IIJ外気冷却コンテナ型データセンター実験に見る和製クラウドの未来(4)
さらに、輸送するための車両もコストがかかるため、将来的には申請が必要ない、幅2.5mのコンテナを作成することを検討中とのことでした。
(*) 参考までに、道路交通法施行令第二十二条を見ると「幅 自動車の幅」(最大2.5メートル)、「高さ 三・八メートルからその自動車の積載をする場所の高さを減じたもの」と書いてあります。
何でコンテナなの?
さて、ここからはブロガー見学会で行われた説明というよりも、私の意見というか感想がメインになります。
IIJが行っている外気冷却コンテナ型データセンター実験を物理的に見て単純な感想を持つのは簡単です。 おおむね以下のような感想が多そうだというのが個人的な妄想です。 というか、取材前に私が持った感想が以下のようなものだったのは内緒です。
- 「へぇ。外冷気使うんだ。電力削減できるの?」
- 「コンテナねぇ。コンテナじゃなきゃいけないの?」
- 「コンテナでデータセンター作るんだ。アメリカの真似?」
- 「コンテナ平置きってことは田舎に作るの?」
- 「北海道あたりでデータセンター作れば効率いいんじゃない?」
- 「そういえば、さくらインターネットも北海道にデータセンター作るって言ってたよね」(参考:さくらインターネット、クラウドコンピューティングに特化した国内最大級の郊外型大規模データセンターを北海道石狩市に建設〜PUE1.11を実現し日本のITコストを世界標準へ〜)
しかし、今回ブロガー見学会に呼んで頂いて記事を書くために色々調べたのですが、コンテナ型データセンター実験が行われている背景を見ると、多少違った感想を持ちました。
この実験は、日本での規制緩和を含む大きな流れの中の動きであり、データセンター事業のコスト削減と激しい低価格競争開始を示唆してそうです。 昨年末にIIJでコンテナ型データセンター実験が開始されていたり、さくらインターネットが石狩市でのデータセンター建設を今年6月に発表していたりするのは、「クラウド特区」という一種の規制緩和を活用するための準備として進められたものだと推測しています。
「クラウド特区」が作られるのは、今後はデータセンター事業が国境を越えてアメリカと競争をせざるを得ない状況になっており、競争に全て負けて国内にデータセンターが全く無い状態になってしまうとIT基盤全てを他国に依存するという非常に脆弱な状態になりかねないためだろうと思います。
国際的なデータセンター競争
一方で、「クラウド」の流行とともに注目されているのが、規模の理論と仮想化技術を最大限に活かした「安い」データセンターサービスの提供です。
Google、Amazon、Microsoftなどがアメリカ国内で地方にデータセンターを大規模に設置して国境を越えたサービスを提供しています。 海外のデータセンターを利用するとRTT(Round Trip Time)が大きくなり、TCPによる通信性能が著しく低下したり、日本の法律が適応されなくなったり、現地の情報機関による諜報活動でデータを閲覧されるなどの可能性が指摘される一方で、安さと柔軟性が人気となっています。
総務省「クラウドコンピューティング時代のデータセンター活性化策に関する検討会報告書」
総務省の報告書では、データセンターのグローバルな競争と、それによる国内での課題を以下のように述べています(参考:総務省 自治体クラウドポータルサイト)。
その一方で、データの保管場所であり、データの発信拠点であるデータセンターは、グローバルな競争にさらされることとなった。すなわち、世界中のどこに保管されたデータであれ、情報通信ネットワークを通じて自由に取り扱うことができるようになったため、より使いやすい、もしくはより廉価なデータセンターに情報が集まっていく状況となった。同時に、データセンターは、スケールメリットが発揮されやすいため、集約が進めば進むほど一層低廉に、もしくは一層多様なサービスが提供できるようになるなど、より競争力が強化される傾向が強く、現在わずかにある競争力の差が、数年後に生じる大きな差の原因となる可能性がある。
しかしながら、我が国は、グローバルなデータセンター利用者からデータセンターの設置場所として評価されていると言い得る状況になく、また、我が国においては、クラウドコンピューティング技術のような新たな技術を活用したサービス提供が立ち後れていると言わざるを得ないことから、現に海外に設置されたデータセンター(以下「海外データセンター」という。)を用いて提供されるサービスを日本国内から利用することが近年著しく増加(データ流入量の増加)しており、我が国のインターネットトラヒックのうち、4割以上が海外から日本国内に流入するトラヒックで占められている。
海外データセンターから発信されるトラヒックは、我が国の電気通信事業者の収益には結びつかないにもかかわらず、当該トラヒックに対応するための設備投資を行わざるを得ないために、そのコストが国内通信料金に転嫁される恐れがある、海外データセンターから発信されるデータには基本的に国内法が適用されない、情報を集約することは新たな社会経済活動を生み出す求心力となる中、海外に蓄積されたデータでは国内におけるビジネス創出を困難にする、巨大なシステムの構築・運用や膨大なデータ分析を行うことができるエンジニアの育成の場がなくなる等の問題がある。特に、情報化が進んだ現代社会においては、情報を集約し、その集約した情報を分析することを通じて新たな産業を生み出していくことが、更なる発展を遂げるためには必須となっており、情報の集約点であるデータセンターの重要性はますます高まっている。
このような状況が「クラウド特区」という動きになったようです。
- 内閣官房 地域活性化統合事務局 構造改革特区及び地域再生に関する検討要請の実施について(お知らせ)
- EnterpriseZine: 総務省「クラウド特区」は成功するのか?大規模データセンター誘致を巡る障壁
- YOMIURI ONLINE: クラウド普及視野、ITデータ拠点を誘致へ
- 『ビジネス2.0』の視点:クラウド(データセンタ)特区(仮称)に関する公開情報まとめ
- 『ビジネス2.0』の視点:構造改革特別特区にコンテナ型データセンターを提案する自治体一覧
内閣府資料に記載されているクラウド特区
この「クラウド特区」の特徴に関して非常に乱暴にまとめてしまうと、「原則として人が立ち入らないコンテナ型データセンターを建築物とみなさない」ということです。 それによって、建築基準法や消防法の一部条項から解放され、建築コストが軽減されます。 「クラウド」という形態を取る事で「人が入らない」という前提を造り上げる事ができるので、それによってコストを削減できる形です。
(続く:次へ)
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