iOS 8配信におけるApple独自CDN活用範囲
先月、iOS 8の配信を行うためにApple独自CDNが活用されました(参考)。ただし、iOS 8の配信全てがApple独自CDNのみで行われたわけではありません。
インターネットの構造に関する調査研究をされているNTTコミュニケーションズ 技術開発部 亀井聡氏に当時の計測結果を伺いました。
計測環境
亀井氏は、日本におけるインターネット構造の現状を計測する調査研究をされています。
その計測手法は非常にシンプルです。日本国内各地でISP契約を行い、そこからtracerouteやdigなどを行い続けるというアクティブ測定です。計測用パケットを送信することを主目的とした回線を日本各地で契約して、そこから見えるものを見続けるというものです。
現在、日本国内150ヶ所にprobe地点が設置されています。
digコマンドによる活用CDN計測
CDNを実現するための手法としてDNSが活用されることもあります。たとえば、「download.example.com」というFQDN(Fully Qualified Domain Name)による配信の負荷分散を行うために、CNAME(正式名)にCDN事業者が運営する配信サーバのFQDNが登録されることがあります。そのうえで、CNAME等が指す最終的なFQDNが「○○.akadns.net」であればAkamaiであるとわかりますし、「○○.llnwd.net」であればLimelightであるとわかるといった感じです。
表向きは「download.example.com」だとしても、実際はCDN事業者が提供するサーバのIPアドレスが名前解決結果として返るので、ユーザがダウンロードを行うのもCDN事業者のサーバからとなります。
NTTコミュニケーションズで行われている計測も、そういったCDN運用の手法を前提としています。たとえば、iOSなどAppleからの配信を計測する場合には、「appldnld.apple.com」というFQDNに対してdigコマンドが30分おきに続けられます。そのうえで、digコマンドによって最終的に返されるIPアドレスが属するASが、BGPフルルート情報をもとに割り出されます。
iOS 8の配信
継続的なdigコマンドによって得られたiOS 8の配信元情報は非常に面白いです。このグラフは、30分毎のdig結果を12時間分まとめたうえで統計値(率)を示したものです。図1と図2は、それぞれ別のISPでの観測結果です。
図1:ISP A
図2:ISP B
まず、iOS 8配信が開始される1週間ぐらい前に、「appldnld.apple.com」がAkamaiからApple独自CDNへと切り替わっているのがわかります。さらに、iOS 8配信が開始されてから少し時間をおいてからAkamaiとLimelightによる配信がApple独自CDNと平行して行われています。
これらのグラフで注意が必要なのは、このグラフで示されているのが「トラフィック総量」ではなく「毎時間同じ回数名前解決をしてきたときの配信元の比率」であるという点です。この調査研究では、トラフィック総量の計測は行われていませんが、もしかしたらApple独自CDNで配信可能な最大限まで活用され続けたうえで、それでも足りない部分を他社CDNで補っていた可能性もありそうです。
9ヶ所の観測地点でのデータ
図3は、9ヶ所の観測地点でのデータを1時間単位で示したものです。それぞれの観測地点で、ほぼ同時刻にApple独自CDNへと切り替わり、その後、他社CDNとの平行配信になっているのがわかります。
図3: 9ヶ所の観測地点でのデータ
長期観測データ
iOS 8配信前後だけではなく、長期的視点での観測結果も面白いです。亀井氏は、「こんなこともあろうかと」の精神で、以前からAppleのCDN活用状況を計測し続けていました(参考)。
図4: 今年6月からのデータ
そこで非常に興味深いのが、Appleは6月に一時的に独自CDNを利用しているという点です。その後、Akamaiのみの配信が2ヶ月続き、Apple独自CDNが主となる配信が続いてから、iOS 8配信開始後にAkamaiとLimeLightが活用されています。
最後に
亀井氏の調査研究は、Apple独自CDNで試行錯誤が繰り返されている可能性を示しています。
ISP関係者によって、Appleのトラフィックが強く注目されがちなのは、iOSなどの配布が開始したときにインターネットバックボーンそのものに影響を与えかねないほどの巨大トラフィックが発生するためです。
Apple独自CDNはまだ開始されたばかりですが、今後、どのように成長していくのかを興味深く見守っている人々が多そうな気がします。
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