選択肢を減らすことの重要性
Google TechTalksでBarry Schwartz博士による講演が公開されていました。 「The Paradox of Choice - Why More Is Less」というタイトルでした。
最初は、UNIXコマンドのmoreがlessよりも劣っている理由の事だと思って見始めましたが、そうではありませんでした。 何でも選べてベストじゃないと満足しないというのは、アメリカ人っぽい気もしましたが、かなり面白かったです。 ユーザビリティと機能の問題は良くある問題ですが、お店で展示されている商品の種類を減らした方が売り上げが上昇する話などが新鮮でした。
以下に要約してみました。 ここでは書いていない部分も多いので、詳細はビデオをご覧下さい。 字幕も入っていますし、ゆっくりと話してくれる人なので非常に見やすいと思います。 ただ、スライド(PPT?)が見られないので、何故観客が笑っているのかが解らないのが残念です。 内容によってはスライドが映る事もあるので、恐らく写せないような微妙な内容の風刺画だったのだと勝手に想像しています。
世の中には Official Syllogism があります。 (Syllogism : 三段論法、もっともらしい理由付け) 多くの場合、自分でそれを行っている事に気がつかない。 それが間違っていると言う証拠が蓄積されてきて初めて気がつく。
例えば「人々が自由になればなるほど幸福になっていく」と皆が思っている。 他に考えようがあるでしょうか? これは、考えるまでもありません。
次は「人々に選択肢が多く与えられていればいるほど、自由は多くなる」という考えです。 選択が出来ない自由とは何でしょうか? 多くのアメリカ人にとっては、自由と選択は同義だと言えるでしょう。
これらを組み合わせると「選択肢が多ければ多いほど人々は幸福になる」ということになります。 ただ、これは単なる三段論法に過ぎず誤りです。 これが誤りであるということを説明して行きたいと思います。
私の近くにあるスーパーマーケットでは、ドレッシングが山のようにおいてあります。 さらに、ドレッシングを作るための原材料を色々選べます。 組み合わせは無限に近くあります。
昔、電話と言えばAT&Tでした。 それ以外に選択肢はありませんでした。 今は、長距離、短距離などで選べます。 さらに、携帯電話も発展しています。 MP3プレイヤーが入っていたり、色々です。 ただ、現在は買えなくなった種類の電話機があります。 単に通話の機能しか持たない電話機です。
昔は、医者に行けば薬を処方されてどうすれば良いか教えてもらえました。 今は、医者に行くと現状の説明と取り得る選択肢の羅列が行われます。 多くの選択肢を渡された患者が「先生ならばどうしますか?」と聞いても「私はあなたではありません」という答えが返ってきてしまいます。
最近では、一般人が自分で購入する事が出来ない薬のCMがテレビで多く出ています。 なぜこれが成り立つかというと、次の日の朝にコマーシャルを見た人が医者に電話をかけて「薬Xを薬Yに変更してくれ」というためです。
仕事も選択肢の増加によって変わりました。 ITの発展によって、地球上のどこにいようが1分単位でも仕事ができるようになってしまいました。 子供のサッカーのつまらない試合を見ながら、携帯電話とノートPCを持っていると「仕事をここでしようか?」と考えてしまいます。 結局つまらない試合を見続けることを選択したとしても、仕事がそこでできると言う選択肢を選択することは30秒毎に考え続けてしまいます。
2世代ぐらい前は、できるだけ早く結婚して子供を産むことは当たり前とされていました。 選択肢は一つだけで、誰と結婚するかでした。
現在は、そのような時代ではなくなりました。 現在は、結婚するしない、子供を産む産まない、いつそれらをするか、その他色々は全て選択可能です。 デフォルトの選択肢というものはありません。
今の若い人は、昔の人よりも考えなければいけない事が非常に多くなってしまいました。 その多くは、昔の人ならば考えなくても良いことでした。 結果として、私が与える宿題をこなす時間が減ってしまったと言えると思います。 これは悪いことではありません。 私が課題で出した論文を読むよりも、将来のロマンチックな人生がどうなるかを考える方が重要です。 まあ、時間をかけたとしても賢いロマンチックな選択をできるとは思えませんが。
選択肢が多いということ
選択肢は良いことです。 ただ、人々が忘れているのは、それが悪いことでもあることです。 自由と選択肢には負の側面があるということは今まで無視され続けていました。
以後の説明は、ひたすら悲観的です。 負の側面を列挙します。 忘れてはいけないのは、選択肢というのは良いものであるということです。 ただ、思ったよりもすばらしくはなかっただけです。
選択肢の多さは機能麻痺(Paralysis)を引き起こす
あまりに選択肢がありすぎるために、結果としてどれも選ばない
- ジャムの販売を行った実験
- 24種類のジャムを試食で置いた
- 6種類のジャムを試食で置いた
- 24種類のジャムを置いた方が人々は興味を示した
- でも、実際に購入した人は6種類を置いたときの方が10倍だった
- 大学での宿題
- エッセーのトピックは30種類から選べるようにした
- 6種類のトピックから選べる方もやった
- 6種類のトピックの方がエッセーの提出量が多かった
- Speed Dating (合コン、ねるとん?)
- 一日でのお見合いの12組を行うよりも6組の方がカップルができあがった
- 401kの選択肢
- ファンドの数を増やした方が従業員が参加しなかった
- ファンドの種類を10個増やすと参加率が2%下がった
- スーパーマーケットでの展示品の数を減らす実験
- 強いブランドが良く売れる
- その店の独自ブランド商品が売れなくなる
- 高い物が良く売れるようになる
- 客はものの種類ではなく、棚に置いてある量を気にする
- 商品がいっぱいつまれていればそれで良い
- 商品を減らしたことによって、いっぱい買うようになるし、満足するようになる
- 品数を減らした方が全体的な売り上げは伸びる
- (途中で質問が入り、まだこれに関してはそのような研究事例があるだけで全てにおいてこれが真とは限らないというような事を言っていた気がします)
もし、あなたが探しているものが何であるか良くわかっているのであれば、選択肢は多い方が良いです。 選択肢が多い方が、本当に欲しいものが何かをわかるからです。 ただし、そのような事はほとんどありません。 例えば、車の詳細な機能を全部羅列して買う人はいません。 いくつかの基準、例えば安全性などをもとにどの車が良いか選ぶというのがほとんどです。
最悪の選択を誘発する
Speed Datingで相手を選ぶ基準を、賢い事、魅力的であること、笑わしてくれる事、やさしいこと、理解してくれる事、知的であること、イケテルか、など多くの基準を持ちすぎると、 結果として人を選ぶときに単純化しすぎてイケテルかだけを基準に選んでしまう。 そして、次の日の朝に起きて過ちを後悔する。
あまりに複雑すぎる要求は単純化されてしまい、最悪の選択をしてしまうことになる。
401kで選択肢を与えすぎると、何も考えずに銀行に預ける人が増えていく。 ダーツでどれかを選ぶ方がまだマシ。
満足度が低くなる
- 選択肢を多く与えられて、結果として良い判断が出来た人の満足度
- 選択肢が多くなる事によって良い選択ができるようになる
- ただし、気分は最低になる
- CDプレイヤを評価する実験
- 21個の機能があるCDプレイヤが良いと言った
- 21個の機能があるCDプレイヤを使わせた
- その後、7個の機能しかないCDプレイヤを使わせた
- 被験者は7個の機能のCDプレイヤを選んだ
- ユーザビリティと機能にはトレードオフがある
- 機能は少ない方がユーザビリティは向上する
- 考えていると、機能は重要だと思われるが、実際にはユーザビリティが重要になる
- 人々は複雑すぎる機能によって苦労しているが、新しい機能がある機器が出ると、それを買ってしまう
- 全ての機能を使う人はほとんどいない
- 機能が多いものは、普通のことをするのが難しくなる
- 後悔する
- 選択肢が多ければ多いほど、あっちの方が良かったかもと思ってしまう
- 選択肢が2個ならば自分の選択に迷いは生じないかも知れないが、選択肢が200もあれば誰でも迷ってしまう
- 後悔してしまうと、選択肢に対する満足度が下がる
- 魅力が薄れる
- アンケートの謝礼として2ドル、もしくは2ドル50セントの価値があるペンを選べるようにする。
- 75%の人が良いペンを選ぶ
- アンケートの謝礼として2ドル、もしくは2ドル50セントのペン、もしくは安いペン2本を選べるようにする。
- 45%の人がどちらかのペンを選んだ
- 良いペンを使うのと、2本あることを天秤にかけたところ、片方の利点が他方の欠点に見えてしまって、ペン自体に対する興味を失ってしまう。
- 結局、選択肢が少ない方が満足度が高くなる
- Daniel KahnemanとAmos TverskyによるProspect Theoryがある
- Las Vegasまで飛行機で行くのにいくらだったら払うか聞いてみる
- 別のグループにSeattle、LA、Las Vegasに飛行機でいくのにいくらだったは払うか聞いてみる
- 前者はLas Vegasに行く事だけを考えられる
- 後者は他と比較をしてしまう
- 後者の被験者の方が明らかに低い額を言うようになる
- 期待が大きくなりすぎてしまう
- 選択肢が多くなってくると、良いものでは満足しなくなる
- 考えうる最高のものでないと満足しなくなる
- 結局、選択肢を増やす事は人々の期待を大きくするだけだ
- 自分を責める
- 最高の選択ができなかったのは何がいけないのか
- 選択をした自分が悪い
- 2つのジーパンからしか選べなかったら、悪いのは世の中だ
- 200種類から選べた場合、選んだ自分が悪い
- 高すぎる期待との組み合わせ
- 良いことには飽きてきて、悪い思いはエスカレートしていく
- おいしいご飯を食べているとうれしい
- 段々お腹が満たされてくると満足度は減ってくる
- でも、全部食べ終わらないといけない
- 気分が悪くなってくる
どうするか
- 専門的なエージェントを雇って選択をしてもらって結果だけを見ればこのような問題は発生しない
- エージェントは選んだものを使うわけではない
- そのため、選択に対する自責の念にはかられない
- 選択をする人と、エクスペリエンスをする人をわける
- 自分で選んだよりも満足する
- エージェントがあまり知識が無い人でもこれは成り立つ
- Richard Thaler 「Libertarian Paternalism」
- 運転免許取得時に臓器ドナーになるかどうかを聞かれる
- アメリカでは28%が同意、85%が制度に賛成
- ヨーロッパでは90%が同意
- 違いは、アメリカではYESというとドナー、ヨーロッパではNOと言わなければドナー
- どちらも、チェックボックスをチェックするという行為には違いはない
- 最終的には、人々が何もしないときに何を選択させるかというのが非常に重要である
- 何もしないときには良い事が起きるようにしてあげることが重要なことである
- defaultが何かを考える事は非常に意味がある
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