ルータやスイッチは日本の法律上、通信の秘密を侵害するが違法ではない

2016/8/2-2

パケットのヘッダに記載された情報を読み取らなければ、ルータはパケットを転送できません。

日本の法律では、ISPなどの電気通信事業者がIPヘッダに記載された情報を読み取ることは通信の秘密を侵害すると解釈されています。その一方で、インターネットにおける通信を実現するためにはルータがIPヘッダに記載された情報を読み取ることは必要であり、違法であるとは思えません。

日本におけるインターネットと法律に関する話題に触れたことがない方にとっては、非常に奇妙な話に聞こえるかも知れません。しかし、このように「法益を侵害するが違法ではない」という解釈は、日本においてインターネットがどのように運用されているのかを理解するうえで非常に重要なポイントです。

通信の秘密

日本国憲法(第21条)と電気通信事業法(第4条)は、通信の秘密を定めています。憲法における通信の秘密と、法律における通信の秘密の違いは、憲法が政府などの公権力に対する義務であり、電気通信事業法はキャリアやISPなどの電気通信事業者に対する義務であるとされています。

電気通信事業法は「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。」と定めており、すべての通信の秘密を侵してはならないとしています。しかし、ルータはパケットを転送するために、スイッチはフレームをスイッチングするために、それぞれヘッダに記載された情報を読む必要があるため、通信の秘密を侵害していると解釈されています。

しかし、IPパケットのヘッダを読むことはルータを運用するうえで必要不可欠です。そのため、その行為は正当業務行為であり、その違法性が阻却されると解釈されています。

法解釈

このように、「法益を侵害するが違法性阻却事由に該当する」という考え方は、日本のインターネット運用においていたることろで目にすることができます。

現在日本国内のISPで行われている様々な運用で、この考え方が活用されています。たとえば、帯域制御(正当業務)、優先制御(正当業務)、児童ポルノブロッキング(緊急避難)などがあげられます。

こういった「解釈」は、ガイドラインとしてまとめられていることもあります。関係省庁などがガイドラインをまとめていることもあれば、業界団体によってまとめられることもあります。ガイドラインは、法律の専門家によって検討されますが、関係省庁がオブザーバとして検討作業に参加する場合もあります。ただし、そういったガイドラインは「解釈」を保証するものではありません。単に考え方を示しているに過ぎず、最終的な責任は運用者が負うことになります。

とはいえ、そういったガイドラインに記載された内容での運用が訴えられたことがないため、それらが違法であるとの判例が存在せず、現時点ではそういった運用は違法ではないと「解釈」されています。

このように、新しい「解釈」を生み出すことで法律の改正を行うことなく、新しいネットワークの運用手法が正当化されることがあります。

訴えられる可能性が存在し続けるものの、新しい法解釈は過去の法解釈に基づくことがあります。そのため、法律そのものだけではなく、過去における法解釈の積み上げを理解が必要になる場合もあるのです。

「ルータやスイッチは日本の法律に定められた通信の秘密を侵害するが違法ではない」という解釈は、ある種極端な事例であるとも言えますが、日本国内において主流な解釈であると言えます。この記事が、日本におけるインターネット運用のややこしさを理解する一助になれば幸いです!

(この記事はAPNICブログに寄稿した記事を日本語訳したものです)

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