「iOS 8」を運んだAppleの独自CDN
今年7月に入ってから、Appleが独自CDN(Content Distribution Network)の運用を開始しています(参考)。今回公開されたiOS8も、Apple独自CDNによる大規模配信が行われました。
これまでは、Appleは、他社が提供するCDNのサービスを購入することでOSアップデートなどの大規模配信を行っていましたが、その方針を大きく転換した形です。インターネットの「超巨人(Hyper Giants)」として語られることが多いGoogleやAmazonなどと違って、巨人でありつつも自社で世界的な配信網をそこまで強烈な整備をするわけではなかったAppleがついに超巨人になる方向性を示したとも言えそうです。
現時点ではApple独自CDNだけで同社コンテンツを全て配信しているわけではなく、アカマイなどの商用CDNも併用しているようですが、今後は徐々にApple独自CDNのみへとシフトしていくのかも知れません。
最近ホットなBGP
インターネットインフラ界隈では、BGPによるピアリングやトランジットをどのように行うのかが最近特にホットな話題になっています。いまのところ、BGPに関連するそういった動きを作っているのはコンテンツ事業者やデータセンター事業者など、AS接続で見ると末端ノードに位置する事業者です。他社のパケットを転送しているわけではないため、BGPによるAS間接続という視点で見ると、Appleも末端ノードに位置する事業者です。
これまでBGPによるピアリングはコスト削減という視点で語らえることが多かったのですが、最近は品質向上(もしくは確保)という視点での議論が多い印象です。たとえば、ソーシャルアプリケーションを円滑に動作させるためにデータセンター同士をピアリングするといった話も頻繁に聞くようになりました。BGPの世界は、いままさに大きく変化しつつあるのです。
BGPでは、どことどのような契約でどのようなBGP接続を実現するのかが非常に重要となってきます。誰がどのような費用負担をするのかや、誰が誰とどのように繋がるのかは、力関係やビジネス的なメリット・デメリットを加味したうえで決定されているのです。
たとえば、Appleが独自CDNを整備するにあたって、Comcastに対価を支払ってBGPでのピアリングを行ってもらうペイドピアリングが行われているとされています。(余談ですが、Appleの現ピアリング責任者が、元Comcastのピアリング関係者というのは、なんとも面白い構図ですね。参考)。
Comcastは、米国最大のISPであるケーブルテレビ事業者です。米国では、日本のように電波によるテレビ放送がほとんどの地域で見られるわけではないため、各家庭が個別にケーブルテレビを申し込みます。そのケーブルテレビ契約と同時にインターネット契約も行われることが多いため、米国国内最大規模のケーブルテレビ事業者であるComcastが、インターネットユーザへのラストワンマイルの多くを提供しています。ユーザへのアクセス部分を直接握るComcastとのピアリングは、基本的にペイドピアリングになるようです(Tier 1のLevel 3って結局Comcastに払ったんですかね?揉めている部分は公開されていましたが、結果に関しては見たことがないので)。
Comcastに対して行うようなペイドピアリングではなく、対等なピアリングも多数あるとは思いますが、今後Appleは、独自CDN実現に向けて急激にピアリングを増やしていると思われます。これまで、AS間を流れるトラフィックに関する議論をするときに、「Googleとの接続やキャッシュをどうするのか?」と「アカマイとの接続やキャッシュをどうするのか?」が特に意識されることが多かったのですが、今後はAppleもそれに加わるのかも知れません。
iOS 8の配信は、インターネットそのものの形がいままさに変化しつつあることを実感させるものであると思えた今日この頃です。
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