10月1日、インターネットが大きく変わりました
世界中のほとんどの人々は気にしていませんが、米国時間の2016年10月1日(土曜日)、インターネットが大きく変わりました。これまで米国政府が保持していたインターネットの重要資源に対する監督権限を手放したのです。
- JPNIC: 米国政府がインターネット重要資源の監督権限を手放しました
- JPNIC News & Views vol.1439【臨時号】2016.10.3
- NTIA: Statement of Assistant Secretary Strickling on IANA functions contract
インターネットそのものは、世界中の多くの組織が分散しつつも協調することで成り立っています。 しかし、世界中のみんなが単一の「共通意識」を持って運用する必要がある、IPアドレスやポート番号などの番号資源、ドメイン名、プロトコルパラメータの3つに関しては、IANA(Internet Assigned Numbers Authority)という単一の機能が実現していました。
このIANA機能は、米国に本拠地を持つ非営利法人であるICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)が管理していますが、ICANNはIANA機能を管理する契約を米国商務省電気通信情報局(NTIA)と交わしていました。その契約は、IANA機能の監督権限を米国商務省が持つというものです。 インターネット全体で単一の共通認識を実現するための機能は、米国政府がICANNに委託しているという体裁でした。
IANA機能の民間への移管は、1998年のICANN設立当初からの想定路線ですが、10月1日まで実現していませんでした。 しかし、移管後体制をどのようにするのかに関しての準備は進められており、米国政府とICANNの間での契約が満了すると同時に移管後体制に関する契約群が有効となるようになっていました。
この動きを止めるために、米国政府とICANNの契約が満了しないように契約延長するように求める訴訟が起こされたり、米国議会で引き留めの動きが活発に行われたり、米共和党大統領候補のトランプ氏が監督権限を手放すことに反対したりと、いろいろな動きがありました。そのため、10月1日に本当に移管が行われるのかどうかは、直前までわからない状況でしたが、米国政府は2016年10月1日にインターネットに対する監督権限を手放し、インターネットが変わったのです。
今後は、米国政府ではなく、「マルチステークホルダー体制」に基づく「グローバルなインターネットコミュニティ」がインターネットの監督を担っていくことになります。
2016年9月30日までのルートゾーン管理契約
米国政府が有していたインターネットに対する監督権限のイメージを持っていただくために、そのうちの一部を紹介します。
1998年10月から2016年9月30日まで、ルートゾーンの管理契約とルートゾーンに何を掲載するかを決定するIANA機能は、それぞれ米国商務省が契約することになっていました。ルートゾーン管理契約はVerisign社(サーバ証明書の「ベリサイン」とは別です)、IANA契約はICANNと、それぞれ取り交わされています。
インターネットは常に変化し続けているので、ルートゾーンに記載される内容が変わることもあります。トップレベルドメインが新たに追加されたり、トップレベルドメインが削除されたり、既存のトップレベルドメインに関連する情報が変更されるときなどです。
たとえば、あるトップレベルドメインの権威DNSサーバに関する情報が変わる場合を考えてみましょう。ルートゾーンに記載する情報を変更が必要になったトップレベルドメイン運用組織は、IANAに更新申請を行います。
IANAは、トップレベルドメイン運用組織からの申請を審査します。IANAの審査を通過した申請は、米国政府(米国商務省/NTIA)に渡されます。米国政府がルートゾーン更新に関する承認権限を持っているので、ルートゾーン更新の前に米国政府による承認が必要です。
米国政府によって承認された申請は、ベリサイン社に渡され、ベリサイン社がルートゾーンを更新します。更新され たルートゾーンは、13系統のルートサーバに反映されます。 ルートサーバが13系統存在していたとしても、ルートゾーンはひとつだけなのです。そのルートゾーンの更新には米国政府の承認が必要だったのです。
今後、どうなるのか?
インターネットが大きく変わりましたが、その変化が一般ユーザに影響を与えるかどうかは、いまのところ良くわかりません。これまで通り、特に変化を感じずにインターネットを使い続けられることも考えられます。
その一方で、いわゆる「マルチステークホルダー」という体制が本当に機能するのかどうかが今後は試されるという考え方もあります。「マルチステークホルダー」の一員になりたいのであれば、基本的には誰でも参加ができます。しかし、実際には、世界各地で開催される各種会合等に参加しつつ、既存の「マルチステークホルダー」コミュニティにメンバーとして認めてもらう必要があるのです。
そういった活動を続けるには、事実上は、何らかの資金源が必要です。世界中を飛び回る旅費も必要ですし、そもそも、その人が生活を続けるためにもお金は必要です。その資金が続く人だけが、インターネットの監督権限に関われるようなスタートラインに立てるともいえます。
たとえば、インターネットを何らかの方向に意図的にドライブしたいような国や組織が存在したとして、「マルチステークホルダー」の一員になるような人員に対して積極的に投資したり、すでにそういったコミュニティで地位を確立している人を雇うといったことが発生したとき、どうなるのかという考え方があります。
今後、何かが大きく変わるのか、それとも現状が維持されるのか、どうなるのでしょうか。
余談
余談ですが、IANAとNTIAに関する絵は、現在執筆中のTCP/IP関連技術解説書で使われる絵です。 絵は、「小悪魔女子大生のサーバエンジニア日記」のaicoさんによるものです。 11月後半の発売予定を目指して、現在、書籍校正の最終段階です!
追記
最近のエントリ
- 「ピアリング戦記」の英訳版EPUBを無料配布します!
- IPv4アドレス移転の売買価格推移および移転組織ランキング100
- 例示用IPv6アドレス 3fff::/20 が新たに追加
- ShowNet 2024のL2L3
- ShowNet 2024 ローカル5G
- ShowNetのローカル5G企画(2022年、2023年)
過去記事