポイントですね。

全体的な状況としては、これはあまり好ましいことではありません。 しかし、信頼されるという状況が嬉しくないと言えば恐らく嘘になるような気もします。 やはり、補欠として信頼されないよりも信頼される方が嬉しいという人は多いと思います。

4. 気がついたら第一人者になっているかもしれない

その業界で色々と活動していると、徐々に自分が目立っていくかも知れません。 最初は、その業界の知識が無くて戸惑いもあると思いますが、色々慣れていくと、IT系知識と業界知識という2本の剣をもった両刀使いが誕生します。

多くの場合、業界の慣習に関する知識よりもIT知識の方が習得に時間がかかります。 そして、両刀使いになれる人が少ない状況では、いつのまにか業界の第一人者になっているかもしれません。

5. 最先端に触れることが重要ではない人もいる

「最先端技術に触れることこそエンジニアの喜び」と強調されることが多いです。 確かに、古いシステムのつまらないメンテナンスは嫌です。 しかし、全ての人が最先端に触れていることだけが喜びかというと、それはダウトです。

例えば、特定のサーバやシステムをメンテナンスする事自体に喜びを感じる人はいます。 最新ではなくても、その結果として「人を動かせたこと」や「人を喜ばせた事」を楽しいとする人もいます。

そのような人にとっては、同じようなIT系バリバリで最先端を行っている人だらけの集団よりも、非IT系な業界の世界でイノベーションを起こす方が楽しいかも知れません。

6. 情報の流通が不足している

ただ、このときの大きな問題はIT系にどっぷりな人は非IT系の世界を全くと言っていいほど知らないことです。 そして、先輩や先生や上司も非IT系企業へのコネをあまり持っていないことが多いです。

そのため、「どの企業に入ったら活き活き出来るか?」が全く予想できません。

IT系人材が非IT系ベンチャー企業に行くのはかなりの賭けです。 多くの場合、CTOのようになって全ての技術業務を見たり、戦略の中のIT関連部分への助言をしなくてはならないと思われます。 このとき、全てを大きく左右するのが社長の人格や性格です。 元々知り合いであったりすれば、どのような人かがわかるので「一緒に仕事をしてみたい」と思ったり、逆に「この会社は避けよう」と思うことも可能です。 実際、私の周りでベンチャー企業に新卒で就職する知人の多くは、知り合いがやっているベンチャーに就職することが多いです。

コネが無くても行こうと思うベンチャー企業は、既に多くの人に注目されているような会社です。 IT系であれば、hatenaのような企業が多くの優秀な若者をひきつけています。 そのような企業は、需要よりも供給の方が勝っている場合があり、入社難易度が高いかも知れません。

何故そのような企業に応募が集中するのかと言えば、恐らく「目立っている」からだと思われます。 ベンチャー企業での他の選択肢が埋もれているだけなのかも知れません。

非IT系企業で「面白い会社」というのがIT系人材やIT系学生が見ている場所で目立てる環境が出来上がれば、選択肢を知るという機会は増えるのかも知れません。 ただ、アテンションは有限なので「どうやって人々の興味を引くか」というのは大きな課題だと思われます。 何か独特な個性をポジティブな方向で出しながら目立つのって難しいんですよね。

最後に

結局は、現状はあるべくしてあるのかも知れません。 しかし、ITに明るくない企業というのも多くあり、そこに入ってゼロに近い状態から全てを立ち上げながら自身も成長できるという「キャプテン効果」はあり得ると思った今日この頃です。 問題は、それらの業界を横断するような人が少なく、「良い職場」がどこであるかわかりにくいことと、雇う側が「特殊な能力」に対してどこまで投資できるかなどですかね。

いや、でも自分のまわりが「その業界」の人だけだと気がつきにくいですが、コンピュータ系知識は特殊な能力ですよ。きっと。

ITが関係ない業界では、本当に驚くように単純なことがイノベーティブであることもあります。 きっと、イノベーションって「その世界」の中での相対的なものなんですよね。 ITの世界では当たり前の話を、非IT系の特定の業界に持ち込むと、その世界が変わったようなイノベーションを起こせると考えています。

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